第23話 最終章

 イザークとはれてお付き合いが開始=レッツ子作り⇒知らない間に婚姻が受理……という流れで、すでに私はシォリン・シュテバインになっていた。

 初めてなのにイザークにヘロヘロにされた朝……というか再度盛られて寝落ちしたから昼過ぎ、ベッドの上でイザークに後ろから抱え込まれるように座らされ、まるで二人羽織のような体勢で手首を捕まれ、訳もわからずサインした書類。どうやらそれが婚姻誓約書だったらしい。一応説明もあったみたいだけど、そんなの聞いてる余裕ないよね。だって初めてだよ、初めて! それなのにアンナコトやコンナコト、ドッロドロのグッズグズにされて……。


 人間なせば成るもんだね。(何がとは聞かないで欲しい)


 それから一週間、夜はイザークに可愛がられ気がつけば朝、気絶するように眠りにつき、メイド三人娘に世話をされつつ夕方までベッドでウツラウツラ過ごし、また夜にイザークに……という生活が続いて。さすがに一週間目に私がキレた。

 だって、ベッド以外の場所にも行きたいじゃないか。ご飯は食堂で座って食べたいじゃないか。仕事だってしたいし、シイラにも色々教わりたいじゃないか。


 で、生活が改善された訳。

 イザークはかなりゴネたけど、イザークの為でもあるからね。だって私は昼間は寝てたけど、イザークは普通に仕事行ってたんだよ。どんだけ体力お化けなんだって話。さすがに身体を壊すんじゃないかって心配したし。まぁ、以前より肌艶も良くてやる気が漲っていたのは、ちょっと理解しがたかったけどね。


 一日二回(何がって、いわゆる子作り行為ね)まで、日にちは跨がないことという条件をつけました。例外はお休みの前日のみ。

 果たしてこれが普通かどうかは恋愛経験皆無な私にはわからないけど、毎日明け方まで抱き潰されるとか、生命の危機を感じるからね。若さゆえ……と思いたいけど、獣人の体力を考えると、最初からきっちりお約束しておいた方がいいでしょ。


 という訳で、なんとか睡眠と体力を確保できるようになった私は、久しぶりに騎士団の事務仕事に復帰できた朝、シイラに出された課題を早々にクリアして、騎士団の鍛錬を見学(イザークのカッコイイ姿を覗き見)しようと訓練場へ足を向けたんだけど。


「あ……あなた」


 騎士団詰所を出た途端、出くわした女騎士に肩をガッシリとつかまれて壁ドンされていた。


「お久しぶりです、キャシーさん」


 肩、肩に爪が……痛いよー。

 美人ちゃんの目を釣り上げた顔はかなり迫力満点で、すっごい睨まれてる。尻尾なんかピンと立って毛が逆だってるし、ない筈の牙さえ見えそうなんだけど。

 自称イザークの婚約者、キャシー・リード子爵令嬢は、騎士団詰所の壁に私をグイグイ押し付けたまま、興奮したようにキンキン声で叫んだ。


「ど、どういうことなの?!! あり得ない、あり得ないわ! あなたからイザーク様の香りがするなんて。どんな手を使ったの?! まさか媚薬……。イザーク様を陥れたんじゃ」


 イザークの匂い? 私にはわからないけど、そんなに匂うのかな?


「あなた、イザーク様と番ましたわね?! 私を差し置いてなんてこと!お情けをいただいたからといって、勘違いしないことね。欠人が珍しかっただけに相違ありませんわ。同情……そうよ、同情に決まってるわ」


「番った」って、つまりはイザークと子作りしたってことが匂いでわかるってこと?

 えっ?

 獣人の嗅覚ってどうなってるの? というか、すれ違った騎士団員達にやたらと見られるなって思ってたけれど、もしかしてみんな私とイザークがナニしたって気づいたから? 何それ、無茶苦茶恥ずかしいんですけど?!


「あなた、辞退なさい。一度お情けをいただいたのだからもう充分しょう?あなたみたいな欠人がイザーク様の子種を受けれたなんて、過分な栄誉でしょうに。いつまでもイザーク様を煩わすものではないわ」


 一度というか、もうお腹いっぱいというか……。もう少し手加減願いたいのですが。(回数制限をしたイザークはねちっこかった)


「辞退というか……」

「何よ、温情にいつまでもすがるなんて見苦しいわよ」

「……俺の妻に何してる」


 私より背の高いキャシーに壁ドンされていたから気が付かなかったが、キャシーの後ろからひっくい声音が響いた。いつもの優しげな口調ではないが、この声は新夫で間違いない。


「イザーク」


 素早い動作で壁際から救出され、縦抱っこされた。キャシーにつかまれていた肩に頬擦りされ、首筋にチュッとキスされる。微妙に舐められた気もするけど、人前だしまさかね。


「シォリン・シュテバイン、俺の番だ」

「番?! 」


 キャシーは呆然とイザークを見ている。イザークに抱っこされてほぼぴったりくっついている私なんかは眼中にないらしい。視線がイザークの目からぶれることはない。


「そう……番でしたか」


 キャシーは急激に熱を失ったかのように表情をなくすと、騎士の礼をとって踵を返した。

 あれだけイザークに執着していた筈なのに、あまりに呆気ないその態度に拍子抜けしてしまう。


「全く、これだけ俺の匂いをつけたってのに、まだ周知できないなんてまだまだ匂い付けが足りないってことかな」

「かなり十分かと……」

「いや、他人がシォリンに触れるんじゃまだまだだよ。やはり蜜月をしっかりととってないからだな。よし、蜜月休暇を申請しよう。半年……は無理か。三ヶ月、せめて二ヶ月は死守したい」


 イザークに抱き上げられたまま騎士団団長の執務室へ連れてこられ、イザークと私の蜜月休暇願いを申請することになった。もちろんイザークの希望する日数が認められる訳もなく(私としても生命の危機を感じるので極力三日くらいの休みに留めて欲しい! )、まるで競りのような言い合いの末、三週間の休みをもぎ取ったイザークは、喜々として私を抱っこしたままシュテバイン邸に走り戻った。


 その姿は首都中の人に目撃されて、私がイザークの嫁になったとちゃんと周知されましたから!

 休み前は例外とは言ったけどさ、三週間も続く例外はどうかと思うのよ?!


 それから十ヶ月後家族が倍になり、さらに一年半後三倍に増え……、人間ってこんなにポコポコ産めるもんなんだと遠い目になりつつ、でも愛しい家族が増えていく喜びに、大きく膨らんだお腹を撫で擦った。








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竜巻の向こうの世界はオズではありませんでした 由友ひろ @hta228

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