4.お姉さんとケイヤクをする

ずっと、チラチラと、黒い影が見えてた。

昨日の朝から、ずっと。

お姉さんが、ボクと『約束』をしにきたのに、突然いなくなっちゃったのは、おとといの夜。

きっとお姉さんはいなくなっちゃったんじゃなくて、かくれんぼしてたんだね、ずっと。

だって、ほら。

また、黒い影が見えるもん。


「お姉さん、いるんでしょ?」


ボクがそう言ったとたんに、お姉さんがベッドのすぐ隣に現れた。


「お前、人間のクセに、契約もしないでこのあたしを呼び出すなんて、100年早いっ!」

「だってお姉さん、ずっとここにいたでしょ?」

「くっ・・・・」


なんだかよくわからないけど、お姉さんは怒ってるみたいだった。

話しかけない方が、良かったのかな。

でもボクは、早く叶えてもらいたいお願いがあったんだもん。

しょうがないよね。


「ねぇ、お姉さん。ボクのお願い、3つだけなら、なんでも叶えてくれるんだよね?」

「ああ。契約が完了したらな。おっと、ケイヤクは、まだ分からないんだったっけ・・・・ちゃんと、輝とあたしが【約束】したらな」

「ボク、約束するよ、だから」

「お前、ちゃんと考えたのか?願い事が叶ったら、お前はあたしに魂を獲られるんだぞ?」


お姉さんは、ちょっと怖い顔でボクを見た。

そういえば、『魂を獲られる』って、なんだろう?


「ほら、全然考えてないじゃないか。いいか、人間が悪魔に魂を獲られたら、もう2度と天国へは行けないし、生まれ変わることもできないんだ。未来永劫、ずーっと、悪魔の手下としてこき使われるか、悪魔に取り込まれて消滅だ」


せっかくお姉さんが説明してくれたけど。

ボクにはよくわからなかった。

でも、ひとつだけ気になって、聞いてみた。


「お姉さんは、ボクの魂を、どうするの?」

「そりゃ、取り込むに決まってる」


そう言って、お姉さんはニヤッと笑った。


「お前の魂は極上だ。一点の曇りもない。こんな美しい魂、あたしは今まで一度も見たことないね。だからあたしは、お前を見つけた日から今まで、誰にも触らせないようにずっと守ってきたんだ。お前の魂を取り込めば、あたしは『もっとすげー悪魔』になれるからなっ!」


はははははっ!

なんて、お姉さんはママよりおっきい胸を反らして、なんだかすごく得意気な顔。

そうだよね。

『すげー悪魔』が、『もっとすげー悪魔』になるなら、すごいことだもんね!

でも、お姉さん、そのために・・・・


「ボクのこと、ずっと守っててくれたんだね」

「えっ・・・・あ、あぁ、まぁ、な」

「ありがとう、お姉さん」

「なっ!」


お姉さんの顔が、どんどん赤くなってくる。

瞳の色と、おんなじくらい。

もしかして、お姉さん、照れてる?

なんだか可愛いな、お姉さん。


「やっぱりボク、約束するよ、お姉さんと」

「えええぇっ?!」


お姉さんは赤い顔のまま、またびっくりしてた。

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