9.ボクの大事な恋人、マリカ

「ねぇ、マリカ」

「ん?」

「お願い事叶える期間て、決まってないの?」


高校も大学も卒業し、ボクは社会人になった。

健康体のまま。

マリカと付き合ったまま。

今ボクは、マリカと同棲をしている。

とは言え、実はまだ、ボクとマリカは結ばれてはいない。

だって、マリカが頑として拒むから。

いいトコまでは、いくんだけど、ね。

最後の最後で、いっつもオアズケ。

・・・・コレ、結構、キツいよ?

健全な男子にとっては。


今日もオアズケを食らってしまったボクだけど。

ボクの隣で微睡むマリカの、美しい銀色の髪を好きなだけ触っていられるこの時間は、ボクのお気に入りの時間。

マリカは、家では素の姿に戻ってくれるから。

それがまた、すごく、嬉しい。


「あるにはあるけど」


気怠そうに開いた目は、ボクの大好きな、真っ赤な瞳。


「心配するな、人間の寿命より、遥かに長い」

「そっか」


マリカの答えに、ボクは心の底からホッとした。

良かった。

そして、思った。

どうりで、急かされないはずだ。

ボクの、3つ目のお願いを。


実はもう、ボクは3つ目のお願いを決めていた。

でも、それが叶ってしまったら、きっとボクは、死んでしまうんだと思う。

ボクは自分が死ぬのは、構わないんだけど、両親は悲しませたくない。

小さい頃に、さんざん心配をかけてしまったから。

だから、死ぬなら、両親を見送った後で。

でも両親には、いつまでも元気で長生きして欲しい、とも思うわけで。

だからずっと、怖かったんだ。

3つ目の願いを、急かされることが。


だけどさ。

普通、すぐ目の前に欲しいものがあったら、そんなに長いこと、待てないよねぇ?

マリカが欲しがってるボクの魂は、すぐ目の前にあるっていうのに。

マリカは、なんでこんなに待っててくれるんだろう?

・・・・ボクはもう、限界みたい。

もう待てないよっ、マリカ!


「ねぇ、マリカ」

「ん~?」


ぼんやりとした赤い瞳を向けるマリカの耳元で、ボクは囁いた。


「したい」

「・・・・え?」

「もう、我慢できない」

「・・・・え・・・・えっ!まて、まてまてっ、輝っ!」


慌てふためくマリカを押さえつけて、ボクは言った。


「やだ。待たない」

「あきらっ・・・・ちょっ・・・・」


往生際が悪いなぁ、マリカは。『すげー悪魔』のクセに。


「そっ・・・・それとこれと・・・・は・・・・っ」


ひとつひとつに気持ちを込めて、マリカの真っ白な肌に、たくさんのキスを落とす。

やがて、マリカの吐息に甘さが滲み始めた頃。

ふと、ボクは心配になった。


「ねぇ、マリカ」

「・・・・なに?」


問い返す囁き声がものすごく艶っぽいとこ、申し訳ないんだけど。


「やっぱ、避妊てしなきゃ、ダメ?」


そしてその日もやっぱり、ボクはオアズケを食らってしまったのだった。

マリカ、答えてくれなかったんだけど・・・・しなきゃダメだよね、やっぱり。

だって。


もし仮に、子供が出来たとしても。

ボクは多分、その子の成長をマリカと一緒に見守ることは、できないだろうから。

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