第29話 春奈推しの野球バカ (9回裏)
私達の前に来た男子が例の春奈推しの子らしく、よほど彼女に会えたのが嬉しかったのか、挙動不審になり顔が赤くなった。
本当に好きそう・・・
まぁそれは判ったのだけれど
いや
なんつーか
不思議な人だなぁ
と思ってしまった。
何故かというと、【諦めたら負け】ってデカデカと書いてあるTシャツを、それは羞恥心無く着こなしているからだ。
更に手には【滋養強壮】と書いてあるドリンクを握り締めていて、私達の前でオーバーにそれを飲み干すと、突然取り憑かれたみたいに素振りをし始めた
しかも合間合間にバットを垂直に差し出して止めるものだから
ちょっと不気味に感じた。
モノマネなのかな?
こういうポーズとる人を見たことがあるんだ
よね
当てなきゃダメなのかな?
んーわからん!
なんやかんや変に考えている間に
「紹介するよ、鈴木四郎君だ」と
匠くんが堰を切った。
それに答える形で
「おはよう!」と
それはスポーツマンらしいデカイ声を出してその彼が挨拶をした。
「お早う御座います」
私だけが返す。
当の主役である筈の春奈は、声を出す事も無く
只無言で鈴木君を睨み付けていて
白地(あからさま)に拒絶の態度を示していた。
厳しい視線にたじろぐ鈴木君
うわぁ、春奈の視線が痛そう・・・・。
少しだけ沈黙が走ったけど、めげずに鈴木君は
「フン・フン・フン」と
バットを又振り始め、今度はスウィングする毎に少しずつ春奈との間合いを詰めていった。
彼は何をしたいの?
バットが当たっちゃうんじゃないの!
しかし、それを春奈が見過ごす筈もなくて
「あんた、そのバットで私を殴り殺す気?」と
切れ気味に言い放って応戦する。
ヒィーッ
ビビった鈴木君は振るのを止め、唐突に頭を下げると
「僕の試合を見ていって下さい、お願いします!」と懇願してきた。
いやいや私達は野球のルールすら知らないのに、見ろって言われてもつまんないだけでしょうが!
って私の心の声は語るけど
春奈は
「好きにして」と投げやりに了承した。
私は匠くんが居てくれたらそれで良いのだけれど
まぁ、良いのならね。
取り敢えず鈴木君が用意した長椅子に座る。
そこは彼が所属するチームのベンチと目と鼻の先で、熱気から何からガッツりと伝わってきて、妙な一体感が生まれそうな感じだった。
鈴木君は、やる気が漲(みなぎ)っているみたいで、無駄に体操したりダッシュしたり
終いには
「監督、僕もこれから二刀流でいきますから!」と息巻いて詰め寄っていた。
それは、 あからさまに私達の反応を期待する言い回しにも聞こえたので、その意味が解らない私などは、どう答えたら良いのか思い付く要素が無く
結果的に避けるように俯いた。
匠くんは苦笑いで誤魔化そうとしていた。
しかし一人だけ強者がいて
春奈だけは徐に
「あんたの二刀流は、男も女もいけるって事じゃないの?
だから監督さん、気を付けた方が良いかもよ」
と言い放った。
監督とチームメイトが笑い出す。
等の本人(鈴木君)は固まったまま微動だにしなくなった。
場の雰囲気を嫌ったのか、春奈は
「私トイレ行ってくる」と云いながらその場を後にした。
主役(春奈)が居なくなってシラけたのか、急に鈴木君は無口になり、先程の一幕が無かったかの様に試合の準備へと静かに進む。
どう言えば正解かは不問として
私の感想として
鈴木君はどうしても春奈に認めてもらいたいんだろうなと
好きを伝えたいんだなと
それはジンワリと理解した。
それに
今日初めて会った感じにも見受けられなかったんだよね
?
そうだとしたら、春奈と何処で
知り合ったんだろ?
まさかの幼馴染?
または中学の同級生?
などと考察していると
それを察してなのか
匠くんが、春奈が居ない事を再度確認しながら耳元でこう囁いてきた。
「野球が好きだと安藤さんが言ったらしくてね、だから鈴木は始めたみたいなんだよ」
夢「えっ、どう云うこと?」
匠「鈴木と安藤さんは、昔からの知り合いらしい」
夢「幼馴染とか?」
そう聞き返した直後、二人の背後から割り込む声がした。
春奈「あら、森田君って以外とお喋りなのね」
春奈が怪訝そうに匠君を見ながら言った。
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