5.ケイヤクのギシキ

お姉さんはまた、コホンと一回、咳をした。

ボクがイチゴミルクのアメを取り出してあげると、黙って受け取って、口に入れた。

お姉さん、ほんとうに好きなんだなぁ、イチゴミルクのアメ。


「約束するには・・・・契約には、儀式を行う必要がある」

「ギシキ?」

「そうだ。人間と悪魔の契約の儀式だ」


お姉さんは、すごく真剣な顔をしていた。

真っ赤な瞳がギラギラして、ボクはなんだか少し、怖くなったけど。

お姉さんからは、イチゴミルクのアメの匂いがしていて。

お姉さん、怖いけど、なんか可愛い。


お姉さんが右手を上にあげると、いつの間にかそこにはペンがあった。そして、左手には、茶色っぽい紙。


「輝。ここにサインしろ」

「サイン?」

「名前を、書け」


そう言って、お姉さんはボクの前に紙を置いて、ペンを持たせた。

でも、ボクは、どうしても我慢が出来なくて、お姉さんに言ったんだ。


「お姉さんは、ボクとケイヤクしたいんだよね?」

「あぁ、そうだ」

「だったら」

「なんだよ」

「その言葉遣い、ちゃんと直して」

「・・・・はぁっ?!てめ、調子にのってんじゃ」

「イヤなら、ケイヤクしない」

「・・・・クソっ!」


お姉さんは、真っ赤な瞳でボクを睨んだけど。

すぐにため息をついて、言った。


「わかったわ、直すわよ。これで、いい?」

「うん!」


お姉さんぽい、言葉遣い。

すごく、いい!キレイなお姉さんに、似合ってる!

ボクはちょっとドキドキしながら、お姉さんの目の前で、茶色の紙に名前を書いた。

昨日習ったばかりの、覚えたての漢字で。

お姉さんも、ボクの名前の下に、何かを書いた。

外国の文字みたいで、ボクにはなんて書いたのか、全然わからなかったけど。


「あたしの名前を書いたんだよ」

「お姉さんの、名前?」

「そうだ」


ボクとお姉さんが名前を書いた紙を、お姉さんは嬉しそうに眺めたあと、パチンと指を鳴らした。

そうすると、ペンも紙も、消えてなくなった。


「これで契約成立だ。輝、あたしはお前の願いを3つ、叶えてやる。叶え終わるまでは、お前のことは、あたしが全力で守ってやる。何かあったら、いつでもあたしを呼び出せ。あたしの名前は、マリカだ」


お姉さんは、赤い瞳で、まっすぐにボクを見た。

ボクは、その瞳を少しだけ睨んで、言った。


「マリカさん、わすれんぼ?」

「なんだと?」

「言葉遣い」

「・・・・わかったわよ」

「うん」


ちっ・・・・めんどくせぇ。


お姉さんーマリカさんは、小さい声で言ったけど。

聞こえてるよ、ボク。

もう、しょうがないな、マリカさんは。

でも、口をとがらせているマリカさんは、なんだかやっぱり、可愛かった。

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