第5話

 わたし達はガザーブの都から旅立つ準備をしていた。目的地はここから北にあるシルバーレイクだ。情報によると湖の近くに小さな村があるとのこと。宿屋のカウンターで支払いをしていると。


「あんたら、シルバーレイクに向かうだってね。物好きだね、なんにもない場所だよ」

「水の七人勇者のディアが居るらしいの」

「あ、あの女王様ね……」

「女王様?」

「そうだよ、貴族でもないのに七人勇者だからって高飛車な女性だよ」


 ほうー


「手土産でもあった方が良いかな?」


 レナにしては気のきいたことを言う。


「止めときな、相手は女王様だ」

「とにかく、おばちゃん、情報、ありがとうね」

「あいよ」


 宿屋のおばちゃんに挨拶して検閲を受けて街の外に出る。何故か種を持っているか聞かれた。ガザーブの都は砂漠に湧き水で栄えた街である。この街の作物は周辺の砂漠の町に売られている。ガザーブ産の果実などはブランド化されて高価である。小さな事からコツコツ稼ぐ姿勢がこの都を作っているのか……。


 さて、問題はシルバーレイクまでの道である。雑貨屋で買った旅のコンパスに頼ることになる。旅のコンパスは目的地を指し続ける。それは道が無い事を表していた。


「アリサ、ここを進むの?」


 そこは道なき砂漠であった。わたしは頷き進む事にした。





             ***




 無限にも思えた砂漠を超えると。低木が並び始める。旅のコンパスの誤差からシルバーレイクが近いことがわかる。


「シルバーレイクはまだ?」


 レナの機嫌が悪い。当たり前だ。目の前には山脈が見える。


「この山越えで着くはずよ」

「あがー」


 渋々歩くレナに疲れの様子がうかがえる。


「アリサ、今日はもう休もうよ」

「仕方ないな、時間的には早めだがテントをはることにした。


 うん?近くに小川が流れている。


「アリサ、お風呂と焼き魚、どっちがいいかな?」


 どうやら、炎の魔法剣で小川の水を温めるらしい。火力多めで焼き魚、火力少なめでお風呂にすることである。


 「焼き魚でお願い」


 レナとお風呂に入ると視線を感じるのである。大きな胸が大好物のレナはわたしの胸を見て残念そうにする。


 色々問題のあるお風呂より、お腹の溜まる焼き魚を選ぶのであった。そして、レナは剣を抜き構えると炎が噴き出す。そのまま、小川に突き刺すと水が沸騰する。


「おぉ」


 わたしの歓声と共に小魚が焼きあがる。


 「大物は居ないか……でも、今晩の夕食には問題ない」


 二人で魚を分け合いガツガツと食べる。



                ***



「ねえ?アリサはオリハルコンの牙が見つかったらどうするの?」


 テントの中でレナが話しかけてくる。レナは少しセンチメンタルな気分らしい。わたしは七人勇者のジルに憧れて、ただ鍛冶屋として最強の剣を作る事だけ考えていた。


「レナはどうするの?」

「最強の剣を手に入れて……?」

「そう」


 レナは日記帳を取り出して。


「この物語を出版して印税生活よ」


 最強の剣と関係ないし。


「そう印税で世界中を旅したい」


 レナらしいな……わたしも薄っすらとだがこの旅でわたしは変わった。ジルがわたしと出会ったようにわたしも子供達に夢を与えたい。


「一緒に旅でもする?」


 わたしの言葉にレナは照れくさそうにすると指を上にさして。


 「わたしは印税で大富豪よ。でも、自分で旅費を出すなら一緒に旅もいいかも」


 ホント素直でない。まだ、オリハルコンの牙を探す許可を得る段階である。明日にはシルバーレイクに着いているだろうか。


「さ、寝ましょう。明日は山越えよ」

「えぇ」


 灯を消すとテントの中は暗くなり。


 わたしの意識はゆっくりと消えていくのであった。



           ***



 山越えの途中、レナはフニャフニャしている。寒くなる程の高い山ではないがこの旅で一番の難所であった。上を見ると、ふう、もう少しで山頂である。


「レナ、見えてきたよ」

「何が?」

「山頂よ」

「おおおおお」


 レナの表情は歓喜に満ちていた。そう、山頂に着いたのである。山頂からの眺めはシルバーレイクの湖面が広がり絶景であった。ここに七人勇者の一人、水のティアがいる。


「ぐへへへ……女王様の七人勇者か、ヒイヒイ言わしてやるぞ」


 ……?


 レナが何か妄想している様だ。


「それとも、ヒイヒイ言わされるのか?」


 ま、レナの妄想だし深く考えるのはよそう。わたしも七人勇者に会えると考えると気が引き締まるのであった。


「さて、降りるわよ」


 レナも元気を取り戻して歩きだす。うん?山の下りに入ると低木の道から林に変わる。山越えで気候が変わったようだ。


 すると、霧が立ち込める。


「げ……」


 旅のコンパスがクルクル回り始める。これはいったい?


「モンスターよ」


 レナは剣を抜くとかまえる。わたしもピコピコハンマーを取り出すがこの狭い林の中ではグランドブレーカーが使えない。


「物理攻撃の効かない、この霧自体が大きなモンスターよ」


 なら!


 わたしは魔物よけのランタンを取り出して火を点けてかざす。霧の一か所に反応がある。


「モンスターの核、発見!」


 レナは剣からかまいたちを発生させて核を切り裂く。


 霧が晴れていく……。


 旅のコンパスも元に戻った。


「さて、いっきに降りるわよ」


 モンスターを退け上機嫌のレナであった。

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