第15話 【SIDEララ】ピンチはチャンス!
◇◇◇
宮廷の王の御前から退出し、私は神殿に戻る廊下を急ぎ足で歩きながら、前後左右、背後にも誰もいないことを確認し、口を開いた。
「……神官長様、ルチル様を連れ戻して幽閉って、これは大変なことになったのでは?」
「大変なことになった」
「どうするのです?」
「今のところどうにもならん」
「ルチル様がもしここに戻ってきたら幽閉されちゃうんですよね!?
その後絶対ろくでもないことになりますよね!?!?オズワルドとかにどんな目にあわされるかわからないし……」
「案ずるな。ルチル様は戻ってこないじゃろうて」
神官長様はふん、と笑った。
「ルチル様は機転がきく。安全だという確信がなければ、ここには戻るまい」
確かに、と私は納得した。ルチル様は賢い。抜けてるところはあるけど、基本すごく頭のいい人なのだ。私もおそばに5年居て、それはわかっていた。
それに神官長さまは、ルチル様の育ての親。そして私の育ての親でもある。
私達が神官長様の顔色でその心がわかるように、神官長様もルチル様を育てただけあって、きっとルチル様の内心がわかるのだろう。
「ララ、この窮地は好機じゃ」
「え?」
納得いかない顔の私をおいて、神官長さまは話し出した。
「王はオズワルドを重用し、魔術局は力を強めている。今最も権勢が強いのは、魔術局ただ一つ。
神殿、魔術局、騎士団の3つの均衡は崩れ、魔術局だけが突出して力をふるい、神殿はないがしろにされている。聖女の罷免まで魔術局に手出しされるまでに至った。
しかし考えてもみなさい。これは神殿の力を取り戻すチャンスでもある」
「どういうことですか」
「魔術局からきた聖女代理サラはルチル様の代わりにならず、国を守る聖女の結界は破れた。魔物討伐に騎士団や魔術局は駆り出されてたが、それを収められないだろう。
ルチル様を追い出して聖女の結界を維持できなくし、神殿と国に厄災をもたらしたのは、魔術局のオズワルドだということは、私達も民も皆知っている。
これから魔術局の地位は失墜していくじゃろうて。
ルチル様不在であればあるほど、国は傾き、オズワルドの立場が王宮内では悪くなる。ひいては、魔術局の足下を崩すことに繋がるのだ」
「でも、そうしたらこの国はどうなるのです……魔物入り放題じゃないですか。国、滅びちゃいません?」
「それまでに、ルチル様の立場を悪くしない条件を、王から引き出して戻ってもらえばいい。
あの方がいなければこの国がなりたたないことを、あの王もわかってはいるはずじゃ。
今、王はあの稀代の魔術師オズワルドの力にたぶらかされ、妄信している。それを崩すには、今はルチル様がここに居ないほうがいいじゃろう」
「はあ……しかし、あのオズワルドのことですよ?
何としてでもルチル様を見つけてくるのでは……」
「ルチル様はみなしご。家族も親戚もなく、いくあてなど見当がつくまい。というかわしにも見当がつかん」
神官長さまは意地悪に笑った。
私は少しだけほっとして、心の中で女神様に祈った。
ルチル様がオズワルドに見つからないように。
今日も元気で過ごしていますように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます