第5話 狼さんを人間に戻して、ちやほやされちゃいます!?②

「とけましたよ、多分」


一応これでも聖女です。あ、元ですけど。大成功の予感に、私がにっこり笑えば、つないだ手が、みるみる美しい男の手に変わっていきます。


尻尾は消え、耳は消え、手足は人のものに。


そう、そこには美しい青年が立っていました。


「うそだ……」


彼は自分の人間の者に戻った手足をしばらく呆然と眺めると、次に髪の毛のあたりを触り、消えた犬耳を確認しました。


「本当に戻っている、これは!本当に呪いを解いてくれたのか!?

ははっ、すごいな、君という人は!!!」


彼は立ち上がり、私を抱え子どもにやるようにたかいたかーい!とやりました。


「ひゃあ!」


私はびっくりして顔に血が上るのを感じました。


ていうか力持ちですね!

なんか照れちゃいますよ!


まっかっかになったと思われる私の顔色を見るなり、


「失礼した、あまりにも嬉しくてな」


と彼はにこにこしながら体を放してくれました。


「君は恩人だ。

……君のためなら何だってしよう。俺に何をしてほしい?本当に、俺はなんだってやるぞ!」


そう決意表明とともにずいっと私に近づく彼の頭には、しかし、ぴょこんと犬の耳がまた戻っていました。


ああ、これは、呪いは解けませんでしたね……。ちっ……オズワルド(多分)め……。


「あの……お喜びのところすみません。

耳が戻ってしまっています」


彼が自分の頭に手をやり、犬耳に触れました。


「あ……」


と彼はかすかに落胆の表情を浮かべました。


「ごめんなさい。

私にはこの呪いを解くことはできなかったようです。できたのは、いっときその効果を薄めること、というところでしょうか。

私がこうして呪詛を薄めれば呪いは一時的にとけてあなたの姿は完全な人間に戻るでしょうが、大方の呪いは心が乱れれば力を増します。

あなたの感情が高ぶったり、心を乱したりすれば、今みたいに半人半獣の姿に戻ってしまうでしょう。

……やはり私でも力不足だったようです」


「つまり、心を平静に保てば、人の姿を保てるということだな」


「まぁそういうことになります」


「では、そのように勤めよう。苦手ではない」


彼はすうと息を吸い、はあと吐いて深呼吸しました。ぴょこんと飛び出した犬耳は、そのとたんに消えました。


「あとは……効果を薄めただけですから、ある程度時間がたてば、あなたはまた元のかわい……じゃなかった狼と混ざった姿に戻ってしまいますね。

人の姿を保つのであれば、少なくとも一日一回は今の解呪の魔法を使わなければならないでしょう。

呪いというものは、月が昇り夜がくるたびに力を増すものですから」


「それでも戻らなかったものを、君は戻してくれた。騎士の礼節に賭けて、君に礼をさせてくれ」


「何もありません……このように宿を貸していただいただけで、十分です。

しいていうなら、大変恐縮なのですが、今すぐ休みたいのです。少し、疲れてしまって」


「もちろんだとも、すまない、こんな夜更けだものな。

今すぐ部屋を用意する。やすんでくれ。客間を作っておいて良かった」


客間を作った……ということは、もしかしてこの家は彼の手作りなのでしょうか?だとしたら大したものですね……。


私は二階の部屋に案内されました。そこはベッドが一つあり、綺麗に片付いています。


「何も心配しなくていい。これでも俺ははえある騎士団の一人。

君に害をなすことはしまいよ。どうぞやすんでくれ」


そう言って彼は去り、私は彼のお言葉に甘えて、すぐに寝ることにしました。


正直、へとへとだったのです。暖かい寝具に横たわると、私はすぐに意識を失ってしまいました。

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