現実の重さに押しつぶされそうになった主人公が、
ふいに現れる少女に導かれ、
気づけば武蔵野のような原野と銀白の荻、そして巨大な昼の満月に佇んでいる——
その光景の描写が圧倒的に精密で、読者の感覚まで一瞬で引き込んでしまう。
この作品は“解決”や“救い”を語りません。
代わりに、
「いま少しだけ、終わりを延期してみよう」
という静かな決断を描きます。
それが読み手にとって、とても大きな力になる。
比喩は繊細で、古典の引用も自然に馴染み、
現実と幻想の境界がほどけるような読後感がある。
“夢十夜”や“村上春樹のごく短い一篇”のような味わいの短編が好きな人には間違いなく刺さるはず。
短いけれど、心に長く残る作品です。
静かに落ち着きたい夜にぜひ。