第9話

 アイスキャッスルからトキキまで戻ると街の様子がおかしい。宿屋の主人に聞くと治安が極めて悪化してとのこと。放火未遂に強盗、殴り合いの喧嘩など人々の心が荒れ果ていた。邪気の影響でない事を祈ったが、アルとレターに貰った『正義の鏡』をかざすと街を覆っていた黒い霧がはれる。


 こんな北限の街でも……。


 とにかくマリー火山に向かおう。マリー火山は大陸半島にある。船で大陸半島に出発である。途中、船長に話を聞くと、最近は嵐続きで困っていたらしい。


「君たちは何者だい?大きな波が船を避けている」


 八番目の勇者だと言っても信じてもらえないだろうな。


 しかし、この波はどうやら、邪気に招待されているのか。わたしが小首を傾げていると。レナがガツガツとお弁当を食べている。


 ふう~


 深く考えても無駄だ。わたしも食べよう。



              ***




 大陸半島のマリー火山の船着き場に着くとそこに居たのはジルである。


「アルとレターから手紙を貰った。君か、八番目の探求の勇者だね、確かに目の輝きが違う」


 それは驚きと感動であった、あのジルがわたしの事を認めてくれた。わたしがモジモジしていると。


「これから一緒にベートルの討伐に向かう」


 真剣なジルの言葉に改めて事態の深刻さを感じる。ジルは剣を抜刀して遠くに見えるマリー火山にかざす。


「よし、ベートルのもとに!!!」

「良いのですか?邪気のベートルは黒龍と一緒に戦った仲間だから擁護したのでしょう?」

「アリサ君だったね、確かに俺はベートルの討伐に反対した。しかし、長い月日の流れの中でベートルの邪気が溜まり、より危険な存在になってしまった。でも、君に会えた事で迷いは消えた。新たなる勇者の誕生は時代が変わった証拠だ」


 ジルの言葉に迷いは無かった。そしてわたし達は未開の大陸半島を歩いて進むと日が暮れてくる。


「今日はここでキャンプをはろう」


 そう言うとジルは抜刀して剣を地面に突き刺す。剣から炎が噴き出して地面の背の高い草が枯れていく。わたしもマキを集めて火を灯す。これでは火力が足りないな、光粉をたき火にふりかけると明るさが増す。光粉の本来の使い方である。その後の皆の言葉は少なかった


「決戦前夜か……」


 レナが重い口を開く。そうか、最後かもしれないのか……。わたしはジルに『白火』から少女を救ったことがあるか聞いてみることにした。


 『白火』とは鍛冶屋の天敵で、悪鬼が起こす現象である。


「あぁ、あるとも、あの少女も綺麗な目をしていた」


 ジルはその少女がわたしである事に気づいていない。


「何故、その少女を救ったの?」

「その少女の未来を失わせてしまいたくなかった」


 ホント、ジルらしい。わたしは空を眺めると月が輝いていた。あの時から始まった物語はわたしも勇者になり、ジルと共に戦う事になった。そう、わたしは一人前の勇者として戦い、勝つことを誓うのであった。

 朝、キャンプを出発すると噴火でできたと思われる洞窟の入口にたどり着く。


 少し、中に入るとオイルランプが点いている。オイルランプのおかげで洞窟の中は明るい。


「邪気に招かれているのか……」


 レナが不安そうに呟く。


「邪気のベートルとはそう言う男だ、自分を討伐しにくる者を歓迎するのだ」


 ジルの説明で一層の恐怖を感じるのであった。しかし、邪気のベートルの信念を確かめたくなった。何を思い、どうして、街が炎上するまで邪気を貯めたのかを知りたくなったのだ。


「なにその瞳は、これが『探求』の力なの?」


 レナが驚いてこちらを見ている。


「そうだ、好奇心による探求は八番目の勇者に相応しいモノだ」


 はーぁ、ジルの言葉にわたしはそんなものかなと。ま、自覚は薄いが凄い力らしい。そんな話をしながら洞窟の中を進む。すると、大きな空洞が広がり地底湖まである。


「お帰り、ジルに……見たところやはり勇者に近い存在の子猫ちゃん」


 顔立ちの整った青年が奥から現れる。


「わたしは八番目の勇者である探求のアリサです」

「ほーう、光と闇に認められたか。このワクワクはそのせいか……」


 ベートルは地底湖に近づき笹舟を置く。


「見たまえ、この洞窟の中だと言うのに、勝手に進む。僕は占いが好きでね。この世界を焼きつくすかを占いで決めたのだよ」


 一呼吸おくとベートルは更に上機嫌で話を始める。


「この地底湖は世界の気の流れに影響を受けている。新しい力が生まれた時に反応するのだよ。それは勿論、探求のアリサ、君もことだよ」


 それで、光と闇の二人はわたしが旅に出ると邪気が動き出すと警告したのか。しかし、討伐できるのもわたしだけだと。


 少し複雑な気分だ。わたしは目を瞑り深呼吸をする。ジルに迷いが無いようにわたしの迷いも消えていく。

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