第61話 魔法の月と大切な人 ③


「だって、オズワルドは魔術局の第一魔術師、とても強い魔力を持っていて、しかも王の一番の協力者でした」


「まぁ……そうかもしれないが。全ては憶測だな」


「でも、不思議です。

なんでエルザ妃にかけられた呪いが、ルカに影響するんでしょう。

一体どういう呪いなのか、わけがわかりませんね」


「それは俺も疑問に思ってはいるよ。

呪いの内容はよくわからんが、普通、俺に影響はこないだろう。何の得もないからな。王が黒幕なら、間接呪詛で影響を与えたいのは、アライス殿下なんかじゃないかと思うんだが」


ルカは小さく息をつきました。


「まぁ、俺の国の誰か、ということもないわけじゃないしな」


「え?」


「昔、俺の国でも、王子達の間で、争いがあったからな。

まぁ、だから、王宮というのは厄介な所だ。

オズワルドも、リディスの現王も、エルザも、王宮にいるものは皆したたか、俺から見れば……君は王宮にいる者たちの恐ろしさを甘く見ている気がする。

優しいものから喰われていくんだ。俺は、君がリディス王国には戻るべきでないと思う」


「でも、そうしたらルカの呪いは解けずに、ルカが死んじゃいます……」


「俺はな、君がここにくるずっと前に、もう覚悟は決めたよ」


「覚悟って何ですか」


「そりゃ……わかってるだろう」


「そんなあっさり……。

そういうことを言うべきでは……ありませんよ。

命は大事にするものです……」


私はとても悲しくなって、うつむきました。

死ぬ覚悟ができてるなんて言われて、返す言葉もありませんでした。

ルカは気にせず、明るい調子で続けました。


「そうは言うが、君だって、自分の命をさらしてリディスに戻るなんて言うじゃないか。命を大事にしてくれっていいたいのはな、俺の方だ」


私は言い返せないまま、黙りました。

スターシアの枝にかかった光が、ぼんやりと辺りを照らしていました。


「……ルカを助けたり、民を守るのは、いいことでしょう?

それに、だって、人を助けることは私のやるべきことだったんです。

私の存在意義は、ずっと誰かの役にたつことだったんですから」


「なぁルチル」


ルカは、私をじっと見つめました。


「いいじゃないか、誰の役に立たなくても、ぬけぬけといきていても。

 君が誰かの役にたたなくたって、俺はいいと思う」


「それじゃあ明日から、ルカに解呪の魔法をかけちゃうのをやめちゃいますよ?

そうしたらルカは、明日からまた狼さんになっちゃいます」


私は冗談めかして言いました。


「いいさ。そうルチルが望むなら」


「……なんでそんなこと、言うんですか?」


「なんでだと思う?」


「……わかりません」


「本当に?」


ルカは私に畳みかけました。

本当って言われても、えーと……だって、わからない、です。

私は困ってしまって、ただ、黙っていました。


「はは、本当にわからないのか?

まぁいい、そうだな、君はもっと自分のために生きたらいいんだ、きっとな」


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