第8話

 わたし達は髭ジイに頼んで北園の港町、トキキに来ていた。目的地はこの街から更に北にあるアイスキャッスルである。アイスキャッスルは古代文明の遺跡で今は光と闇の七人勇者が住んでいるらしい。あたし達は髭ジイのアドバイスで防寒着と犬ぞりを手に入れる事にした。ここから先は人を寄せ付けない氷の国である。


「そう言えば、髭ジイは光と闇の七人勇者の名前を知っていて?」


 別れ際に髭ジイに聞いてみる


「確か、光がアルで闇がレターであったはずだ」


 そうか……わたしは名前すら知らない。本当に大丈夫であろうか。わたしがブルーな気分でいると。


「姉ちゃん、餞別だ。氷の世界でも簡単に食べられるぞ」


 髭ジイは携帯食料を手渡してくれた。さて、出発だ。


 トキキを出発して三日目であった。雪に覆われた遺跡にたどり着く。アイスキャッスルである。わたし達は犬ぞりを降りて遺跡を調査する。


……。


 人の住んでいる様子はない。ここまで来てハズレだと!!!


「アリサ、もう少し調査してみましょう」


 うん?今なにか動いた。氷魔人であった。厄介だな……氷魔人は上級モンスターだ。


「やるか」


 レナは抜刀して構える。仕方がない、わたしはピコピコハンマーを取り出して『グランドブレーカー』にする。


「わたしが足を切る、そのスキにグランドブレーカーでとどめを頼む」


 レナは剣に炎の魔法をかけると素早く右足を切り裂く。しかし、氷魔人の右足は雪が集まり修復される。簡単には倒せないらしい。


「落ち着け!この手のモンスターには核がある、作戦変更だ、グランドブレーカーで粉々にして、わたしが核を攻撃する」

「よし、わかった」


 わたしはグランドブレーカーで攻撃する。上から一撃で氷魔人は崩れる。やはり、雪が集まり再生していく。


「あまい」


 レナは光り輝く核を見つけて攻撃する。氷魔人の再生が止まり崩れていく。


 おや?


 倒れた氷魔人の後ろに空間の歪みが見える。光と闇の七人勇者はこの中か……。




           ***




 アイスキャッスルに開いた空間の歪みは、階段の入口であった。ひたすら登る階段である。上を見ても霧が深く、前は見えない。


 小一時間ほど上がるとようやく霧がはれて目的地に着くのであった。そこは小さな神殿のある浮島であった。


「ひ~や、空のうえに浮いているよ」


 レナから絶叫が漏れる。本当に光と闇の七人勇者は時や空間を操る事ができるのか。わたし達が神殿に近づくと。同い年くらいの男女二人が出てくる。


「あなた達が光と闇の七人勇者のアルとレター?」

「はい」


 男性のアルが返事を返す。


 しばしの沈黙に入り、なにやら観察されている様子である。


「やはり、『探求』の力を持っている。邪気に対抗できるはずだ」


 レターの言葉にレナが苦笑いをすると。


「冗談がキツイよ、七人勇者の一人を戦うだと……」


 確かにそうだ、世界の半分を焼きつくした黒龍を倒した勇者だ。しかし、二人は真剣であった。おっと、ここに来た目的は火のジルの居場所を聞く為だ。わたしがジルの居場所を聞こうとすると。


「アリサ、あなたは『探求』の八番目の勇者になってもらいます」


 え!!!


 わたしの驚きなど関係なく、アルとレターは手を繋ぎ、なにやら術をかけている様子である。すると、空に光と闇の塊が現れて、一つになる。


「光のマテリアルと闇のマテリアルが融合して、新しきモノをつくる……」


 アルが呟くと現れたのはわたしである。


「今から、セルフと戦ってもらいます。勝てば『探求』の勇者、負ければ死です」


 レターの言葉に目の前のわたしはグランドブレーカーを取り出す。


 やるしかないのか……。


 わたしはピコピコハンマーを取り出してグランドブレーカーにする。


セルフとの闘いが始まった。空中でグランドブレーカーが激しくぶつかり派手な音を出していた。グランドブレーカーは大きな金槌なので一撃必殺である。それでいて元がピコピコハンマーであるから素早く動かすことができる。


 しかし、体力は削られていく。セルフの方は呼吸が静かで疲れた様子はない。不味いな……これ以上長期戦になると不利だ。


 わたしは勝機を必死になって考える。相手が実体なき光と闇の塊なら……。そうだ!わたしは道具袋から光粉を取り出す。これは光石を粉にしたものである。それを一瞬のスキを狙ってセルフにふりかける。すると、セルフの動きが鈍る。


 やはりそうだ、光と闇のバランスが崩れたのだ。わたしはグランドブレーカーに全力を込めてセルフを叩く。勝敗はわたしの勝ちであった。


「あれあれ、勝っちゃった。まさかの八番目の勇者になるの!」


 レナがヤジを飛ばす。わたしもびっくりだ。わたしがグランドブレーカーをピコピコハンマーに戻して、汗を拭う。すると、アルとレターが近寄ってくる。


「おめでとう、新米だが八番目の勇者だ」


 その言葉にわたしは邪気の討伐に加わる事になったと考える。わたしは夢を思い出す。旅を始めると邪気が動き出すと。パラレルワールドでトーマトの街が炎上する夢だ。どうやら、時計の針は動き出したと感じるのであった。



            ***



 ここでだ、邪気とは何者であろう?わたしは七人勇者の一人とだけしか知らない。

二人に聞く事にした。


「邪気のことですか……よろしい、話しておこう」


 レターが一瞬アルの目を見て語りだす。


 「七人勇者の邪気ことベートルはその名の通り人間の邪気を使うのです。人々の負の感情を吸い取り戦うのです。そう、元々は討伐される存在でした。しかし、恋人が黒龍に殺されて、わたし達と共に戦うことになったのです。結果的に黒龍を倒したので勇者と呼ばれましたが、黒龍無き後もベートルは人々の負の感情をあおり。とても、危険な存在になりました。わたし達、二人はベートルの討伐を志願しましたが残りの四人は擁護して今にいたるのです」


 アルとレターはとても悲しそうにしています。


 わたしは心が痛みました。


「問題はこれから……。ベートルの負の感情が溢れ出る兆しがあるのです。わたし達が時間と空間の力を使い未来を予知すると炎に包まれる街の姿が浮かび上がったのです」


 その言葉の後、二人は決意の表情に変わり。


「探求の勇者ことアリサ、鍵になるのはあなたです。わたし達はベートルに手の内を知られています。新たな勇者であるあなたに邪気のベートルを討伐して欲しいのです」


 ふと、隣のレナを見ると。やる気満々です。ここはわたし達が世界を救っちゃおかな。


「その目の輝き、もう、一人前の勇者です。ベートルはマリー火山にいます」


 オリハルコンの牙がもたらした七人勇者との出会いは運命だったのでしょう。わたしは探求の勇者として世界を救うことにしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る