第12話 猿芝居の母さん (Finale)

最近の私は、学校に行ってからの記憶が良く飛ぶ。

気が付いたら放課後で、教室には誰も居なかったりする。

私にとっての学校は、勉強以外には何も無いという印象が強く

授業に身が入らなくなると、全ての記憶が消えてしまった。




学校って何なのだろう?




スマホには大量の着信が残っていたけど

誰なのかを確認しなくても解った。

雑な感じでポケットに突っ込むと立ち上がり

性急(そそくさ)と帰り支度をして教室を出た。



校門まで行くと、着信元であるお母さんが既に待っていて

誰が見ても判る位にイライラとしていた。


とりあえず目の前迄近づくと、首根っこを引っ掴まれて

「着信見た?何してたの?」とダミ声で文句を吐かれた。

「何の事?」と白を切る(しらをきる)も

「時間を確認しろ!」って言うから

スマホを取り出して見る。



あっ、もう6時だ。


道理で空が暗すぎるなと思った。


って


まぁその位の感想しか出なくて

やる気の無い私は、

「あーもう6時だねー」と軽く受け流した。


そんな程態を見てなのか、急に切羽詰まった演出家の様に頭を掻きむしりだすと

「あー」と悶絶し、私の手を掴み強引に車に押し込んで、勢い良く出発をしてしまった。




「茶屋町駅で待ち伏せよ!」と

興奮気味に母。


子供のプライベートに入れ込み過ぎなお母さん

ボルテージの上がり具合が恐怖でしかない。




アー家に帰りたい・・・





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


6時半には茶屋町駅に到着したけど、匠くんが出てくる保証は無く

とりあえず待ってはいるけど、こんなことは無意味だと思ってた。



いつもは6時迄には駅を出てくる彼が、この時間にこの辺りに居る筈が無くて

無駄足だと考えてたから。


そうは言っても、お母さんの熱が冷める訳も無くて


彼の特徴を正直に伝えて、現れない事を祈りつつ


「夢、あの人?」なんて何回も聞いてくるお母さんに、作り笑いをしてた。



まぁお母さんには悪いんだけど、茶番はここ迄にして、家に連れ帰って欲しかったんだよねぇ。




ここ最近色々な事があり過ぎて、何だか疲れ易くなっている私


子を思う母心は分からなくもないけど


今はそうではなくて




兎に角家に帰って、横にさせて欲しがった。




おばあちゃんな私






ところが



そんな思いとは相反して



駅から



匠くんは出てきた。



居ないと踏んでいた人が現れて



正直ビックリした



そして落胆した。




ヤバい・・・始まる・・・






お母さんは私のその変化を見逃さなくて、特徴も一致するその少年を、匠くんだと判断するに至ると

待ってました!とばかりに行動を開始した。





先ず意味不明の【ワン切り】をする母。



髪型をワザと乱して・・・・からの



私の手を引き、彼の元へ猛進。



からの突然の・・・・号泣。



「はぁーーーーっ、マボロシーーー!」なんて叫びも入れる母。


IKKOさんかよ!





当の匠くんは、既にロックオンされていることを理解しているみたいで、お母さんを凝視したまま、金縛りの様に固まっていた。



躊躇なく詰め寄る母


そして「クリソツだわーん」と発狂し、20人程いた通行人を一斉にザワつかせた。


ハズイ・・・・とてもはずい・・・。


手を握られてるので、逃げようが無い。


終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった。



まだ続く




母の熱弁の最中に、何処からともなく一台の車が近づいてきて、ピタッと私達の前で止まった。

そして車の窓が一つ空くと、中から叫び声がして・・・・したので注視したら



良く見る顔・・・ね




おっ、お父さん・・・・・・・だった。




「この男の子は、私が認めた愛娘の彼氏じゃないか!」

「真司君!生きていたんだね!」と、これまた叫ぶお父さん。



真司君って台本(打合せ)にあったっけ?



「違うのパパ!別人なの!真司君はもう居ないのよ!」と

割り込む母。


あんなに練習ではカミカミだったのに・・・・


本番に強いタイプだったんですね・・・・・・・お二人は。


ってか、ワンギリ先・・・・

父さんだったのね・・・・



「あーなんてイタズラなんだ!」

「娘を失意から解放してあげようと、東京から岡山に引っ越して来たのに、神様!あなたはなんて罪深き方なのですか?」とホザく父。



岡山に来たのはおめーの仕事の都合じゃねーかと、心の中で突っ込む私。



もうどうでもいい



母「いい考えがあるわパパ!」

「この男の子に夢と仲良くなってもらいましょう!」



父「あーそれはいい考えだねぇ! 」

「君、お名前は?」




「もっ、森田匠です。」と、か細い声で返す。



母「あハーン、森田君!」

「うちの子と連絡先交換してくださーい」


知らない内にお母さんはキャラ設定が変わっていた。


「別に、いいですけど・・」と小さな声で匠くん。



「パパは幸せだなー」と馬鹿デカい声で喜ぶ父。



娘は不幸ですけど


そもそも自分の事を一度もパパなんて言ってないでしょうが!



匠くんは諦めにも似た表情で、お母さんの要望に応えて連絡先の交換をしていた。



それで、後で娘にも教える旨を告げると



彼は




匠くんは私を死んだ魚の様な目で見ながら




苦笑してた。





ちゃんちゃん







今回の猿芝居で分かったことが2つある。



1つは

私ほもう二度と、この茶屋町駅には降りれないという事。



もう1つは


相談する相手は慎重に選ぶ事。




みしゅなんが求めていた結末って、これなのかなぁ?


只のピエロじゃない・・・・私達。


納得がいかないまま今日が終わる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



あの駅の一件の時に、私は気付かなかったけれど、匠くんは見えない所で笑い転げてたらしい。



何で知ったかって?




後で本人に聞いたから。

































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