第45話 ドレスとお化粧と妖精さん


『もたもたしないで!お姫様!』


妖精のせかす声とともに、どこから持ってきたのか、以前ルカが買ってくれたドレスを頭からかぶせられます。

ドレスから顔を出せば、私の目の前で、『ほら目を閉じて動かないで、お化粧をするんだから』と妖精がまぶしく飛び回りました。これまた、どこかからもってきたのかアクセサリーやらなにやらもつけられ、すべての用意が整ったのか、


『ほらはやく、王子様がまってるんだから!』


妖精はそう言って私の手にとまり、指を引いて立ち上がらせようとしました。が、なかなか私が立ち上がらないとみるや、髪の毛を引っ張ったりつついたりしだすのです。


『早く階段を下りて!』

『もたもたしないで!』

『パーティーが始まっちゃう!』


口々にさえずる妖精さんに観念して、私は言われるまま、とりあえず階下におりることにしました。だって、妖精さんたちを振り払ったら、ちぎれてしまいそうでしたし、おそらく悪意はなさそうでしたし。


それに……多分階下のルカが、この事態を何とかしてくれそうな気がしました。

なんとなくですが、ルカは妖精さんがこうしてやってくること、知っていたんじゃないでしょうか。

妖精がいるかも、なんてとぼけていましたが、妖精さんたちが来ることを、そもそも知っていたに違いありません。そうじゃなければ、今日ずっとそわそわしてなかったですよね……!?そわそわしてたの、絶対これが理由ですよね……!


私は立ち上がり、早く早くと先導する妖精さんについて、部屋の扉をあけようとして、でも、思わず立ち止まりました。

扉のそばに掛けてある鏡に、私の姿が映っていたからです。


部屋の明かりがついていなくても、妖精さんたちのまぶしい光に照らされて、まるで見違えるようにドレスアップした私が、妖精さんたちをまとって目をぱちくりしてそこにいました。


涼やかなブルーのドレスの、レースをたっぷり使ったすそがふんわりと揺れ、編み込んでハーフアップにした私の金色の髪がきれいにまとまっていました。

腕につけた細い金のバンクル、首にかけられた細い銀のネックレスが妖精さんたちの光を反射して、輝いています。

ふふっ、こうしてみると、私、まるで貴族のお嬢さんみたい。

神殿の礼装も嫌いではないですが、こういう、なんていうかキラキラした格好、良い、ですね……。

私は思わず、鏡の向こうの私に向かって、にこっと笑いかけていました。


『何してるの? どうして笑っているの?』

『楽しいことがあったの?』

『早く扉を開けて』


妖精さんたちのせかす声に、私は我に返りました。

いけないいけない! 私、何してるんでしょう。思わず鏡に笑いかけちゃいました。ちょっと恥ずかしいですね……!

部屋の扉を開けると、階段を降りるまでもなく、階下にいたルカと目が合いました。


「! ルカ、これはどういうことですか!」


私の声に、ルカが返事をしようとした瞬間、彼の頭上に、ひょこっと狼の耳が現れました。

それに気が付いているのかいないのか、ルカはあっけにとられたように、私を上から下までまじまじと眺めました。


「ルカ?

耳が出てますよ!」


「え? あ、本当だ」


ルカは自分の狼耳に手を当て、すーはーと深呼吸をします。

ピコピコしていた狼耳は、そのとたん消えてしまいました。


「えーとその、なんだ、君のその恰好……美しいな」


「えっ!? あっ、これはっ……!

その、妖精さんたちがやってくれたんです」


その言葉を聞いて、ルカはちょっと微笑みました。


「やっぱり、君にも見えたのか。

というか、君は妖精たちに気に入られたんだな」

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