第2話 クツキと兵馬


「クツキ、じゃあ6時にカカククで」

「おっけー兵馬、待ってるよ」




 ボクらは俗に云う疲れたサラリーマンだ。

いや、だったのは既に過去の話になったと云うところ。ボクと兵馬は、食料品メーカーでウォーターサーバーの営業をしておりました。健康志向が高まる中で、ウォーターサーバーはよく売れたし、メンテナンスに定期購入など暇がありませんでした。でも一見成績のよさそうな業界ではありましたが、ボクたちはインフィニティに疲れた平社員に変わりはありませんでした。



「そこのクツキくん、日報がまだ出とらんな」

「部長、いますぐです、すみません」

「日報はその日に出るから日報と云う。遅れとるがな」

「はい、すみません」

 などと、いつもボクは平謝りなのでありました。


 オフィスは東京タワーとスカイツリーが眺められるハイ・ビューイングな建物にありました。ランチも、オープンデッキの社食でとることが出来て、しかも居心地の良いロビーまで完備されていました。申し分のない環境、なのでしょうね、一般的には。


でも、ボクら営業は基本、外回りだから、そんなオフィスの環境の良さはあまり関係ありませんでした。せまっこい営業車で都内のオフィスを回って、ウォーターサーバーを売り込む。それがボクらの毎日なのでありました。


 それが今では、5時で仕事が終わった後のボクと兵馬は、以前の兵馬とボクのような疲れたサラリーマンではありませんでした。

 生まれ変わった? そうなのかも知れません。



 その証拠に、ボクは部長の小言が、耳に痛くなくなりました。それはまるで天から降って来る歌姫のうたのように耳心地よく聞こえて来ましたし、ボクの毎日の日報の締め切りも、破られることがなくなりました。




 そして6時。ボクと兵馬は、それぞれのマイ・スペースから、ウェブ小説サイト・カカククにアクセスするのでした。

 ボクはまず、リアクションをチェックしました。今日はざっとこんなものかな。そして、お知らせを見ました。新作、更新、コンテストのお知らせ。おお、みんな書いてるなあ、よおし。そして、兵馬のサイトにアクセスしました。応援ボタンを一つ押して、コメント欄に書き込みました。


「今日もよろしく」

 すぐに、いいね! が入りました。



 しかしその後は、しばしオフライン作業になるのでした。ボクは茶革のノートを取り出して、アイス・モカ・ラテを吸い込みました。




 ボクは、駅前の以前はカラオケボックスだったテレワーク・スペースに来ておりました。カラオケボックスだった頃から、そこにはよく来ていた馴染みの場所でした。今は個室の中にカラオケのセットはあるのですが、ソファーセットが無くなり、代わりにビジネスデスクとその上にPCが置かれておりました。それと、ここは電子辞書の貸し出しがあるのがボクのお気に入りでした。


 ボクは茶革のノートのページをめくり、ボクが作っているカカククでフォローしている作家たちの更新表にチェックを入れ始めました。



「ヨシマ、2編」

「Tくん、0編」

「さこ、1編」

・・・

「あれ、まめた文蔵くん、このところ1週間更新ないなあ。落ちちゃったかな?」




 ボクは、一通りチェックが終わると、兵馬に結果報告をしました。

「どうする兵馬、まめた文蔵くんのとこ」

「ああ、そうだな」


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