第3話 クーロンズ・レプリカ

 マスターから買った情報によると、ふたつ隣の街の外れ、迷宮として名高い違法建築群であるクーロンズ・レプリカという場所に潜んでいるらしい。


 クーロンズ・レプリカ(以下、K・Rと省略)は、かつてある国に存在した違法建築の集まった地名にちなんで名付けられた場所であり、オリジナルと同様に住民たちが違法に増築に増築を重ね、広大な迷宮となっている。


 中には様々な人種、施設が立ち並び、中には立ち入り禁止の区域もあり、そこには怪物が潜むとさえ言われている。毎年千人近くはその立入禁止区域に挑み、ほぼ全てが帰らぬ人となる。


 運良く帰ってこれた人物は皆、恐怖により廃人と化しており、病院に送られるかに売られるかの運命が待ち受けるとさえ噂され、誰も入口にさえ近付こうとすらしない。


 そんな立ち入り禁止区域のひとつ。その入口に、ジャコーズと桜は立っていた。ジャコーズは愛用の刀を、桜は消音器を取り付けた旧式のアサルトライフルを手に、腰には二挺の拳銃を着けている。


「ね、ねぇジャコーズ、本当にここなの?人が入るような場所じゃないと思うんだけど?」


 入口から目線を外さないようにしながら、桜はジャコーズに聞く。


「でもマスターの情報だとここしかねーんだよな。K・Rの第27立入禁止区域ってここだろ」


 物々しい鉄の檻のような扉に、近くの壁には白いペンキで乱暴に27という数字が書かれている。


「人払いする為のふかしじゃねーの?そんなもんが徘徊してるようなとこ、立入禁止区域の外側でも誰も住まねーだろ」


「そうは言うけどさぁ……アタシ、幽霊レイスとかの相手って駄目なの知ってるでしょ」


「悪霊は俺が対処すっから、そんなビビんなよ」


 桜の不安を余所に、ジャコーズは扉に手を掛ける。少し錆びた扉は、カタカタと引っかかるような金属音を立てながらも呆気なく開いた。


「よし、行こーぜ。情報だと広い道を真っ直ぐ行った突き当たりだ」


 ジャコーズはつかつかと迷いなく歩き出す。桜は恐る恐る付いていくのだった。


─────


 ジャコーズたちがK・Rに向かって二日。事務所は結壁と00219番だけでとても静かな時間だった。


 時折電話が鳴るが、結壁が全て事務対応を行っており、依頼人とは言え、手持ち無沙汰になってしまった00219番は台所に顔を覗かせた。


「あの、結壁むすかべ……さん。お手伝いできることはありませんか?」


「あれ、どうかしましたか?依頼人の方に何かをさせては、仕事の信用に関わります。ご飯はもう少しかかりますから、テレビでも見てて下さい」


 爽やかな笑顔で返す結壁。悪気は無いのだが、いまいち融通の利かない性格をしている。とは言え。


「ご、ごめんなさい……」


「ああ、いえいえ!謝らないで下さい!そ、そうですね……料理のお手伝いをお願いできますか?」


 結壁は弱腰の相手には、とことん弱い性格をしていた。


「──美味しい……凄いです、本当に美味しいです!」


 結壁は00219番の作ったポトフに感激していた。スープから手作りをしたことに特に驚いた。結壁の場合は簡単にコンソメを使う。


「良かったです」


「後で作り方を教えて頂けませんか?もっとレパートリーを増やしたいんです」


 異様なまでに目を輝かせる結壁に若干引きながらも、00219番は「は、はい」と返事をした。


 ふと、そこで入口のドアが開く。


「こんにちは、お邪魔するよ」


 そう言いながら入ってきたのはナイネだった。


「いらっしゃいナイネさん。二人でしたら出掛けてます。数日は戻ってこないかと」


「知ってるよ。多分K・Rに行ったんでしょ。あの二人が私に言われて、はいそうですかなんて聞くはずが無いなんて分かってるからね。大方、アーリー・ダスクのマスターの情報だろう。本当あの人、侮れないもんだ」


 当然と言うべきか、やはりナイネにはバレていた。そもそも盗聴器を金庫に放り込んだ時点で気付かれていただろう。


「あの、それでしたらどんなご用件でしょうか」


 結壁は00219番の方を見やる。もしもナイネが彼女を連れて行こうとするなら、自分が守らなければならない。腕に多少なら覚えはあるが、ナイネに勝てるかは分からない。


「あの二人が居ない間に、この子を連れ戻そうとする連中が来たりすると面倒だからね。護衛だよ。まさか何処かに連れて行くとでも思ったかい?」


 ナイネの言葉に、結壁はホッと息を吐く。どうやら緊張で息が細くなっていたらしいことを自覚する。本当ならここで信用してしまうのはいけないことなのだが、結壁は人の善性をすんなりと信じてしまう悪癖を持っていた。


 ふと、ナイネが思い付いたように質問をする。


「ところで結壁君。君がここに来てから一年ほどになるけど、それまでは何処に居たんだい?その顔立ちからすると、やっぱり東洋国?」


 その言葉に、結壁は少し引きつったような顔になり、考え始める。自分の事情を知っているのはジャコーズと桜と、ここに居ないの計三人だけだ。


「あー……すまない、立ち入った事情だったかな。別に君が不法入国者であっても私はしょっ引いたりしないから安心してくれ。この街じゃ珍しくもないし、点数稼ぎなんて柄でもないしね」


 ナイネの気遣いとは裏腹に、結壁の言葉は意外なものだった。


「そうですね……僕は、この世界の人間ではありません」


「この世界の……?国じゃ、なくて……?」


「へえ、なかなか面白そうだね。差し支えさえなければ、聞かせてくれない?」


 結壁は少し悩んだが、やがて意を決したように、ゆっくりと話し始めた。


「では手短に──僕は、元居た世界では最初は普通の学生でした。両親が居て、学校に通ってて、友達も居て。魔法は、僕の住んでいた世界では、一般的には存在していないことになっています。


 あるとき、ふとした事から世界の違和感に気付いてしまい、それに巻き込まれたんです。望んで足を踏み入れた訳じゃありません。できることなら……もしもそれを知らずに生きていられたら、きっと幸せに暮らしていけたのでしょう。


 それらに関連したいくつかの事件を経て、僕とその時協力してくれていた人たちは、やがて【探索者】と呼ばれるようになりました。人知の及ばない神秘に足を踏み入れ、暴く人たちは僕たちの世界ではそう呼ばれています。


 実は、僕はまだ元の世界でとある事件を追っている最中だったんです。ですが、次元のひずみに飲み込まれて、気が付けばこの街に。もしかしたら、向こうでは死んだものと思われているかもしれませんね。ですが、それでもできれば元の世界に帰りたいと思っています。


 そんな折、ジャコーズさんと桜さんに出会いました。あの二人は僕を雇いながら、元の世界に帰るための手掛かりを探してくれています。幸い、この世界は色々と違いはありますが、僕の住んでいた世界によく似ています。この国は世界最大と言われてますから、ここならいつか情報も手に入ると信じています。


 ……僕がお話できるのは、これくらいです」


「なるほど、別の世界からね……」


「あと、僕の住んでいた世界では言葉は国によって違うことが大半です。この世界だと日本…僕の世界で言う東洋国ですね。そこの言葉を使っているんですが、この国ではみんな違う言語で話しているのにその全てが通じることに驚きました。知らない言語なのに意味がちゃんと分かるというのは不思議な感覚でしたね。ただ、字の体系がこっちと違うせいか、そっちは覚え直さないといけないから最初は結構苦労しました」


「国ごとに言葉が通じないというのは凄いね。かなり大変なんじゃない?」


 話が盛り上がる結壁とナイネに対して、興味深く聞いている00219番だが、その中に入れない一抹の寂しさを感じていた。それは自分自身が、まだ何も知らない子供だからということに他ならない。


 成長して大人になれば、もっと誰かと話せる機会は増えるだろうか。もっとできる事は増えるだろうか。


(……早く、大人になりたいな)


 そんなことを考えながら、00219番はポトフを食べながら、ずっと二人の会話を聞いているのだった。


─────


 ジャコーズに斬られたチンピラがその場に倒れる。死んではいないが、当分悪さはできないだろう。


 二人が第27立入禁止区域に入りしばらくして、脇道から武器を持った連中が現れたのだ。無法地帯ということは聞いていたが、見上げれば大量の窓やベランダがある中で堂々と強盗に及ぶところを見ると、成る程、退屈はしないだろう。


 上から覗き込む住人たちと目が合うと、住人はそそくさと身を隠すのだった。どうやら窓から狙撃をしてくるような住人は居ないらしい。


「やあねぇ、本当に男って醜いったらないわ」


桜が拳銃を腰に戻し、転がっている刃物を片っ端から用水や建物の隙間に蹴り入れていく。


「お前本当に人間相手だとメチャクチャ強いな。悪霊とかだとからっきしなのに」


「アタシの魔法は攻撃も防御も補助もぜーんぶ対生物用なのよ。知ってるでしょ。そりゃまあ、屍鬼アンデッドくらいなら一応通用しなくもないけどね」


「じゃあ屍鬼以外の化け物とかには効くのかな、それ」


「生きてるなら蜂の巣にしてあげるわよ」


「おっかね。頼りンしてるわ」


 それから更に歩くこと数十分。曲がり角を曲がったところで、ようやく突き当たりが見えた。


 両開きの扉の前に、数人の若い男たちが銃を持って立っている。ギリギリ未成年だろうか。ジャコーズたちは特に躊躇することなく進む。


「こんちは。アーリー・ダスクのマスターからの紹介で来た、ジャコーズだ。目的の人物に会いたいんだけど、ここに居るのか?」


「あー…ということは、お前がジャコーズ?まだガキじゃないか」


「あれ、何だ話通ってんのか。あと多分お前らよりは年上だよ。で、どうなんだ?」


『いいよ、入ってもらって』


 男たちが何かを言う前に、扉の向こうから声がした。それを聞いた男たちは、静かに道を空ける。


「騒ぎ起こしたらタダじゃおかないからな」


 その言葉に桜は笑顔で手を振り、二人は中に入った。


「ナイネの奴、話通ってるなら電話くらいしやがれっての」


「盗聴器と、出し抜かれたことの仕返しかしらね」


「盗聴器については逆ギレじゃねーか」


 言いながら、二人は部屋の真ん中でテーブル越しに座る人物を見る。女だ。声の感じからしても二十台前半、もしくは外の連中と同じく未成年だろうか。そして近付いてみれば、薄ぼんやりとした灯りに照らされた女──いや少女は屈託の無い笑顔を二人に向ける。


「はじめましてだね。ボクは人の記憶を覗き見することを趣味を兼ねて仕事にしている。名前は、そうだね…本名を名乗るのも危険だし、ボクの愛読書から【サイコダイバー】とでもしておこっかな。よろしくね」


 少女──サイコダイバーは声に反してもう少し幼い印象だった。十代前半から中盤と言ってもいいほどだ。


「俺はジャコーズで、こっちが桜だ。初めまして。ナイネって奴から内容は聞いてるか?」


「うん、記憶喪失の奴隷の女の子から、無くした記憶をサルベージすればいいんだよね?」


「話が早くて助かる。そいつを連れて来ようにも、ここは危険だって話だからまず安全の確認のために俺たち二人でここに来た訳だけど、まあ連れてこなくて正解だったな」


「手厚い歓迎だったわよね。まあ当分悪さなんてできないでしょうけど」


「まあ本題だ。あんたの力を借りたい。貸してくれるなら、報酬の話に移りたいんだけど」


「それについてなんだけど、さ」


 言葉を濁すサイコダイバーに、ジャコーズは違和感を覚えた。


「ごめん、先に他に買収されちゃっててね」


 二人が気付いたときには遅かった。周囲から銃口を向けられている。部屋が薄暗か

ったのはこのためだったのだ。


「くっそ、そういうことかよ」


「もう、本当嫌になるわね」


「二人を縛り上げて」


 サイコダイバーの言葉に男たちが近付き、後ろ手に二人を拘束する。


「ちょっと、もう少し優しく縛りなさいよ」


「うるせえ、黙ってろオカマ野郎が」


「これだから男は嫌いなのよっ、アンタみたいなのがアタシと同じ性別だと思うと反吐が出るわね!」


「何だとこのクソが!」


 男が桜を殴るために武器を振り上げる直前、桜は立ち上がり素早く男の顎に蹴りを入れた。よろめいたところに、更に回し蹴りを横っ面に叩き込む。


 蹴られた男は歯を飛び散らしつつ、軽く回転しながら床に倒れ伏した。白目を剥いて気絶した男に、周囲の仲間たちは呆然とし、動くことを忘れていた。


「別にアタシらをハメたのはいいわ、仕事なら仕方ないわよ。でもそれならちゃんと徹底した対策はしとくべきよね」


「桜、加減しろよ?ったく……」


 ジャコーズの言葉を聞いているのかいないのか、桜が目を細め、小さく何かを呟くと、二人を腕を縛っていた紐がバラバラになり、床に落ちた。


「え、ちょっと何したの今?」


 サイコダイバーの言葉に男たちが正気を取り戻し、銃を構え直そうとしたが、それよりも早く桜は指を鳴らす。


「うわっ、何だこりゃ!」


「何だ、何も見えない!」


 周囲の男たちが悲鳴を上げ始め、サイコダイバーは余裕の表情を怯えの色へと変える。


「一時的にだけど視力を奪わせてもらったわ。アタシ女の子には優しいけど、男に容赦するような心は持ち合わせて無いのよね」


 そう言いながら桜が両手に魔力を集め、


「あ、おいちょっと待て桜──」


 両手を合わせて大きく鳴らす。


「「「ぎゃああぁ!!」」」


 一斉に叫び声を上げる男たち。見ると、男たちの指は全てがあらぬ方向に折れ、捻れ、血を流していた。


 その様子を見てジャコーズは、あちゃーと言わんばかりの表情で顔を片手で覆う。


「ま、魔法……もしかして貴方…」


「そ、エルフよ」


 サイコダイバーの言葉に答え、軽く髪をかきあげる。


 そこには人と明らかに違う、尖った耳があった。


みじか耳のエルフ……!」


 魔法に特に長けた種族である人間族に似た存在、エルフ。


 エルフたちには大きく四つに分かれた特徴があり、それにより若干細かく別の種族としてカテゴリー分けされている。


 長耳、短か耳、そしてダークエルフの長耳と短か耳。


 そして、その中でも桜は一際対人に特化した短か耳の一族だった。


「怯えなくていいわよ。言ったでしょ、アタシは女の子に危害は加えたりしないから、ね」


 ジャコーズは椅子に座ったまま足を組み、軽く左右を見る。痛みと恐怖で戦闘不能になった男たちを見て、大きく溜め息を吐くのだった。


「……いやその、悪い。もうちょっと加減すると思ったんだけど」

 少しばつが悪そうに頭を掻くジャコーズに対し、得意げな顔の桜。


「ふふ、アタシってば強いでしょ?」


「ア・ホ・か!加減しろっつったろ!俺たちは交渉しに来たって言ってんだろーが!無力化すんなら別の方法あったろ!何、全員の指、複雑骨折させてんだ!」


 堪えかねてジャコーズが叱りつけるが、桜は素知らぬ顔でテーブルに足を組んで腰掛けている。


「き……君たち、一体何者なの?短か耳のエルフなんて戦争の後、この国からは全員出ていったと思ったのに」


「アタシは出ていかなかっただけよ。種族による思想の違いなんて国の問題であって、アタシにはどうでもいいもの」


 かつて、短か耳のエルフ達は優生思想を掲げ、この国をヒューマン族達に代わり支配しようと戦火を撒き散らした。終戦後に短か耳のエルフ達は国を去り、遥か遠くの地で新たな国をおこしたらしい。


「頭が良いだけの馬鹿ってすぐ戦争ああいうことをやらかすから嫌いよ」


 露骨に不機嫌になった桜はそう言いながら、煙草に火を着けて黙り込んでしまった。


「改めて、悪かった。結果として脅迫紛いになっちまうけど、あんたらの依頼人より報酬は多めに出す。あと怪我は治させる。だから、俺たちに協力してくれねぇかな」


 ジャコーズの真っ直ぐな瞳を見やり、サイコダイバーは考えるように目を閉じる。数秒の後。


「分かった、ボクたちは得になる方を優先して生きるタチでね。君たちに協力する方が安全そうだ。けど、先にみんなの怪我を治してもらえるかな?」


 サイコダイバーはこちらの申し出を受ける気になってくれたらしい。差し出された手を、ジャコーズは迷わず握り握手する。


「よし、怪我をまず治すけど、いきなり攻撃してきたら次は俺が腕か足の骨を折るから、その辺肝に銘じてくれよ。桜、あいつらの治療を頼む」


「え、嫌よ?何で男なんかの怪我にアタシの魔力を使わないといけないのよ」


「だーも、話が進まねえからさっさと治せ、このヌケサクラが!」


 ごねる桜を怒鳴りつけ、渋々男たちを治療させた。


 折れた骨が元に戻る際の痛みからなのか、全員の治療が終わるまでの数十分、悲鳴が上がりっぱなしだった。


 治療が終わった後、ジャコーズは見張りのために抜いてあった刀を鞘に戻す。男たちが持っていた武器は全て部屋の隅だ。


「さてと。とりあえず言ってた子を連れてくるから、それまで待っててくれ。報酬は直接持ってきた方がいいか?」


「うん、ここは銀行とかも無いから現金を持ってきてくれると有難いかな」


「分かった、それじゃ行ってくる。往復だから四、五日くらいかかる、予定を空けておいてくれよ」


「うん、またね。ジャコーズさん」


 ジャコーズと桜が出て行き、その扉が閉じる。程なくして、サイコダイバーはずり落ちるように椅子に座り込んでしまう。


「お嬢さん、大丈夫っすか」


 サイコダイバーの部下の青年が傍に寄ってきた。


「あいつら、何だったんすかね…妙に落ち着いた雰囲気のガキと短か耳のエルフなんて」


 扉を見つめていた部下がサイコダイバーを見下ろすと、彼女は自らを抱くように腕を抱えて震えている。


「お嬢さん、しっかり!本当に大丈夫っすか!」


 部下が両肩を掴んで軽く揺さぶる。


「あの人……」


「え?」


 サイコダイバーは治療の最中、その能力を使い見張りをしていたジャコーズの記憶を密かに覗いていたのだ。


「みんなに伝えて…あの人達、特にジャコーズさんには絶対に危害を加えちゃ駄目」


「えっと、それはどういう──」


「いいから!」


 部下の質問を遮る、切羽詰まったサイコダイバーの叫びに部下はたじろぐ。


「……下手なことをしたら、死ぬより酷い目に遭う可能性があるんだ。お願いだから、言うことを聞いてほしい」


─────


 K・Rからの帰路。


 周囲は荒野。舗装された道路がただひたすら真っ直ぐに伸びる道路を走る大型のワゴン車の助手席で、ダッシュボードの上に行儀悪く足を置いたジャコーズは、座席を軽く倒して寛いでいた。桜は運転担当だ。


「しっかしまあ、ある程度安全を確保できて良かったぜ。あんなとこにあいつをそのまま連れて行ってたら面倒くさいことになってたろうな」


「近くに安全そうなホテルとかも無かったし、治安の悪さは折り紙付きって話は本当だったわね。さっき電話であの区域のチンピラたちは手出ししてこないように約束してくれたから、少しは安全に通れるわよ」


「そりゃ何より。んじゃ俺ちょっと寝るわ。モーテルに着いたら教えてくれ」


 そう言って、ジャコーズは目を閉じるのだった。


「はいはい、おやすみなさい」

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