6.ひとつ目の願いが叶って

奇跡だ、と。

何人もの医者に言われた。

ボクがマリカと契約した時、両親は既に、ボクの余命宣告を受けていたらしい。

心臓移植が叶わなければ、あと半年も持たないだろうと。


そんなボクも、今ではもう高校生だ。

それもこれも、マリカのお陰。

ボクのひとつ目の願いを、マリカが叶えてくれたから。

ボクがマリカと契約を交わした、その日のうちに。


『ボクの体を健康にして欲しい』


それが、ボクのひとつ目のお願い。

マリカ曰く、


『寝ぼけてたって、できる』


くらいの、お安いご用だったらしい。

マリカは本当に『すげー悪魔』のようだった。

直後にボクは、完全な健康体になっていた。

壊れかけていた心臓はもちろんのこと、ありとあらゆる全ての数値データが、ボクが健康であることを示していて、担当医などは、腰を抜かさんばかりだった。

そして、両親は。

涙を流して喜び、神様に感謝をしていた。


悪魔なんだけどね、ボクを健康にしてくれたのは。


でも、幼いながらもボクは、マリカのことは、誰にも話さなかった。



「マリカ」


部屋の中で、マリカを呼ぶ。


すぐに現れたマリカは、特に警戒すべきものが無いことを確認すると、不機嫌そうな顔でボクを見た。


「お前、気安く呼び出し過ぎだぞ。あたしを暇潰しに使うな」

「マリカ」

「なんだ?」

「言葉遣い」

「ちっ」


もはや、今では隠そうともせず、マリカはボクの目の前で舌打ちをする。


「で?今日はなんの用なの?」

「ちょっと、マリカの顔が見たくなった」

「アホかっ!そんなくだらんことで、イチイチ呼ぶなっ!」

「・・・・マリカ?」

「・・・・用も無いのに、呼ばないでもらえるかしら?」


真っ赤な瞳をうすーく開いて、マリカがボクを睨む。

毎回、マリカとは、こんな感じ。

まだ幼かったボクが突然健康になって、外の世界に初めて出たばかりの頃は、怖いことがたくさんあったから、その度にマリカを呼び出して守ってもらったりもしていた。

マリカ曰く、


『お前みたいに、何の汚れも無い魂を持ってる人間なんて、滅多にいないんだ。色んな奴に狙われて当然だ』


らしい。


・・・・実際、『色んな奴』に狙われた。

まぁ、ボクに言わせれば、一番怖かったのは結局、【人間の悪意】だったけど。

でも今考えれば、その【人間】たちは、他の悪魔に操られていたのかもしれない、なんて思う。

可哀想だな。

マリカみたいな可愛い悪魔に出会っていたら、【悪意】なんて持たなくて済んだかもしれないのに。


今は、マリカに守ってもらうようなことは、ほとんどない。

ボクもそれなりに、強くなったからね。

それとも本当は、ボクの知らないところで、マリカが守ってくれているのかもしれない。

まだ幼かった、あの頃のように。

だけど、マリカに会えない日が続くと、なんだかすごく寂しくて。

顔が見たくなって、ボクはつい、マリカを呼び出してしまうんだ。

だって、可愛いから、マリカは。


でも、今日ボクがマリカを呼び出したのには、理由があった。

まぁ、顔が見たかった、っていうのも、理由のひとつではあるけどね。


「用がないなら、帰るわよ」

「待って」


消えそうになるマリカを、ボクは慌てて引き留めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る