第17話 オルレアンの乙女(後)

翌日になり、緊張の面持ちで校門を抜ける。


グラウンド迄はいつもの風景で、特に変化は見られなかった。

それに私の判断基準である上履きも無事だったので

期待も高まり

「静かに過ごせますように」と強く願いを込めて教室へ向かおうとした。



しかし




地獄の入り口は既に開いていた。





下駄箱に着き

靴を履き替えて中に入ろうとした瞬間

あっという間に4人に囲まれてしまい、後ろからスカートの中に、コッソリと何かしらの液体を掛けられた。


囲んだのは例のクラスの4人組で、主犯の子もしっかりと含まれていた。

(今後主犯の子の名前を、A子(仮)とする)


元が何か解らない異臭を放つその液体は、

あっという間に辺りへ臭いを撒き散らした。


便の匂いに近い


もしかして・・・・。


近くに居た生徒らが、堪らずハンカチや指で鼻を押さえて、口々に

「メッチャ臭い!」と漏らした。


それにここは下駄箱なので、入ってくる生徒が次々と臭いを嗅ぐ形となり

当然の如く騒ぎになってしまった。


生活指導の先生も慌てて駆け付ける。



その様子を見てA子は


「この子が便漏らしたみたい、汚い」と、私の方を指差しながら大声で叫び、皆の視線を此方へと向けさせた。


生徒「アイツか、何考えてんだ」


別の生徒 「いい歳してお漏らしかよ」


A子は間髪入れずに

「便はトイレでしてよ、」

「やりたい放題も、大概にして!」と

迷惑そうに叫んだ。


小学生レベルのイタズラで、よく実行する気になったなとは思ったけれど

防犯カメラを考慮するならば頷けてしまう。

明から様な言動か無い限り、いざ映像を見た所で判定がしにくく

「疑わしきは罰せず」じゃないけれど、非難を受けない可能性が高い。


4人で死角を作ったってことね


なんて巧妙なやり口、こっそり変な液体を付けるなんて。



しかし


その【液体】を何処で手に入れたんだろう?

持ち運びとか、匂いが漏れたりしなかったのかな?


用意の周到さには、甚だ呆れる。



兎にも角にも




馬事雑言と白い目を一手に集めて

ある意味【オワコン】と化した私に


先生が

「ご家族の方に替えを持って来て貰いますから、保健室に行きなさい」と

言うので、仕方がなく言われるがまま移動した。





2時間程して、お母さんが持って来てくれた。

私は直接会わなかったので会話はしていないのだけれど、先生がどんな説明をしたのかが凄く気になっていて

といっても何か出来る訳もなくて


帰ってからの事を考え、腹をくくった。


頭が痛い。





教室に戻ると悪い意味での有名人になっていた。



教室に入るや否や

皆が一斉に

「臭くて勉強が出来ない」と

教科担任の先生に訴えて


考えた挙句かどうかは不明だけれど

先生は私に机ごと廊下に出て、そこから授業を受けなさいと言ってきた。



「でーてゆけ!でーてゆけ!」と皆が合唱する。




ゆみゆみの一件でクラスの子達はかなり根に持っていたので、今回の騒動を利用して憂さ晴らしをしている感じが凄くした。


絶句。



更に休憩時間が最悪で、クラスメイトは勿論のこと、同じ階の教室の子までも代わる代わる来て、廊下に出ている私と机を、スマホで撮影をして、LINEなどのSNSに載っけて楽しんでいた。


内容は想像が付くので詮索はしたくない。


結果知らない内に

『う〇こ田嶋』とあだ名が付いてしまった。









しかもこれで終わらない。





HRも含めて授業が全部終わると、私はダッシュで学校を出る。


長くは居られないから・・・・。




駅に向かって走るのだけれど、駅構内に続く西口のスロープへ上がる寸前で

私の腕を掴む人がいた。



A子だった。



そのまま近くのビルの隙間迄引っ張って行くと、表には仲間を立たせて


私に向かって得意げに言い放った


「土下座して謝るんだったら、許してやってもいいけど」


私はしばし固まってるのだけれど、堰を切って


「謝れ!このカスが」と叫び強要してきた。


圧倒されて


仕方がなく




土下座をする。




それを見たA子は、満面の笑みを浮かべて


「許さない」といって蹴った。



そして去り際に

「明日が楽しみ」と意味深な言葉を残した。


何を企んでいるのだろう?



怖い。





その日帰ってもお母さんは、学校での事は何も言わなかったし聞かなかった。




普段と変わらなかった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー次の日

 本当は行きたくなかったけれど、春奈さんの為にも、自分の名誉の為にも

登校を決意する。


校門まで来ると先生が近付いてきて、そのまま職員室に連れて行かれた。

そこには学年主任と教頭先生が待ち構えていて、私を見るや否や

「大変な事をしてくれたね」と言って睨んできた。


訳が分からず聞き返すと


「昨日の放課後にA子さんに暴力を振るったね?」


はぁ?


意味が解らない


振るわれたのはむしろ私の方だ。


違うと言ったのだけれど


先生「西口で言い争ってるの、うちの生徒が目撃していてね、その際君が暴行を加えてたと証言してるんだよ。」


観念しろと言わんばかりで


私は言葉を失う。


あー成る程


昨日言っていた


明日が楽しみって此の事だったんだと


今理解した。



警察に相談して対応を協議するから、それまで自宅待機しろと言われ、即早退することになった。

私のお父さんも学校に呼ばれた。


帰り支度の為、教室に戻ると

丁度昼休憩と重なっていた為、聞きつけた?沢山の生徒が教室に集まって来て、汚い言葉を浴びせるだけ浴びせてきた。

どさくさに紛れて叩く子もいたり

終いには背中に【私は犯罪者です】と書いた紙を張り付けてきて


私は気付かずにそのまま学校を出てしまった。



行き交う人が視線を向けてはヒソヒソと話す。

誰も張り紙の存在を云ってはくれない。


そんなことも知らない私は、世間全体が非難をしている、私は要らない存在だと訴えていると捉えてしまって


私の


心の留め金が


ポキッと折れてしまった。



すると



私の心に直接語り掛ける人?がいて

何?って返すとこう言った。



「もう我慢しなくていいよ」


どういう事?って聞き返すと


「今辛いでしょ?」と諫めてくる


黙りこくる私


そして



「高い所から飛び降りたら、直ぐに楽になるよ」って


その人は言った


「死ねって事?」と聞く


「解放してあげるよ」とその人



「こっちだよ」と誘われるがまま体が動く



私もしんどくなっちゃってて


「痛くない?」と聞く。




「痛くないよ」とその人は言った。










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