第14話 【SIDEララ】青ざめる魔術師オズワルド、追われる聖女ルチル
そもそも聖女の結界は、ただ魔力があればはれるわけじゃない。
聖なる力の素養、と長い年月の訓練が必要だ。
適当な防御結界とかならある程度の魔力があればいいと思うが、聖女の結界はそれとは違う。
なので、ぽっとでのサラに聖女の結界を張るのは無理だと思う。
巫女はともかく、聖女の資質のある人間なんて、10年に一人見つかるかで、神殿だって、聖女を探すのに数十年単位の月日を費やしているのだ。
「国を守る結界は、通常の簡易的な魔術とは違うもの。長い鍛錬によって使いこなせるようになるものです。どんなに魔力があっても難しいものでございます……」
お、神官長様も同じこと言ってら。その表情には『こんなことになったのはオズワルドが天明宮を破壊し、ルチル様を追い出したからじゃろ』と書いてある。
「そもそも、この顛末は神殿が予備の聖女を育てていないせいでもある。
だから体調不良のサラがこんな目にあうのだ!」
怒りのオズワルドが理不尽に言いつのるが、予備の聖女なんてそんなもんはいない。
それが用意できるのなら、何十年も聖女を探して神殿が苦労したりしないのだ。
それがもし本当にわからないのだとしたら、オズワルドはアホの子である。
「申し訳ございません。こればかりは天の差配、今の神殿の力では聖女の力を持つものを探すことは難しく……。
力のある聖女の資質をもつもの魔術局の方で見つけていただけるのなら、ぜひよこしてくださいませ」
「…………」
神官長さまの言葉に、オズワルドが不機嫌顔で私達を一瞥し黙り、王が表情を変えずにゆっくりと口を開いた。
「オズワルド。魔術局で出した討伐隊は、どのようになっている?」
「5部隊が向かいましたが……」
「討伐は終わったのか」
「いえ……」
「今のところの被害は?」
「辺境の村から村民を一時避難させたときいておりますが……」
王の質問に、オズワルドは歯切れ悪く答えた。
つまり、5部隊を出した魔術局は結局魔物の撃退ができず、市民は町に戻れていないということだ。
王は思案しているようだった。そして、またゆっくりと口を開いた。
「聖女代理サラは体調が悪いようだな。早急に回復させ、職務にあたれるようにせよ。
体調が万全なら、結界をはるのは容易だと言った言葉を証明せよ。
そうでなければ、考えねばならぬな」
考えねばならぬ、という穏当ではない王の言葉に、
「は……」
と、オズワルドは青い顔で返事をした。サラも平静を装っていたが、その手が小刻みに震えている。
考えねばならぬ、というのは、誰かがこの責任をとるということであり、それはオズワルドとサラのことに他ならない。
国を危機にさらした責任をとるということであれば、生半可なことではすまないだろう。
そして、オズワルドは王にだけは逆らえない。
その王に怒られるオズワルドはみものだった。
しかし、王の次の言葉に、私は思わず顔を上げた。
「オズワルド、念のためルチルを呼び戻せ」
「なっ……!
あ、いや、王の考える通り、サラの予備は確かに必要か……。
ルチルはすぐに呼び戻しましょう……」
王とオズワルドの予想外の言葉に、私は思わず口を出していた。
「恐れながら。聖女がこの国を捨てたと噂になっています。この状況でルチル様が帰ってくることなどあるのでしょうか」
「はっ、巫女の分際で王に口をはさむな!
ルチルがかえってきたいかどうかなど関係ない!
そうだ陛下、ルチルはこの魔術局が一丸となって、何としてでも見つけ出します。そして、連れ戻し次第幽閉すればいいでしょう、そうすれば逃げられないはずです」
王は頷き、私と神官長さまは、予想外の成り行きに口をつぐんだ。
「お前たちもルチルの行方を隠し立てすれば、王にたてついたということになる。覚えておけ。分かったならすぐに教えろ」
オズワルドは薄笑いを浮かべてそういった。
何てこと……ルチル様、帰ってきたら幽閉されちゃうなんて……。
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