第16話 大変! 私、風邪をひいちゃいました!
「けほっ、けほっ、……ううう……」
「ああ、無理して起きなくていい」
ベッドから起き上がろうとした私が咳き込むと、様子を見に来てくれたルカが心配そうな顔をしています。
そう、私はなんと熱をだして寝込んでいました。
昨日の朝から咳が続いているなぁとは思っていたのですが、昼過ぎからぐんぐん状態は悪化し、夜には熱も上がってしまい、この体たらくです。
もともと病弱なほうではあるのですが、ここにきて数日、環境が変わったせいかてきめんに病気になるとは我ながら情けない……。
「参ったな、すまない、ポーションでもあればたいがいの病はすぐ治るんだが……あいにく、そのたぐいは切らしていて」
「いえ、お気になさらず……」
私は熱でふわふわしながら、咳き込みすぎて傷めたのどで、蚊の鳴くような声で答えました。
まぁ確かにポーションがあれば……神殿にいたころは年中お世話になっていましたし……。
「こんなの……寝ていれば治ります……。
私、神殿にいたときから風邪を引いたり熱を出したりしやすく……こういうのは日常茶飯事で……。
心配するほどのことではありません……」
「熱を見ても?」
「はい……」
ルカは手の甲を軽く私の額に当てました。
「この熱は大丈夫じゃないだろう」
ため息をつくと、ルカは言いました。
「……そうですかね……」
「少し待っていてくれ」
そう言って出ていったルカは、しばらくして何か薬をもって戻ってきました。
「ほら、薬を飲んで……いや、横になったままでいい」
言われるまま、ルカが差し出してくれた多分ハッカか何かの薬湯を飲むと、私はぐったりベットに身を預けました。
ルカが冷たいタオルを額に載せてくれます。
「ありがとうございます……」
「寝たらどうだ」
「ふふっ……あなたがいると、落ち着いて寝られません」
「気にするな」
「ルカ、あなたはとても素敵な人ですから、気にしないって言うのは難しいことです……げほっ……。
でも、ごめんなさい、本当に放っておいて下さると助かります……あなたにうつってしまっても困りますし」
彼は心配そうな表情を浮かべた後、仕方なし、といった様子で立ち上がりました。
「わかった。何かあったらすぐ呼んでくれ」
◇◇◇
随分立って、ノックの音に、私は目を開けました。
「ルチル、入っていいか」
はい、と弱弱しく返事をすると、ルカが水を持ってやってきました。
「起きたな」
「……もう夕方……私、ずっと寝ていたのですか」
「ああ、そうだよ。具合はどうだ?」
彼は薬湯を私に手渡すと、手の甲を軽く私の額に当てて、私の熱を見てくれます。
「まだ熱っぽいな」
「いえ……薬もいただきましたし、昨日よりもずっと良いです。
ああそうだ、それよりそろそろルカの呪いを薄めないと……」
「ああ、そんな時間か……」
少しすまなそうに彼は眉を寄せました。
「……具合の悪いのに」
「そうはいっても、呪いが戻っても困ってしまうでしょう?」
「まぁ……それはそうだが……大丈夫なのか?」
私は頷くと、解呪の文言を唱えます。キラキラした光が舞い、ルカを包みました。
「ありがとう。
俺はこれから、少し家をあける。
できるだけ早く帰るが、ここでおとなしく養生していられるな?」
私は頷きました。
「そうだルチル、何か食べたいものとか、欲しいものはあるか?」
私は首を振りました。
「じゃあ好物でもなんでも」
「何もないですよ」
「本当は?」
「本当とは……?」
「遠慮しなくていいってことだ。
こんなときに気兼ねしなくていい。とにかく食べたいものでも欲しいものでも。あればもってこよう」
「本当に何もないのです。
だいたいここでは、望んでもそう簡単に何でもという訳には……」
「まぁ言うだけタダだ。いってみたらどうだ」
「……」
私はあまり思いつかず、黙ってしまいました。
「じゃあルチル、子どもの頃、好きだった食べ物は?」
「……えーと、アイスクリームの乗ったアップルパイ?」
「じゃあ子どもの時に欲しかったものは?」
「……ふふっ、くだらないものですよ、キラキラしたアクセサリーとか、お姫様みたいなドレスとか。
まぁその後は巫女になり聖女になりましたので、そういう世俗のものとは縁遠い人生です」
彼も下らないと思ったのでしょう、そうか、と言って少し笑いました。
「食事は、台所の鍋にスープを作っておいた。
食べられるようなら食べてくれ。俺はいってくる。安静にな」
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