第6話

 山を降りると小さな村があった。


「なんだい、また、ティア様の苦情かい?」

「苦情?」

「違うのかい?」

「わたし達は七人勇者のティアに会いに来たことはたしかですが……」


 わたしが村人のおばちゃんに戸惑っていると。


「そこ!わたしに要件があるのでしょう」


 青色の衣をまとった女性がやってくる。どうやら七人勇者のティアらしい。


「これはティア様、今、七人勇者まんじゅうを売り込んでいたことです」

「はぃ?」


 何やら力関係が分かりやすい。この村は七人勇者のティアで成り立っているようだ。


「はい、まんじゅうです。これを買わないと、この村からは出られません」


 イヤ、要らないし。


「まんじゅうです、まんじゅうです、まんじゅうです……」


 これは買わないと抜け出せないな。仕方ない買おう。


「で、いくら?」

「金貨一枚です」


 は?高くない?金貨一枚あれば一晩は豪遊できるのに。何やら苦情が出るはずだ。わたしは渋々に金貨一枚を払う。


「毎度ありがとうございます、わたしはこれで失礼します」


 おばちゃんは逃げる様に去っていく。


「それで、あなたが七人勇者のティアですよね」

「そですよ、サインが欲しくて」


 要らないし。何かやりにくな。ここは二人で交渉しよう。わたしは横見るとレナはまんじゅうを食べていた。

「これ美味いぞ」


 あああああ、使えないな、この娘は……。


「そうでしょう、わたしがプロデュースしたまんじゅうですもの」


 なるほどマージンが入るのね。嫌な大人だな。夢を与えるはずの七人勇者なのに。

ここは直球勝負だ。


「わたし達はオリハルコンの牙を探す許可が欲しいのです。銀貨五枚でどうですか?」


 まんじゅうより安いのも考えものだがこれ以上の出費はできない。


「良くってよ」


 わたしが銀貨五枚を支払うとティアはメモ帖を取り出して『許可』と書きわたしに渡す。簡単に許可が下りたな。レナも大人しくしている。


「レナ、ヒイヒイは大丈夫か?」

「あん?まんじゅうで十分だ」

 

 まさに、レナの戯言である。よく見ると、まんじゅうの入った箱はカラになっていた。わたしの分のまんじゅうは無いのか。この寂しさは何だろう?金貨一枚のまんじゅう……。


            ***



 わたし達は村の広場でテントの準備をする。宿屋はあるが嫌な予感がする。正確には村のおばちゃんに止めた方がいいと言われたのだ。流石にこの広場で場所代を取られたらヤクザである。


「あら、庶民は大変ね」


 ティアが寄ってくる。お前が宿屋で儲けようとするからだ。完全に七人勇者の威厳などない。わたしが煙たく扱っていると……。ティアはシルバーレイクの湖面に術をかける。現れたのは巨大な水龍である。


「はー」


 わたしが驚いていると。


「戦ってみる?」


 イヤ、無理だろう。七人勇者の力は残っているらしい。朝、シルバーレイクに日が昇る。


「寂しいね、もう、旅立ってしまうのかい?」


 テントから出て朝日を眺めているとおばちゃんに声をかけられる。


「ティア様も孤独なだけで本当は優しいかたなのですが……」


 人は変わる、いい意味でも悪い意味でもだ。


「あら、もう、旅立つの?」


 わたしとおばちゃんが話していると一旦、離れていたティアが近寄ってくる。


「ティア様、あくどい商売は止めませなんか?」

「ど、どうしたの急に……」

「この旅の方は世界を知っています。七人勇者としての輝きを取り戻して欲しいのです」


 ティアは考え深くシルバーレイクの湖面を見ている。


「良いの?また、貧乏村に戻るけど」

「はい」

「ダメね、すっかり、旅の小娘に洗われてしまったわ」


 どうやら、ティアもきっかけが欲しかったようである。さて、次の七人勇者は風のブロスだ。支度を整えて旅立つ頃にはティアの瞳に輝きが戻っていた。


 そう、人は変わる、ほんの些細なことでだ。

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