第3話 琴乃さんのこと


 まめた文蔵こと、桧山琴乃(ひやまことの)、リアルでの通称・琴乃さんは、都内の水道橋すみれ女子学園に通う中学2年生でした。部活動は文芸部、得意学科は社会科。

 琴乃さんは、秋に開催される「3橋学園文芸部合同文化祭」に向けての準備に追われておりました。3橋学園というのは、琴乃の通う水道橋すみれ女子学園、江戸川橋さくら女学院、飯田橋文士中学の3校のことでした。


 琴乃さんは、水道橋すみれ女子学園文芸部の今年の出し物の台本に、自分の作品が選ばれたのでした。



 でも、あれはカンペキじゃないし、まだ、未完成、、、、



「琴乃さん、いいなあ。まさか茉莉先輩が、琴乃さんの作品を選ぶとは思わなかったなあ」

 文芸部の部員、ヤマダが云いました。

「わたしはヤマダの作品も好きよ」

「いいよ、いいよ、みじめになるしさ」



 琴乃さんは、選ばれたこととは逆に落ち込んでいくのでした。


 書けない、、、、

このところ、毎日更新していたカカククが更新できていませんでした。



「琴乃さん、じゃあ先帰るねー」

 ヤマダが帰ると、部室には琴乃1人しかおらず、がらんとしておりました。



 どうしよう

 琴乃さんは頭を抱えて、机に肘をつきました。





 ひゅるるるるゅゆゆゆるる


 突然、風が吹いてきました。

 琴乃さんが顔を上げると、琴乃さんのいた部室は消え失せておりました。




 一面のかやがはら、、、、


 その原っぱの真ん中に、ひとり、琴乃さんは立っておりました。




「だれ?」

「ふふふふふふ」

「どこにいるの?」



 ひゅるるるるゅゆゆゆるる




「はるはあけぼの。あけぼのの、つきのかかりしやまぎはに、われらが文学の冥界より現れしブックまん、琴乃さんが心配である」



 えっ。声のした方を見ると、真っ白い着物にうさぎ耳を付けた麗しき男がひとり、立っておりました。



「そなたは今、悩んでおろう」

「なぜそれを?」

「それはわたしがブックまんだから」

「ブックまん?」

「そうだ。文学の冥界からやって来た。ワレの名はブックまんと申すのである」

「・・・」



「そなたが心配じゃ。そなたの悩みをワレが打ちのめして進ぜようね」

「わたしの悩みを?」



ブックまんは、頭一つほど宙に舞い上がったかと思うと、印を結びました。

「未(み)」

と云うと、萱が原の草の合間から、「未」と云う形が四方から飛び出してきました。

 続いて「完」、そして「成」が飛び出しました。

 その文字たちは、空に舞い上がったかと思うと、琴乃さんを目掛けて飛び降りて参りました。


「滅(めつ)」

 ブックまんが目をかッと見開きました。


 がしゃがしゃがしゃ


 「未」「完」「成」は見事に砕け散ってゆきました。



 ひゅるるるるゅゆゆゆるる



 風が吹き抜けてゆきました。


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