第62話 魔法の月と大切な人 ④


「自分のために生きる……」


私はルカの言葉を繰り返しました。


「……ルカは私の、お母さまみたいなこと、言うんですね」


「君の母上?」


「ええ。私が子どもの時、母も言っていました。

あなたは自分のために生きなさいって。

自分を大事にして、自分を愛して、その中でもし、あなた自身よりも大切な、一番大事な人ができたなら……その人を守るために力を使おうとしなさいって」


私は、懐かしく昔を思い出して、言葉をつづけました。


「あなたがいつか聖女になるなら、それが国の人たちを守る気持ちの根本になるんだって、お母さまは言ってたんです。国の皆を守るっていう気持ちは、あなたが自分を大事にして、あなたの特別な、本当に大事な人を見つけて初めて、わかるものだからって」


ふふっと私は笑いました。 


「でも、私、いまだによくわからないんです。

私にとっては皆が大事で……神殿の皆も、巫女たちも、ルカも、皆平等に大事……。

ねぇ、ルカはわかりますか? あなたの大事な人って、いますか?」


ルカは珍しく、非常に面食らった表情で、目を丸くして私を見ました。


「君に問われるとは……」


それから少し笑って、一呼吸おいて、ルチル、と私の名前を呼びました。


「君だよ。君が大事だ」


「え? えっ!? だ、」


大事!? 私がルカの大事!?!?

大事って、それって自分より大事だってことですよ!?


自分の顔に恥ずかしさで血が昇るのが分かります。

これは、これは絶対顔が赤くなっちゃってるやつです!!


私は、できるだけ赤くなった顔が見えないよう、そっぽを向きました。


「……ル、ルカはすぐ調子のいいこと言うんですから。

知っていますよ、皆に優しいから、宮廷のオリオンだって言われてたって。

こ、こういうことも、皆に言ってたんじゃ、」


「どうせエルザが君に吹き込んだんだろう。

確かにそういう噂はたったよ。だが、俺は誓って何もしてない。

昔は一応身分があった。王子だったしな。

宮廷で、少し親切にしたり、優しい言葉をかけるだけで、誰それと付き合っている、気があるという話になっていくんだ。

……ずっとそれが煩わしかった。王位やらなにやらのことも含めて」


ルカは、私をじっと見つめて、微かに微笑みました。


「君が辛いときに、傍にいよう。

いつだって君の力になる。許してくれるな?」


風が吹いて、無数の星のように輝くスターシアが、私とルカの頭上で、ふわふわと揺れていました。


はい、と私が答えると、彼は私の手を取り、そして騎士たちがするように、軽く口づけて誓いました。


「騎士の名誉にかけて、今の言葉が真実だと誓おう」


私は、知らず微笑んでいました。


「……ありがとうございます。ねぇ、ルカ、耳が出ていますよ」


ルカの髪からは、かわいい狼耳がひょこっとのぞいていました。


「そうか? ああ、本当だ。

嬉しいからかな」


「嬉しい? どうして?」


「どうしてだと思う?」


「……わからないです」


「本当に?」


「今日はルカ、本当に? ってばっかり、いうんですね」


私は言って、ほんの少し笑いました。

隣のルカも、ふわふわと揺れる光を眺めながら、何だか楽しそうに、微笑んでいました。








**********


作者からお知らせ


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

次から第5章、おそらく5章でお話が終わるかな? という感じです。


ルチルかわいい! ルカいいぞ!

とか、

お話応援してまーす♪


なんて思ってくださる方、

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