第8話 聖女パワーで爆誕!スターシアの木

◇◇◇


「おや、これは君がとってきたのか、ルチル。ベリーに山菜と、あっ、これは根曲ダケだけじゃないか、こんな珍しいキノコよく見つけてくれたな」


台所のテーブルを見るなり、ルカが嬉しそうにいいました。


「はい、夕飯の足しになればと思ったのですが」


「ありがたい。ところで、この枯れた実みたいのはなんだ?」


ルカがスターシアの実……が干からびたしおしおの何かをひょいとつまんで掲げると、私にききます。


「ああ、それはスターシアの実……がだめになったものですね」


「スターシア?食べると魔力回復するっていう貴重な実のスターシアか?

すごく珍しいっていうので有名な……」


「はい、そのスターシアです」


「めったなことでは見つからないと聞くが……俺も初めてみたな。良く見つけるもんだ……」


彼は物珍しそうにつまんだ干からびた実をまじまじとみました。


「本当はリンゴのように赤い実で、結構ジューシーな食べ物なんですよ」


「君は食べたことがあるのか?神職でもなかなかお目にかかれないと聞くが……」


あっ、しまった。もう地位に関わりそうなことを言うのはやめましょう。追放聖女だということがばれてしまいそう……。

まぁルカはそういうことを気にしなそうですし、バレたところで何だという話かもしれませんが、私は……そうですね。少し恥じているのかもしれません。


「ああ~、ええっと、ただ確かにスターシアはスターシアですが、これは腐ったあとに干からびたみたいですし、とても食べられませんね!」


私は無理やり話題を変えました。


「食べられない実をもってきてどうするつもりなんだ?」


「この家の庭に種をまいてみようかと」


「育つのか?」


「いえ……スターシアが栽培に成功したという話は聞いたことがありませんが、万一うまくいったら面白いじゃないですか。育ててもいいですか?」


「まあ、育てられないから貴重なんだときくからな。好きにしたらいい。

その栽培とやらに成功したら、俺にも食わせてくれ」



◇◇◇



私の摘んできたキノコのスープの夕飯をかるく済ませたあと、まだ暗くならないうちに、私はスターシアの干からびた実から小さな種を取りました。ルカから、家の庭スペースの端っこにスターシアの種を植える許可は貰っています。


私は庭に出ると、庭の端っこの土に浅く種を埋め、そっと土をかけました。


「祝福でもしたら良く育つかしら……?」


私は思いついて、祝詞を唱えました。歌うように祝福の言葉を終えると、空気の中に小さな光が散り、消えていきます。


「君、種は埋め終えたのか?この光は?」


いつのまにかルカが隣にやってきていました。


「はい、今終わったところです、この光は良く育つようにと祝福を……」


「おや、ルチル、ほらそこ、みてごらん」


彼が指さす方向を見ると、今埋めたばかりのスターシアの種の場所から、小さな双葉が伸び、ぐんぐん枝を付けていきます。


「わあ、すごい、どういうことなんでしょう」


私の中に芽生えた探求心が、その伸びた枝に手を伸ばし掴んだ瞬間でした。


「え?」


奇跡の力で成長しはじめた木は、枝をつかんだ私と一緒に、そのままものすごい速度でぐんぐん伸びていきます。


葉を茂らせ、伸びた枝はますます太くなり、気が付けばいっぱしの巨木へと変貌していました。私はさっきまでは小枝、今はもはや太い枝となった枝を掴んだまま、成長した木のかなり高いところへとぶら下がっていました。


「すごい!ルカ!見ましたか!?

新芽が木になっちゃいましたね!」


「ルチル!」


「私の力でこのスターシアの木が育ったのだとしたら、史上初めてのスターシア栽培の成功を手にしたということでもありますよね、これは大発見なのでは」


「それどころじゃないだろう!?

早く降りてきなさいっていうか君、そこから降りられるのか!?」


私はぶら下がりながら答えました。


「このまま落ちたら怪我をします!

がしかし!私、木登りは得意なんです!」


そう言いながら私は身をひるがえし枝に昇ると、幹にむかってよじよじしました。


「おいルチル、気を付けろ!」


「あはは、心配し過ぎです、私、子どもの頃は猿ルチルなんて呼ばれていて」


と調子に乗った私が笑いながら幹に手を伸ばした瞬間でした。



バキ。



「危ない!」



枝が折れたのと、ルカが叫んだのは一緒でした。


私の手は空をつかみ、一瞬の浮遊感と共に、私は背中から地面に墜落していきました。

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