第46話 森でお姫様だっこされちゃいました!


「こうなると思っていた」


どこか楽しそうにルカは言って、昼に手入れしていたヴァイオリノを手にしました。


「さあ、行こうか」


え、どこに、と言いかけた私の声を遮って、


『行こう』

『行きましょ!』

『はやくしないと』

『もうすぐパーティだから』


キラキラした鱗粉をまき散らしながら、妖精さんたちが私達の周りを飛び交いました。

もう、わけがわかりませんけど、ルカが手招きして玄関の扉を開けているのを見るに、多分これは悪いことじゃないんだろう、と思いながら、私はルカと妖精たちについていきました。


夜の森は、満月の光と、私たちのまわりに飛び交う妖精のまたたきで、明るく輝いていました。

それにしてもドレスは動きにくいですね。ひらひらしてふわふわしてかわいーい♪ と思う反面、私、これだけちゃんとしたドレスを着て歩いたことがないので、何度もつまずきそうになります。だいたい、森は歩きにくいんです、急に木の枝が落ちていたり木の根がはっていたりするしって、


「あっ!」

「っと、大丈夫か?」


と心の中のフラグを回収するように、案の定つまずきかけた私の腕を、ルカがしっかりと掴みました。


「あっ、ありがとう、ございます……」


ルカが私を助け起こし、その後ろでは妖精さんたちが『お姫様が転んだ』『歩くの下手ね』『早く早く』なんてめいめいに話しています。ううっ……。


「ドレスは歩きにくいだろう。抱き上げていいか?」


「一人で歩けます……」


「でも、抱えていったほうが早いぞ?」


そう言ってルカが私に手を差し伸べます。


「ほら、ルチル。お手をどうぞ」


「え、いえ、その……わ、わかりました……」


だって恥ずかしいんですって。とはいえ、歩きにくいのも確かで、私はしばらく逡巡の後、観念してルカの手を取りました。そのままひょいと横抱きに、ルカは私を抱き上げ、歩き出しました。


「す、すみません……。

重くないですか?」


「いや、軽いな。これからはもっと食わせないとだ」


そう言ってルカは笑いました。


「ルチル、そのドレス、すごく良く似合ってるな」


「ありがとうございます。前にルカが下さったんですよ」


それなら、贈ってよかった、とルカは呟きました。

調子のいいこと言って、と思ったのも事実ですが、でも、嬉しいのも確かです。

前に、夢渡りの彼女が言っていた、ルカの宮廷でのあだ名を、私は今さら思い出しました。

宮廷のオリオン、かあ。

確かに、そうなのかも。

ルカの言うことは、さりげなくてわざとらしくなくて、こちらが嬉しくなっちゃいます。私だけじゃなくて、みんなにこの調子なんだったら、きっとモテたんじゃないかしら。


「ねぇルカ、妖精がやってくるってこと、本当は最初から知ってたんでしょう」


「ああ、そうだ」


悪びれずに彼は答えました。


「君はやっぱり彼らが見えたんだな。これから君には話さなければならないことが……」


と言いかけたルカの髪の毛を、妖精の一人がひっぱりました。


『何を話してるの?』

『ヴァイオリノ弾きがお客を連れてきた』

『ねぇお姫様は私達が連れてきたの』

『先に話すのは私達よ!』

『私達のパーティーは珍しいんだから』

『特別な人にしか見えないんだから』


妖精たちの妨害に、ルカは私に肩をすくめてみせると、話すのを諦め、とりあえず歩くことに専念することにしたようでした。

きゃはは、きゃはは、と私達の周りと飛び交う妖精たちは、今度は気まぐれに私に話しかけてきます。


『ねぇ私達と次は夏至祭りにきましょうよ。妖精のお祭りは夏至が一番なの』

『お姫様は歓迎よ、喜ばれるわよ』

『オェングス様は女の子がお好きだから』


そうか、夏至にもここで妖精の集まりがあるのですね。

そんなことを思いながらしばらく、ルカに抱えられながら森を行くと、木々はまばらになり、ついに開けた平地のような場所へと着いたのです。

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