第4話 狼さんを人間に戻して、ちやほやされちゃいます!?①
彼の家は、しばらくあるいた先の、森の中にありました。
家について早々、
「見苦しい姿で失礼した」
と着替える彼。簡素なシャツにズボン姿ですが、シンプルにかっこいい。
そして精悍で凛々しい雰囲気とは対照的なファンシーな犬耳と、お尻あたりのふさふさとした尻尾がかわいい……。
靴を履かない素足は膝から下は動物の四肢です。手もひじからはやはり犬のような作りで、手は完全に肉球のある動物の手なのでした。
いえ、じろじろ見るのは失礼でしょう。私はそっと目線を外しました。
「あなたは人間……なんですよね?この姿はいったいどうしたんです?」
「さっきも話したが、これは呪いでな。
狼に変じる呪いをかけられた。日中はこの狼と人間が混ざりあったおかしな姿に、夜は巨大な狼に……。
まあ、君は夜の俺の狼の姿も見ただろう?」
呪いですか。確かに山のように大きな獣になっていましたね。
「これは強力でな。俺のために国の巫女や魔術師たちがいろいろ手を尽くしてくれたが、結局国の誰にも解けなかった」
「ふーむ、それの呪いは誰に掛けられたのです?相手が分かれば、その相手をやつけてしまえば呪いは解けるものですが」
「それは……」
彼は言い淀みました。
「……わからない。
呪いは、辿ることができないものだ。誰だと特定することは難しいだろう」
「まぁ……そうですね」
「できることは、自分を恨んでいる人物を推測するか、解呪できる人間を探すことくらいだろうが……。
しかし、海国一の魔術師が解呪を試みて、手も足も出なかったからな」
「海国? 隣国ラブールの魔術師につてがあったのですか?」
「ああまぁ……俺は隣の海国ラブール出身でな。昔はラブールの騎士だったから」
ああ、ラブールの人だったのですね。
そう言われてみれば、彼の意志の強そうな黒い瞳は、海国の人々に多いものでした。
「皆が言うには、きっとこれだけ強い呪詛であれば、俺に呪いをかけたのは、誰より魔力の高い魔術師だろうということだったが」
誰より魔力の高い魔術師……?
それが本当なら、まさかとは思いますが、呪いをかけたの、オズワルドじゃないですよね……?
オズワルドであれば、隣国の魔術師たちの中でも一番強いはず。
しかし、呪詛は魔術師がもっともやりたがらない術式の一つでもあります。
効果は絶大でありながら、それが破られたとき、呪詛者は魔力を失う、死ぬなどの決定的な実害を被るので。
そういうことを、功利主義者かつ利己主義者のオズワルドがやりたがるとは思えないのですが……。
という内心は押し殺し、私は口を開きました。
「あの、あなたの呪い、解いてみましょうか?
私が呪いを薄めたとはいえ、解呪には至っていないですよね?一応、この手のことは得意ですので。もしかしたらできるかもしれません」
聖女でしたし。浄化とかはね。ほんと得意です。
多分この国で一番くらい得意なのではないでしょうか?
「馬鹿をいうな。国一番といわれるような魔術師や巫女たちが解呪を試みて、誰一人として成功しなかったんだぞ。
だから俺ごとこの森を封じ、森に結界を張っているんだ」
「まぁ、ものは試しと言いますから」
「しかしこれは呪いだ。上手くいかなかったら呪詛が君に跳ね返る可能性もある、止めたほうがいい」
「その手のことは心配しなくて大丈夫です」
聖女の私に呪詛返しとかできるなら顔を見てみたいものですねほほほ。
そしてもしオズワルドがこの呪いをかけた張本人なら、ぜひとも私が破ってやりたいような気もしますし。
攻撃魔術とかなら魔術局のオズワルドに負けるかもしれませんが、聖魔法の類で私の術をやぶるものなどいないでしょう、などと内心驕ってみる私なのでした。
こういうことをいうと神官長さまに叱られてしまいますが。
私は彼をなだめ、そばに座るよういいました。彼は少し戸惑ったようでしたが、おとなしく言うことをきいてくれます。
私は、そっと彼の肉球を握りました。すごく……ぷにぷにしてる。
いえ、違う、そこじゃなくて、解呪です、解呪。
人のためになるなら、これってすごくいいことですよね。
私は人のために働けることに喜びを覚えつつ、えーいと気合を入れました。
光と共に、
しゃらんら~~
と空中にキラキラした光が舞いました。
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