第47話 満月の夜、二人きりのダンス
◇
そこでは、金色の妖精さんたちが集まって、緩やかな輪になって飛んでいました。
彼らは、ルカが来たのを認めると、笑いながら私たちの周囲に集まり始めたのです。
『ヴァイオリノ弾きがきた』
『音楽がきたじゃない』
『パーティーを』
『早く早く』
妖精さんたちの手拍子に請われるまま、彼はヴァイオリノを奏で始めました。
軽快なワルツの音に、妖精たちが手をつないで輪になっていきます。気が付けば、私たちの周りに、それはそれは大きな妖精の輪ができていました。
私の耳元で、まだ輪に加わらない数匹の妖精さんたちが、キラキラと鈴のような声で音をこぼしながら、
『ほらお姫様踊るのよ』
『輪の中で早く』
と囁きます。
「ええと、私はお姫様じゃ……」
『ドレスをきてるじゃない』
『私達が見えるじゃない』
『オェングス様の妖精郷に招かれたのよ』
『お姫様に決まってる!』
「ほら、いこう」
最後のききなれた低い声に振り向けば、ルカがそこにいました。
ヴァイオリノを鳴らしていた手を止め、私の手を恭しく取ったのです。
「その、私、踊りは苦手で……」
「大丈夫、リードは得意だ」
私はまごまごしながら、ルカに手を引かれ、妖精たちのサークルの真ん中に入りました。
妖精たちが鈴のなるような声で歌を歌い、足を踏み鳴らしてリズムをとる音がしました。妖精さんたち、足を踏み鳴らすと、つま弾くようにちりん、ちりん、っていうんですよ。なんとも不思議な……。
私とルカは、妖精の輪の真ん中で手を取って踊り始めました。あたりはキラキラした輝きと、鈴の音のような妖精さんたちの音楽に満ちて、とても不思議で、きれいでした。
それに。
それに、ルカのリードは、すごく素敵でした。
私を引っ張りすぎるでもなく、強すぎもせず、ルカに手を引かれると、次の一歩が、自然と踏み出せます。ダンスはさして得意じゃない私が、ダンスが上手になったという錯覚を起こしそうなほどです。
「うまいな、その調子だルチル」
「ルカのリードが上手だからですよ」
「君はほめ上手だな」
「いえ、本当の、ことですから……」
楽しい、と思いました。
ずっとこの時間が続いたらいいのに、なんて思うほど、すごく楽しい。だって、ルカに体を預ければ、ドレスがひるがえり、軽々とステップが踏み出せます。
まるで羽のある蝶々になったような気分です。しばらく二人で手をつなぎ踊りながら、ルカがふいに口を開きました。
「君がなぜリディス王国から、王命によって追われたのか、ようやくわかったんだ」
「え?」
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