第106話:古代竜バルタザール

爆榴グレネード!」


 バルタザールの腕に火炎弾が直撃した。


 衝撃でランカーが落ちていく。


 地面に落下する前に拾い上げたのは展鎧装輪てんがいそうりんに身を包んだアルマだった。


「お、お前らは!?」


 目の前に現れたルークとアルマの姿にグスタフが目を丸くする。


 アルマは意識を失ったランカーをグスタフに手渡した。


「まだ生きてるから今のうちに治療をしたら助かると思う」


「な、なんで君たちががここに?」


「話はあとです。まずはあいつを片付けないと」


 ルークは油断なくバルタザールに注意を払いながら懐から取り出したポーションの瓶をレスリーに投げ渡した。


「しばらく休憩していてください。あれは僕らがなんとかします」


 ルークの魔法が直撃したというのにバルタザールには傷らしい傷が付いていない。


 それでもルークたちを新たに現れた敵として認識したらしく、怒りのこもった眼で睨みつけている。


「ドラゴン討伐か、師匠とやった時以来だね」


 ルークは不敵に笑うと左手を前に突きだした。


「ルーク、先にあの4人を逃がした方が邪魔にならないんじゃない?」


「そうしたいところなんだけどそれはちょっと無理だと思う!」


 バルタザールの吐き出す熱線を防御魔法で弾きながらルークが答える。


 領域封鎖ロックダウンは中に入るのは容易だが外に出るのは遥かに難しくなる。


 特にドラゴンのような魔獣ともなればなおさらだ。


 無効化魔法を組むには時間がかかりすぎるし、それまで攻撃を待ってくれるはずもない。


「結局倒すのが一番手っ取り早いという訳ね」


「そういうこと。アルマ、しばらく注意を引いてもらえるかな」


「了解!」


 言うなりアルマが飛び出した。


 バルタザールが反応できない速度で下から強烈な体当たりを顎に食らわせる。


 しかし強靭な鱗に阻まれてその攻撃が通らない。


った!」


 思わずアルマは舌打ちをした。


 ジャアアアアアッ!!!!!


 擦過音のような耳障りな音と共にバルタザールが熱線を吐き出した。


 あらゆる攻撃を通さない強靭な鱗と全てを溶かす熱線、これがバルタザールの武器だ。


 単純ではあるがそれ故に攻略は困難を極める。


「だったら!」


 アルマは大きく跳躍するとバルタザールの頭にしがみついた。


「てりゃあっ!」


 拳を巨大化させてバルタザールの耳の穴に叩き込む。


「ギャアアアアッ!!!」


 バルタザールは振りほどこうと必死にのたうち回るがアルマはその鬣にしっかりと掴まって離れない。


「もう1発……!」


「アルマ離れて!」


 アルマが飛び退ったのとバルタザールの鱗の隙間から熱線が照射されたのはほぼ同時だった。


 熱線を浴びた展鎧装輪てんがいそうりんが真っ赤になっていく。



凍霜壁フロストシールド!」


 ルークの放った魔法の氷がアルマを包み込んだ。



「アルマ!大丈夫!?」


「ありがとう!でもまさか身体からも熱線を放てるなんて……」


 アルマは全身から湯気を立ち昇らせている。


「うかつに近づくこともできないなんて……」


「大丈夫、それはもう解析したよ」


 ルークがバルタザールを指差した。


 バルタザールは大量に巻き上がった湯気でルークたちの姿を見失っている。


「バルタザールは口からの熱線と身体からの熱線を同時には照射できない。そこに攻撃の糸口がある。ここからはチームワークでいこう」


「そんな……無茶だよ!」


 ルークの説明を聞いたアルマが悲鳴混じりの叫び声をあげた。


「アルマを危険な目に遭わせてしまうのは申し訳ないと思ってる。でも……」


「そうじゃなくて!その作戦だとルークが危険すぎるよ!」


 アルマがブンブンと頭を横に振る。


 ルークの作戦はあまりにも無謀だった。


 ほんの一瞬でもタイミングが遅れたらルークは熱線を浴びることになる。


 アルマと違って何の防具も持っていないルークが熱線を浴びてしまえばただでは済まないはずだ。


 しかしそんな危険な方法を提案したというのにルークはいたって冷静だった。


 ルークはなおも拒むアルマの肩に優しく手を置いて微笑んだ。


「大丈夫、タイミングは厳しいけど僕とアルマならきっとできるはずだ」


「でも……」


「アルマ、このままだと10分もしないうちにバルタザールはポーマン村に到達してしまう。その前に倒さないと」


 真摯なルークの眼差しに遂にアルマは折れた。


「……わかった。でも絶対に無茶はしないでね」


「もちろんだよ。それじゃあいくよ!巻き風ワインドウィンド!」


 ルークの風魔法が辺りを覆っていた湯気を一瞬で吹き飛ばす。


 同時にバルタザールが熱線を吐き出した。


展鎧装輪てんがいそうりんの耐熱時間は30秒!それまでに決めてくれ!」


「わかった!」


 鎧を巨大化したアルマが飛び出した。


 全身で熱線を塞き止めながらバルタザールに突進していく。


「こん……のおっ!」


 体当たりで地面に倒し、胴体を抑え込む。


 バルタザールが長い首を回してアルマに向かって口を開いた。


「させないよ!」


 ルークが口の中に飛び込んでアダマンスライムで出来た剣を突き立てる。


 狙ったのは舌の裏側にある熱線射出器官だ。


「ギョアアアアアアッ!!!!」


 絶叫と共にバルタザールがルークをばくりと咥える。


「ルークを離せええええ!!!!」


 アルマがその顎に手を突っ込んで無理やりこじ開けた。


「ありがとうっ!」


 口からまろび出たルークはそのままバルタザールの巨大な腹へと駆け寄った。


 バルタザールの熱線照射間隔は5秒、既に腹部にある熱線用の核に膨大な魔力が集まっている。


 鱗が逆立ち、裏側に隠された射出器官が姿を現した。


 ルークはそこへ剣を突き立てた。



「うおおおおおっ!!」


 一気に全身の魔力を流し込む。


 ルークの魔力は射出器官を伝ってバルタザールの核へと逆流していった。


 それは自身の魔力と相まってバルタザールの全身を駆け巡っていき、遂にはその身体をも破壊していく。



「ゴアアアアアアッ!!!!!」


 断末魔の悲鳴をあげながら巨体がのけぞったかと思うと全身が真っ青な炎に包まれていく。


 バルタザールは全身から炎を吹き出しながらゆっくりと倒れていった。


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