第7話
わたし達はシルバーレイクを後にして西に進んでいた。港町のフルーレに向かう為だ。ガザーブからシルバーレイクの道は無かったが、フルーレへの道は微かにある。獣道でもあるだけましだ。
うん?立て看板がある。
『山賊注意』
あーモンスターより厄介な事が書いてある。モンスターよけのランタンも効かない。殺してしまうと後味が悪い。若い娘の二人旅、完全にアウトだ。
「これって、狙われるよね」
レナが、今、思っていた事を声にだす。
「よし、グランドブレーカーをかついで歩こう」
わたしはピコピコハンマーを取り出して巨大化させてグランドブレーカーにする。
「レナもなにか威嚇する魔法剣はないの?」
腕を組んで小首を傾げる。
「魔法剣は精神力を消費して作りだすのよ」
要はマジックエネルギーが切れてしまうと。仕方がない、用心して歩くしかないな。しかし、テントで寝る時はどうするのだ? わたしは色々策を練ってみる。
「あれだ、索敵魔法は使えないのか?」
「剣を地面に突刺して、半径五メートル程の索敵は可能だが寝た状態からでは狭すぎる」
やはり、モンスターよけのランタンが効かないのは痛いな。
「そうだ……レナは光の魔法は使えるか?」
「何故だ?」
「光を屈折させて見えなくするのだ」
「そうか!その手があった!」
レナは道具袋を取り出して、わたしに見せる。
「光ダケの粉だ、この粉をかければ透明になる」
怪しい道具を持っているなと呆れるがこれで問題は解決した。
***
港町のフルーレでわたしは困っていた。風の七人勇者のブロスのいるミミマ島に出る船が天候不調で止まっていたからだ。今日も港に行きミミマ島に行く船を探していた。おや、大型貨物船が出港するらしい。
「あの、すいません、ミミマ島に連れて行ってくれませんか?」
「ダメだ、あそこは危険過ぎる」
船長らしき人に声をかけるが断られる。
「そうだ、髭ジイに聞いたらどうだ」
髭ジイ?
「港の端に船がある」
わたし達は髭ジイを探す事になった。それから、港の端に行くとオンボロ船がある。うん?中から誰か出てくる。ふらふらと出てきたのはちょび髭の老人である。
「あ、、あのー」
わたしは勇気を出して声をかける。
「なんだ?借金なら返せないぞ」
ぶんぶんと首を振り謝金取でない事をアピールする。ジト目で見ている髭ジイは不審そうに見ている。ここは要件を早く言った方がいいな。
「わたし達はミミマ島に行きたいのです」
「ブロスに会いたいのか?」
「はい」
髭ジイは腕を組み真剣な表情になる。
「ミミマ島は風の巣だ、命がけになるぞ」
「覚悟はできています」
「なら、賭けで決めないか?」
ヒゲ爺はゴソゴソとズボンのポケットをあさり銀貨を一枚取り出す。
「これを投げて、表が出たらタダで連れて行く、裏がでたら金貨十五枚だ」
この老人は博打好きなのか……困ったな、金貨十五枚では旅の資金がなくなってしまう。
「いいとも、わたしがその賭けを受ける」
一緒にいたレナが突然、話に割って入る。
「よし、勝負だ」
髭ジイは銀貨を上に投げる。結果は表であった。
「やれやれ、ホント博打は止めないとな」
頭をかき気だるそうになる。しかし、これでミミマ島に行ける。
ミミマ島の周辺は風の巣である。晴天でも強い風が吹いている。この時期の西風は種まきの季節風と呼ばれて船乗り達から恐れられている。オンボロ船での旅は地獄であった。そう、船酔いである。
「ゆ、揺れない、大地、大地……」
吐く物がなくなり、水だけが漏れる。まさにリバースエンドである。レナはと言うとケロッとしている。
「何故に?」
「万能薬を沢山飲んだ。毒でも麻痺でも大丈夫なやつ」
船酔いにも効くのか……。
「おい、姉ちゃん達、ミミマ島が見えてきたぞ」
島には建物と小さな港がある。
「船が強い風で安定していないのに停泊する。ここが、船乗りの腕の見せ所だ、」
そんな事はどうでもいい。揺れない大地が一刻も早く欲しい。
港に着くとわたしは先ずは地面にスリスリする。
「おぉ、揺れない大地だ」
「アホなことやってないでブロスを探すわよ」
わたしが地面に抱擁されているとレナが小馬鹿にしてくる。
「あい……」
なんとか返事を返すとミミマ島の大きさを見る。大体、貴族の邸宅程度。森の中ほどに建物が見える。
「あの屋敷が怪しいわ。行きましょう」
レナはすたすたと歩き初める。
「待って、体が重すぎる」
わたしはリバースエンドから立ち直れていない。そこで、持参した、甘い飲み物を飲む。
「ふ~生き返った」
よーし、七人勇者の一人、風のブロスを探すぞ。
***
「ところで、風の七人勇者のブロスってどんな感じなの?」
わたしは島にあるお屋敷を目指して歩いていた。その合間にレナに聞いてみるのであった。
「二メートルを超える大男よ」
へー。
世界の半分を焼きつくした黒龍を倒した七人勇者である。余程、屈強な姿なのであろう。そんな事を考えていると、お屋敷に着く。ぶ厚いドアを開けると……。
「すみません、誰かいませんか?」
わたしは大声で言ってみる。
「はーい」
なにやら幼女が現れた。
「あのー、七人勇者の一人であるブロスを探しています。このお屋敷にいますか?」
「わたしがブロスです」
はい?二メートルを超える大男でなのか?わたしが戸惑っていると、レナはブロスと話し始める。
「ブロスさんですね、わたし達はオリハルコンの牙を探す許可をもらいにきました」
レナの言葉に幼女のブロスは自分の頬をさすりながら答える。
「ゲームをしない?アームレスリングでわたしに勝てたら許可を出すわ」
なんと簡単な、この幼女の肌は白く腕は華奢であった。それから、広間に通されるとそこにはアームレスリングの装置が置いてある。
「ふ、ふ、ふ、わたしが戦うわ」
レナにそう言うと腕をぐるぐる回す。うん?ブロスがなにやら集中している。
『エア・ドール・プレジデント』
フロスの決め台詞が唱えられると。壁に飾ってあった甲冑が動き出す。確かに二メートルを超える大男に見える。
「わたしは空気の糸でこの甲冑を動かしているの。さ、勝負よ」
アホか!勝てる気がしない。しかし、ここは頑張るしかない。
……。
「あ、い、たたた」
普通に負けた。ここは一旦、戦略的撤退だ。
「また、来ますので、少しお待ちを……」
わたし達は髭ジイの船まで戻るのであった。
「髭ジイ、ブロスに負けた……」
「ひ、ひ、ひ、やはり、敵わなかったか」
髭ジイは敗走してきたわたし達を笑う。
「このスペシャルアイテムを使えば勝てるぞ」
なにやら、嬉しそうに封筒を取り出す。
「ジャン、ジルのブロマイドだ」
あの七人勇者の一人である火のジルである。
「成功報酬でいいから銀貨三枚だ」
「ホントに成功報酬でいいの?」
「ケチケチした事は言わないぞ」
わたしはジルのブロマイドを受け取ると再びお屋敷に向かう。おや?レナ元気が無いぞ。
「どうしたの?」
わたしの問いにレナは重く口を開く。
「ウッドはショタ、ティアは若作りのおばさん、ブロスは幼女……わたしの好みが居ないのであるよ」
うーむ。何を期待していたのだろう。ここはそっとしておいてあげよう。そんな話をしているとお屋敷に再び着く。
「頼もう!」
ぶ厚いドアを開けるとブロスに再戦を申し出る。大広間でアームレスリングの台に着くと。
『エア・ドール・プレジデント』
その声と共に甲冑が動き出す。そして、わたしが戦闘態勢になった瞬間にレナがジルのブロマイドを取り出す。
「ああああああ、ジル様だ!!!」
すると甲冑から力が失われる。
「ここだ!」
わたしは腕に力を入れてガシャンと倒す。
***
「わたしの勝ちです、約束通り、許可をくれますね」
「仕方ないな……オリハルコンの牙を探す許可を出しましょう」
ブロスはジルのブロマイドを顔にスリスリしながら話す。そんなにジルがいいのか……。確かにわたしもジルに会って人生が変わった。渋くてダンディなジルこそ勇者を呼ばれるのが当たり前で、熱狂的なファンがいると聞いた事があるがブロスもそうであったか。さて、残りはそのジルであった。旅を続けるジルの居場所は不明である。
「ブロスさん、ジルの居場所を知っているかしら?」
レナが問いかける。
「うーん、ジル様は世界のすべてを見たいと言って旅立ちました。光と闇の七人勇者に聞けば、あるいわ」
光と闇……。七人勇者だから四人以外がいるのか。
「あの光と闇の七人勇者はその力を合わせると時や空間をも操ることができるのです。しかし、わたし達四人と喧嘩わかれをしました。理由が最後の一人、邪気を討伐するかで意見が割れたの。光と闇は邪気の討伐を志願してけれど。わたし達、四人は仲間だと言って養護した結果、二人は去ってしまった」
光と闇……夢で何度か見た記憶がある。わたしが原因で邪気が世界を滅ぼすとか。それでいて救えるのはわたしだけなど。
まだ、ジグソーパズルのピースが足りない。やはり、光と闇の七人勇者に会わないとか……。
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