第19話 ルカからのプレゼント。


「どんな人だったんだ?」


「とてもきれいな人で……あ、そうだ、首あたりに長い傷がありました」


彼はふむ、といったきり、黙ってしまいました。


「まぁ……害はないさ。ほっておくといい」


「本当に?あなたと相思相愛みたいなこと言ってましたけど……」


ルカはそれを聞いて、あははと笑いました。


「騎士の時から、俺にはファンが多いからな。まぁいろいろあったんだ。

ほら、俺はこんなに素敵なお兄さんだから」


「ふーん……」


「何か異議がありそうな顔をしているな」


「その人はルカの呪いは自分のせいだっていってましたよ。そうなんです?」


「さぁ……変なことを言うもんだな」


とルカは何でもないことのように微笑みました。

けむに巻かれた……ような気がしますが、もしかしてルカに呪いがかかったいきさつとかあれこれとかって、あまりきかれたくない感じ、なんでしょうか。


私はそんなことを考えながらアップルパイを食べ終えました。


「はは、ずいぶん早く食べるもんだなあ」


「え、あ、そのっ、おいしかったもので……」


ちょっと恥ずかしいですね!淑女らしく、もうちょっと落ち着いて食べればよかったかも。

でも、マリアおばあちゃんのアップルパイ、噂にたがわず本当においしかった……!


「ルチル、そうしたらこれを見てくれ」


そういうと、ルカは背負ってきた荷物のかばんの中身をベットに広げていきます。


中から出てきたのは、ふんわりしたワンピースにドレス、キラキラしたアクセサリー、イヤリングにペンダント、髪飾り一式。


「えっ、わぁ、これは……?」


「君に。さすがにドレスは一人じゃきられないだろうが、まぁこのあたりのワンピースなら着られるだろう?どうせ洋服も足りないだろうし、買ってきた。俺のおさがりじゃかわいそうだしな。

ほら、あとはアクセサリーって言うのは……ルチルの趣味に合うかはわからんが、こんなのでどうだ?」


「…………」


「ルチル?どうした、気に入らなかったか?」


「っ、いえっ」


気に入らないなんて。そんなこと。そうじゃなくて、


「本当に、これいただいて、いいんですか?」


「ああ。だって子どもの時からの欲しいものなんだろう?」


「それは……そうですけど……。

どうして……こんなに良くしてくださるんですか?」


彼はおかしそうに笑いました。


「だって君は、俺の恩人じゃないか。遠慮なく受け取ってくれ」


「でも、本当にいいんですか……?」


「君が受け取らなかったら、これはどうしたらいい?

俺がきるわけにもいかないし、無駄にするよりルチルが着たほうがいいだろう?」


「た、確かにそうですが……」


私はしばらく迷って、でもやっぱりこのかわいらしいお洋服やアクセサリーにはときめくものがあり、最後にはありがとうございます、と言いました。


「あなたの親切に感謝します。

ありがたく使わせていただきます」


「そうか、よかった」


ルカは満足そうに微笑みました。


私は、ルカのくれたふんわりした赤いワンピースを手に取り、薄手の寝巻の上からかぶってみます。そして部屋の真ん中でルカに振り返ってみました。


「似合いますか?」


「ああ、似合うよ」


ルカは優しく言いました。


「深紅、きれいですね。

神殿では、白と紫しか着られないから、なんだか新鮮です」


それは足首までの長いすその、上品なつくりのワンピースで、たくさんのドレープがとってありました。回ったら綺麗に広がりそうで、私は部屋の真ん中で、くるりと一回転してみせました。


「わぁ、素敵……」


綺麗に広がるドレープに、私はほれぼれして、もう一回転まわってみました。


「あっ」


「っと」


服のすそを踏み、うっかり転びかけた私を、上手にルカがキャッチしました。そうして私をだきとめたまま、ルカはベッドにしりもちをつきました。


「まったく、大丈夫か?転んだらけがをするぞ?」


「はい、大丈夫です、あの」


ルカの耳がぴょこっとしています。あらあら。


「えーと、心が乱れてますよ」


「違う、これはそのっ、今のは仕方ないんじゃないか?

あはは、君には毎回不意打ちされてしまうな!」


彼は言い訳のように言って、私から体を離し、犬耳ならぬ狼耳を隠すように覆うと、深呼吸しました。とたんにぴこっと出ていた耳が消えてしまいます。


「ふふ、それじゃあ私が悪いみたいじゃないですか」


「今のは善意の不可抗力だ!

うっかりしてる君が悪い。まったく」


ルカはそう言って、いたずらっぽく笑いました。


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