第36話  フェイクニュース

匠くんから珍しくLINEがきた。


内容は「揉め事が起きた」なるもので

急かさず返信にて理由を伺うと

どうも先だっての野球観戦に端を発している模様で


続け様に

「安藤さんの一言が、野球部員の逆鱗に触れた」などと教えてくれた。


そんな断片だけを知れた所で

なにがどうなっているのかの

見当さえ付けないでいたから

改めて、朝の通学時に詳しく話を聞くことにした。


 匠「野球部の試合を【茶番】なんて言ったものだから、監督を始めチームの皆が、安藤さんは疎(おろ)か俺達にも憤慨しているらしいんだ」


夢「えっ、本当に?」


匠「その後俺達は直ぐに、あの場所を離れただろ?」


夢「うん」


匠「その態度も気に入らないって言い出してさ、安藤さんなんかは【いの一番】に立ち去ったから、印象が最悪らしい」


夢「鈴木君だったっけ?

彼はどう言っているの?」


そう質問すると、匠くんは躊躇いだした。


明らかに様子が怪(おか)しい。


聞かない方が良いのだろうか?


しかし話題を振ってきたのは匠くんの方だし


ここ迄話したのならば、包み隠さず答える義務がある。




私も気になっている訳だし

「ちゃんと説明してよ!」と

問い詰めてみた。



すると想定外の答えが、彼から返ってきた。




匠「鈴木は退学になったよ」



夢「はぁー?」

いやいやナニそれ

他人の発言だけで、なんであの人(鈴木四郎)が学校を追い出される訳?

それはちょっと変だよ!


他に理由があるの?



確かに彼(鈴木四郎)とその取り巻き(学校も含む)の関係性を、私は知る由も無いけれど


試合の時しか判定が出来ないが


皆とは仲が良い様に映っていたと思う。



特段彼が何かをした訳でもないのに



本当に此の一件で退学になったの?





度を越えた展開に、私も動揺が隠せなかった。



もし全ての原因があの試合ならば

試合なんて見に行かない方が、結局良かったのかもしれないけれど


それ以前に、鈴木君が無理矢理に野球観戦をセッティングした事実を、包み隠さず部の人達に話しておけば、

自然と【茶番】の意味も

野球に無頓着な私達の姿勢も

皆、理解してくれたのではないかと思った。


そうしたら

今みたいな誤解も生まれなかったし


鈴木君だって学校を去らなくても良かったのかもしれない。




あの時の私達は、通りすがりの見物客では無かったのだから・・・・。




聞けば聞く程に、只のボタンの掛け違いなのではと思えてきて


それならば是が非でも誤解を解かなければと


そんな思いが支配的になっていった。





夢「匠くんは事情を説明とかしたの?」

唯一の架け橋なので、進展の期待をしてしまう。




匠「それは・・・あの・・・なんていうか・・・」


又もや歯切れが悪い。


匠「それが、避けられているみたいで、釈明どころか挨拶さえ出来ないんだ」


夢「誰と?」


匠「当事者全員とだよ」


 聞くからに手詰まり感が半端なくて

どうしようもないって域に達しているみたいだった。



もう手の打ち様は無いのかな・・・・・


アポ無しでいきなり押し掛けて釈明しようとしても


今のままだと、流石に会ってもくれないだろうなぁ。





いや待って!



おかしい!



話せてないのに、何故怒っていると分かったの?



不自然じゃない?



匠くんは誰から聞いたの?


もしかして既に学校中に知れ渡っていて、又聞きレベルの告白?


事細かく?




考えれば考える程に、疑心暗鬼という沼に飲み込まれていく感じがして



ひょっとしたら、誰かが嘘を撒き散らしているのではないか?なんて

私には都合が良い解釈も窺(うかが)い知れる展開になってきた。



そんなことを脳裏に巡らしている最中



匠くんは察したのか



「退学になったのは勿論アイツの所為だよ

鈴木は体調を崩しては、よく学校を休んでいたからね

単位も微妙に足らなくて、まともに進級出来そうにも無かったんだ

 原因は無理なトレーニングなんだけど、先生が再三無茶を止める様にって注意したのにも関わらず、アイツは聞き入れずにトレーニングを続けたんだよね」


「補習も拒否したものだから、留年が確定しちゃって」


「それに輪をかけて、安藤さんからキツイ事を言われたらしくて」


「相当ショックだったみたいだよ、それが理由で次の日から学校に来なくなった位だから」


  「不登校ってヤツだよ」


「其を学校側が不正行為とみなしてしまってね、アイツの親と先生が話し合った結果、正式に退学が決まったらしいんだ」と説明してくれた。



夢「そんなことが・・・」



鈴木君は、かなりの【四面楚歌】だったのね。


でも、何でそこまでして野球に入れ込んだのだろ?


ってか、そんな細かい情報もみんな共有してるの?


なんか謎が増えてゆくなぁ・・・




匠「・・・・・」


匠くんの様子が又怪(おか)しい。


夢「どうしたの?」


匠「あのな・・・、なんていうか・・・」


とても言い辛そうで、言葉がなかなか出てこない。



?



夢「匠くん、大丈夫だから言って」


そう言って促したのだけれど


次の瞬間耳を疑う単語を、匠くんは発してきた。



「鈴木も・・・ジェンヌを恨んでるんだ」



はぁ?


ナニそれ?


私関係ないじゃん!


どうしてそうなるの?


私は一度も鈴木君と揉めた事も無いし


怒らせる様な言動も一切無い。


それなのに

どうしてそうなるの?


だんだんと腹が立ってきた。



当然誰が言っているのかを聞き返す。



すると彼はこう答えた。



匠「天瀬雪って同じ学校の女の子から聞いたんだよ」



天瀬雪・・・・・



どこかで聞いた様な・・・・。






なにはともあれ


そうなってくると、どんな手段を講じてでも

釈明をしなければいけないと思った。


出来れば春奈も呼んで3人で。


面と向かって

ちゃんと説明をすれば

どうにか許してくれて


そんでもって疑いも晴れるのではないかと

期待と確信が入り混りながら

静かに決意した。







天瀬雪・・・・・



思い出せないなぁ・・・・。





















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