第30話 ジキル博士とハイド氏
日々コツコツと努力をしてきたお陰かどうかはさておき、大差で今回の試合に勝利したらしい鈴木君のチーム
なんだかんだで最後まで見ていた春奈の視線も相俟(あいま)ってか、始まる前より何段もテンションが上がっていて、その勢いが後押しして
「今日の僕はどうでしたか?」とか、鈴木君は私達にくどく質問をしてきた。
前にも言ったけれど、私は野球のルールを知らない所か、テレビも含めてちゃんと見た事が無い。
そんな良し悪しなど微塵も判らない私に、何か批評をしろと言うのは酷な話で
結局匠くんと同様に愛想笑いを浮かべてその場を凌ごうとした。
しかしながらそんな私達とは違って、春奈だけは返答する気があったらしく
「あー、もう茶番は終わったのね」と
ノールックでDEEPな嫌味をブッ込んできた。
そして無視をしたままで立ち上がると
「さあ夢、森田君帰りましょう」と
撤収を促してきた。
「約束は守ったわよ」
そう彼(鈴木君)に言い放つと先に立ち去っていく春奈
「チョット待って下さい、安藤さん!」
鈴木君が即座に後を追う。
ドコ迄も追い掛けていって
やがて2人は小さくなり
そして見えなくなった。
急に静かになる。
置いてけぼりを食った形の私達
仕方なく立ち上がり歩き始める。
その道中、匠くんは私に色々と話してくれた。
匠「あの2人は幼馴染らしくてね」
夢「成程」
匠「サッキも言ったけど、安藤さん本人が野球が好きだって言ってたみたいなんだよ」
夢「・・・・」
匠「プロ野球選手と結婚するとかも」
夢「初耳」
匠「鈴木と中学校も同じだったらしくてね、彼女、あのルックスだからかなりモテたらしいよ」
夢「納得」
匠「それにね・・・・」
夢「それに?」
匠くんは少し躊躇して
匠「彼女、表と裏の顔があるらしいんだよ」
夢「何それ?」
匠「陰でヤバい事してるらしいとか、ヤバい友達がいるとか・・・」
夢「信じられない」
匠「その辺は聞いた話だからね、実際俺も目の当たりにした訳じゃないから」
夢「・・・・・」
匠「だから鈴木は心配でしょうがなくてね、口癖の様に自分がプロ野球選手になって養うんだ!って、よく俺に話をするんだよ」
夢「でも噂話なんでしょ?」
又躊躇する匠くん
空を一度ゆっくり見上げて、しばらくしてから話を続けた。
匠「これから言う事は事実だと思う」
夢「・・・・・」
匠「鈴木と幼馴染と言ったよね?」
夢「うん」
匠「鈴木、安藤さんの家知らないんだ」
夢「意味が分かんない」
匠「学校なんかには現住所とかを教えとくものだろ?連絡先とか」
夢「当然」
匠「全部デタラメらしいんだよ」
夢「学校側がそれじゃあ許さないでしょう?」
匠「それを許してるんだよ学校側が、唯一の連絡先は彼女のスマホだけみたいだし」
夢「・・・・」
匠「彼女の両親を見た人もいなくて、3年間学校にさえ一度も来たことが無いらしい」
夢「ほんとに?」
匠「それに何回か薄汚れた古い外車が学校の近く迄迎えに来てたの目撃されてて、鈴木自身も見たらしい」
夢「・・・」
匠「それに鈴木と俺とで一度後を付けたこともあったんだけど」
夢「不純」
少しヤキモチを焼いてしまった。
匠「最終的に巻かれちゃったけど、中央町の歓楽街に消えたんだよね」
夢「それドコ?」
匠「夜の街」
夢「たまたまでしょ?」
匠「そうかもしれない」
匠「彼女に深入りするのは止めといた方がいいと思う」
夢「それだけの事で決め付けるのは無責任じゃない?」
匠「じゃあ決定的なこと言うね」
夢「何?」
匠「住所がデタラメって言ったよね?」
夢「はいはい」
匠「在籍してた中学校に、彼女の名前が無いんだよ」
夢「はあ?」
匠「願書とかも含めて、個人情報が一切無いんだって」
夢「冗談でしょ」
匠「冗談なら本当にいい、冗談ならね」
夢「・・・」
匠「彼女は気を付けた方がいい」
匠くんは、それ以上話さなくなった。
単に噂に尾ひれが付いたような感覚にも取れるけど・・・・
何だか気になるなぁ・・・。
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