第127話:会議の終焉

「はあ?」


 クラヴィの口から出たのは酷く間抜けな言葉だった。


(何を言ってるんだこの女は?この男と女が?貴族??)


「こ、この方々がアロガス王国の貴族?そそ、それは本当ですか?」


 議長も信じられないという顔をしている。


「はい、こちらの御仁は我らの隣国であり同盟国でもあるアロガス王国のナレッジ伯爵であるルーク・サーベリー様です。そしてこちらのご令嬢は同じくアロガス王国の有力貴族であらせるランパート辺境伯のご息女、アルマ・バスティール様です」


 会場は水を打ったように静まり返っていた。


 誰もがミランダ、ルーク、アルマに視線を注いでいる。


「そそそ、それは本当なのですか?」


「もちろんです。ここにアロガス王国より取り寄せた冒険者ギルドの登録写しもあります」


 ミランダは懐から羊皮紙の束を取り出すと議長に手渡した。


 羊皮紙に目を通した議長の顔がみるみる青ざめていく。


 しまいには体中が震えはじめてきた。


「こ、これは……ほほほ、本当に本物なのですか……?」



 交易都市国家メルカポリスにとって隣国に位置するアロガス王国は最重要の同盟国であり最大の貿易相手だ。


 そこの貴族となるともはや国のどの要人よりも重要な存在と言っていい。


「これがミランダの切り札だったのか」


「黙っていてすまなかったな」


 苦笑するルークにアルマがにやりと笑う。


 ミランダ自身2人の身上調査をするためにアロガス王国に送り込んだ部下からの報告書を読んだ時は椅子から転げ落ちるくらい驚いた。


 最初は身分を隠していることを疑ったこともあったが、2人のミランダに対する率直な接し方にいつしかそんな疑いも霧散していた。



「しかし君たちの立場を利用するようなことをしてしまって申し訳ない」


「別にいいよ。ミランダが言いださなかったら僕が言っていただろうし」


「そうそう、堅苦しい地位なんだからこういう時に利用しないと」


 頭を下げるミランダにルークとアルマが微笑む。




「ル、ルーク様にアルマ様……か、彼女……ミランダ殿の言っていることは本当なのですか?」


「はい。隠しているつもりではなかったのですが……」


 ルークとアルマが頷く。



 地鳴りのようなどよめきが会場を埋め尽くした。



 クラヴィは死人のような顔で天を仰ぎ、ランカーとレスリーはがっくりとうなだれている。


 完全に雌雄が決した瞬間だった。





「クラヴィ殿、申し訳ありませんがついてきていただけますか」


 気が付くと数人の警備兵がクラヴィを囲んでいた。


「な、なんだ貴様らは!」


「我々はメルカポリス中央警備隊の者です。あなたには逮捕命令が出ています」


「馬鹿な!」


 立ち上がるクラヴィだったが、すぐに取り押さえられてしまった。


「クラヴィ殿!」


 慌てるランカーたちも警備兵が取り囲む。


「あなたち3人にも逮捕命令が出ています。大人しく指示に従ってください」



「ふざけるなっ何故儂がこんな仕打ちを受けねばならんのだ!」


「話を聞いてください!聞いていただければきっとわかるはずです!」


「こんなのは不当逮捕です!あんなものは証拠にならない!僕らは騙されていただけだ!」


「ちょっと!変なところ触らないでよ!」


 評議会の終了を待たずにクラヴィと《蒼穹の鷹》の3人は後ろ手で連行されていった。

「どうなってるんです?」


 ルークにとってもこの逮捕劇は意外だった。


 あの4人が法の裁きを受けることに疑いはなかったが動きが早すぎる。


「ようやく奴らの尻尾を捕まえることができたな」


 そこへ顎ひげを蓄えた壮年の男性がやってきた。


「ご苦労様です!」


 ミランダが男に向かって敬礼する。


「紹介しよう、こちらはメルカポリス中央警備局長官マティウス・バーグマン、つまり我々警備隊の頂点に立つお方だ」


「初めまして、ルーク殿にアルマ殿、紹介のあった通りメルカポリス中央警備局長官を務めているマティウス・バーグマンと申します。お気軽にマティウスとお呼びください」


 マティウスはルークとアルマに向かって最敬礼した。


「ええと、それでは先ほどのは……」


「お察しの通りです」


 ルークの問いにマティウスが頷く


「我々警備局もクラヴィと《蒼穹の鷹》については長年調査をしていたのです。あなた方のおかげでようやく逮捕にこぎつけることができました」


 マティウスがミランダを手で示す。


「こちらのミランダ君も調査班の一員なのですよ。もっともあなた方と接近したのは全くの偶然なのですが」


「そうなの?」


 目を丸くするアルマとは対照的に不思議とルークに驚きはなかった。


 地区警備隊長としてはあまりに逸脱していたミランダの行動もこれなら納得がいく。



 ミランダがルークとアルマに頭を下げた。


「すまない、内偵なだけに家族にも身分を明かしてはいけないことになっていたのだ」


「いえ、僕らだって自分たちの身分を明かさなかったわけだし。これでおあいこということで」


 ルークは微笑むとマティウスに向き直った。


「それでは元々この場で逮捕する予定だったのですか?」


 マティウスが頷いた。


「実を言うとクラヴィの内偵にはファルクス殿にも協力を仰いでいたのです。ピットくんに裏帳簿を入手してもらったのもこのためです」


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