第23話  オルレアンの乙女 (安藤春奈編 完)

 田嶋さんの様子が怪(おか)しい。


両手をダランと下げて、口角を上げ

誰かに導かれるように歩いている。


かなり距離は離れているけれど


異変は理解できた。


背中には紙が貼られていて、遠く離れた

ここからでもその内容は理解できた。


むごい・・・


その痛々しい【貼り紙】を赤の他人らが

通りすがら見て罵倒している。


ムカつく。


誰が付けたか知らないけれど


背中に張り付けた奴に聞いてみたい


それでお前が何を得するのかを。




 笑みを浮かべながら、田嶋さんは1棟のビルに吸い込まれてゆく

住んでいる訳でも

用がある訳でも無いのに。



私の心が警告する


非常に危険だと。


間違った選択をしていると


彼女の所作で分析してくる。


ヤバい!


慌てて間合いを詰める。


かなり距離があるからなかなか近づけない。


耳に及ぶかもと


躊躇(ためら)いを捨て声を上げる。


「田嶋さん!」と何度も何度も叫ぶ。



けれど振り向く所か止まることも無く


ペースを維持して進んでゆく。



マズい!


息切れ切れで走る。


追い付けない・・・・。




そんな私が追い付けない中



田嶋さんがその雑居ビルに消えた直ぐ後に


男の子が一人


同じビルへと吸い込まれていった。



あいつは誰?



ノーノー!


考えている暇は無い



遅れて私もビルに入る。





階段を上がる2つの靴音が谺(こだま)している。


1つはかなり上、真ん中辺りだろうか


もう1つはそれよりもやや下で、距離を置いて様子を伺っている感じがする。



突然の展開で選択肢すらピックアップされない私だけれど


何でもいいから止めたくて


彼女の腕を掴みたくて


早く上がりたいと


自分の太腿に激を入れる


『壊れてもいいから早く動け』と



間に合って欲しい・・・・。





結局追い付けずに、2人は屋上の扉を開けて

その先へ消えていってしまった。





あーもう駄目かも!




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私も遅れて最後の扉を開ける。

期待と絶望が交差する中、隈無く見渡していると

動く彼女を見付けた。


まだ生きていてくれてて、先程の男の子が叱っているのが目に入った。


いやはや安心した。


一時はどうなることかと思ったけれど



最悪の事態は脱した。



あの男の子は誰なのだろうか?



彼氏?


家族?


まぁいい



何はともあれ助かったのだ




危なかったけど。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 証拠の品と動画は取り終えた。


家に帰り素早く編集して、真実を白日の下に晒さないと。


待ってて、田嶋さん


直ぐに救い出すから。



A子め、思い知るがいい



奴らの泣きっ面が目に浮かぶわ。









って


私が泣きそうトホホ。




気合いは十分なのだけれど


 以外に編集は難しくて

スマホじゃなくて、ビデオカメラ等のAV機器で撮れば良かったと後悔する。


ファイル形式が違ったりとか

解像度が替わって観にくくなったりとか


果ては動画編集のソフトが必要だったりとか


遠回りで作ってる感が半端ない。



誰が見ても判る様にしておかないと、証拠としての意味が成さないので

徹夜してでも作り込む。



早く突き付けたい・・・・





とかなんとか気合いは十分なのだけれど





グダグダとしちゃって






あっという間に2日が経ってしまった。


丸2日を費やしてしまった。


グゲゲゲッ!


でも、なんとかかんとか


動画はできたから・・・・・


まぁ・・・・いっか!


良いことにする。



結局動画はDVDに3本焼いて、私の名前付きでメッセージを添える事にした。


『誰も真実を知らないのでお教えします』



先ず田嶋さんのお父さんに宅配便で送り

残りは岡山県の教育委員会と岡山西署の少年課(生活安全課)にそれぞれ送った。


動いてくれるだろうか?


仮に


誰も行動に移さなかった場合は


即座にYouTubeへアップして

広く宣伝してやろうかと思った。




予想より早く教育委員会が動いてくれて

担当者の数名が直ぐに学校に来て、ソレら主導で

事態の収集が図られた。


校長や教頭、学年主任は厳重注意と数ヶ月の減俸になった。

クラス担任(私のと田嶋さんのクラスの担任)は解任され(責任を押し付けられた感が半端ない)、外部から新しい教師が来ることとなった。


それから生徒側は



翌日全校集会を開いての事実説明と謝罪が行われ

同夜に同学年の保護者全員を呼び集めて、私のDVDを見せての意見交換が成された。

私はバッチリ顔が判る様に編集していたので、誰が何をしているのかが

一目瞭然だった。


ソレらの親達は

非常に気まずかったらしい。


当然!



しかもその場には田嶋さんのお父さんも出席していたから


それは

気が狂った様に皆を怒鳴り散らしたそうだ。


そりゃそうだわな。


最後に


根源でもあるA子と他3人はというと

田嶋さんのお父さんが、被害届を警察に提出した為


傷害事件として捜査を受ける結果となった。


最悪は少年院送致


本当に反省して欲しい。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

田嶋さんとこの学級委員が

彼女に連絡やら案内やらが載ったプリントを

今日家まで持っていくという話を聞いたので

役目を譲って貰った。


私的には彼女に会う権利を得たと確信している。


「あの時拒否っといて今らさ遅い」と言われそうだけど


正直に話して謝ろうと思う。


例え許してくれなくても


私は貴女の敵ではないと


伝えたい。


兎に角


私一番の誠意を見せたいと思った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


この時期にしては暖かい今日


見事に晴れ上がる。


日頃乗らない電車に揺られ


宇野という町を目指す。


窓を開けると


風か気持ち良く髪を掻き上げてくれて


気持ちを高ぶらせてくれる。


人なんて信用するに値しないと


最近までは思っていたけれど


彼女だけは違うかもと


今は考えている。



お互い信じ会えたらいい


友達になれたら尚良い


そうなればいいなと


私は切に願っている。




最初はお昼一緒からかなぁー。



いやそれよりも先に早く伝えなければいけない


此の戦いに勝利した事を


負けなかった事を




オルレアンの乙女(田嶋夢)に。













































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