第18話 1人ではない
心の声に従って雑居ビルの階段を昇る。
地上12階建てのこのビルは、中に古いエレベーターとその横を沿うように構える階段があって、麻雀店や学習塾、税理士事務所などが下の階層に入居し、9階から上は住居という構造になっていた。
屋上は誰でも出入りが出来るスペースとなっており、1メートル高の落下防止用の柵がぐるりと取り囲んでいて、昭和が前面に出た様な雰囲気の建物だった。
そんなビルの階段を登り切り
難なく屋上に辿り着くと、柵が少し高い事に気付き、無造作に転がっているプラスチック製のビールケースを手に取り、柵の際(きわ)に裏返して置くことでそれを踏み台として乗り越えようと考えた。
午前10時を過ぎた屋上は、風がひんやりとしてて心地よく
少しだけ現実から私を遠ざけてくれた。
空が青い
小学生の時に、おばあちゃんが言っていた話を思い出す。
「最後は皆空に昇って星になる」
子供の夢を壊さない為の言い回しだったと理解するけど
今の私だと
それが真実だと
これから行く所だと信じれた。
お父さん、お母さんごめんなさい
ゆみゆみやみしゅなん、まー吉
ありがとね
プラスチックケースに足を乗せると、更に空が近くなる。
「まず最初に会うのはおばあちゃんかな?」
「閻魔様だったりして」って口に出している最中
頬からポロポロと涙が垂れていった。
何だか疲れたなぁ・・・・
柵を軸に前へ体重を掛けたのに落ちない。
声が聞こえてくる・・・・
「・・・エンヌ」
「ジェン・・・・・ヌ」
「こら!ジェンヌ、止めろ!」
強い力で後ろに引っ張られて倒れ込む。
程なく頬にビンタを喰らう
何度も何度も。
そこには匠くんが居た。
顔を真っ赤にし鬼の様な形相の彼は
何度も何度も
私をビンタした。
痛い・・・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
家まで送ると彼は言って聞かないので、お言葉に甘える。
途中の電車では殆ど会話は無く、線路の繋ぎ目の音だけが響いていた。
匠くんは
【私は犯罪者です】と書かれた紙を、徐に取り出して
一言
「相談してくれよ」と言って渡してきた。
私は返す言葉も、気力も無かった。
匠くんに命を拾われた形の私
何でこんな時間に彼が、しかもあのビルに居合わせていたのかが解らなかったけれど
家に着いて、経緯(いきさつ)を説明する段階で理由が解った。
到着して匠くんが説明をする。
理解したお母さんは
只々私を見詰めて
「夢ちゃんは一人じゃないんだから、全部背負わないで」と言い
ギュッと抱き締めてきた。
それに対して私は
「お母さんごめんなさい」と
何度も何度も謝る。
何度も何度も
謝る位しか出来なかった。
匠くんがあの場に居合わせれた理由は、彼の学校で異臭騒ぎがあり
授業中止の一斉下校になったかららしい。
それでその帰り際、様子がおかしい私を発見して後を付けたら・・・・
正に偶然だった。
匠くんがいなかったら
今頃私死んどるなと思うと、恐ろしくなってしょうがない。
心に語り掛けてきた存在も、今は全然聞こえないけど
現時点では
あれが神なのか悪魔なのかは
分からない。
生き延びて正解だったのかも
今は解らない。
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