第11話 夜に消えたルカ ②

「それは私のためですか?」


彼は黙っていました。


「私の魔法が解けて、あなたがあの大きな狼さんになってしまったら、私を食べちゃう、なんて思ったんでしょう」


彼はやっぱり黙っていました。


「だから、気分転換に出かけてくれたんですね」


「君はなんでもわかるんだな」


「いいえ、何でもはわかりませんよ」


聖女のお役目を追放されることとかもわかりませんでしたし。


「ねぇルカ、帰りましょう。あなたが狼さんにもどることはありません。私の力に誓って」


私の言葉に、ルカは私から視線を外し、何も言わず地面をしばらく見つめていました。


長い長い沈黙の後、彼は静かに口を開きました。


「夜、狼になっている間、俺は何も覚えていない」


そう言って、深いため息をつきました。


「昔、俺の……夜の狼の呪いを解こうとしてくれた人がいたんだ。

俺を助けようとして、この森にやってきた」


「ええ」


「……大事な人だった」


「ええ」


「しかし、俺が気が付いたとき見たのは、のぼった朝日と、赤い血と、俺の手で傷つけた、その……」


彼はそれきり、黙ってしまいました。


私は立ち上がり、スカートのすそを払うと、彼の前に立ちました。


「あなたはもう、夜に狼になったりしません。

それに、今はできなくても……私がきっと、あなたの呪いを解いてみせますから」


言って、私はルカのその両手、しなやかで骨ばった、武人らしい彼の手をとりました。


「私の力を、私を信じてはくださらないのですか、ルカ」


「いいや、そういうわけじゃないんだ。ただ念のため……」


「私を信じてください、ルカ。あなたはこれから、夜は安らかに人の姿で眠れるんです。それを私が約束しましょう」


私の中で、何か心が決まった気がしたのです。

それは、多分、ルカの優しさで。


「私は、聖女でした。

この国を守り、民を守ってきた聖女だったんです。

私はルチル・マリアステラ。この国に力を認められ、国を守ってきた、それなりに力を持った、人間だったんです。

私の力が、あなたのそばにある限り、あなたが、夜に狼に戻るなんてことはありません。

ね?私を信じてください」


「そうか」


彼はじっと私をみました。


「ただものではないと思っていたが」


「じゃあ信じてくれますか」


彼は私の手を取ったまま、立ち上がりました。


「……信じよう、君の力を」


「じゃあ、家に帰りません?」


「そうしようか、ルチル」


彼は微笑みました。


私は、私の手を取った彼が、その手を離してしまわないように、彼の手をそっと握ったまま、私達の家に向かって歩き出しました。






**********


作者からお知らせ


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

次から第2章となります。


もしルチルかわいい!

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