第107話:暴かれた事実
真っ青な炎と共にバルタザールが灰になっていく。
「ふう」
ルークはため息と共に腰を下ろし、ある種荘厳とも言えるその光景に目をやった。
「綺麗だなあ……」
「ルークゥゥゥゥッ!!!!」
そこへアルマが飛びついてきた。
「良かったああああ!絶対に駄目だと思ったよおおお!」
「ありがとう、アルマのおかげで倒せたよ」
「もう絶対にあんな無茶はしないでよね!ルークが食べられそうになった時は心臓が止まりそうになったんだから!」
「心配かけてごめんね」
ルークが胸に顔をうずめて泣きじゃくるアルマの髪を優しく撫でる。
「な、なんだこりゃあ!?」
「これは……魔獣なのか……?とんでもないでかさだぞ」
バルタザールが倒されたことで
ヒクシンが真っ青な顔で近寄ってきた。
信じられないものを見たという表情だ。
「こ、これを……あんたたちが……いえ、あなたたちが倒したのですか?」
「ポーマン村に来る前に倒せてよかったですよ」
「し……信じられねえ」
「これはドラゴンだぞ……勇者のパーティーでもなきゃ倒せないって魔獣をたったの2人で……」
「この人たちこそ勇者なんじゃ……?」
村人たちの視線がルークとアルマに集まる。
「だ……騙されるな……!」
そこへランカーの声がした。
怪我は治っているが完全に回復していないのかグスタフの肩を支えにしている。
「そ、その男は我々が戦っている最中にやってきたんだ。あのドラゴンは我々との戦いで既に致命傷を負っていた。言ってみれば止めだけを刺したようなものだ!」
震える身体でルークを指差し、怒りのこもった眼で睨みつける。
「カ~、よくやるっすねえ。あれもきっと演技っすよ。あそこまでいくと呆れるを通り越して感心するっすね」
隣に来ていたキックが呆れたようにため息をつく。
ランカーは尚も熱弁を振るっていた。
「みんなもよく考えてくれ!誰がこの村を守ったのかを!我々は
「ふざけるなっ!」
しかしランカーの主張は村人の罵声にかき消された。
体中に包帯を巻いた痩せこけた男がランカーの前に進み出た。
「あ、あんたらが何をしてくれた!村を守るなんてただの建前じゃないか!」
「そうだそうだ!」
賛同する声が村人の中から巻き起こる。
「散々飲み食いだけして魔獣が来ても知らんぷりじゃないか!」
「村が襲われていた時にどこにいたんだ!」
村人たちの剣幕にランカーが言葉を詰まらせる。
「ま、待ってくれ、それは……違うんだ、話を聞いてくれ。我々は村に魔獣が来ないように森の中へ……」
「何を言ってやがる!村に魔獣が向かっても無視してただろうが!」
別の男が前に出てきた。
「俺も森の中を見回りしてたから見てたんだぞ、あんたらが村に向かう魔獣を見逃していたのを!」
「そ……それは……」
「あのドラゴンを倒したのは間違いなくこのお2人だ!俺は最初から最後まで見ていたぞ!」
「ち、違……私たちは……」
「だいたいあんたらはドラゴンに遭遇した時に逃げようとしてたじゃないか!」
村人たちの白眼視に耐え切れなくなったランカーたちが目を伏せる。
もはやランカーに返す言葉はなかった。
全て事実だったからだ。
ランカーにとって森の中の村は獣人の村だろうが人族の村だろうが同じ稼ぎ場に過ぎなかった。
適当に利用して名声を街へと持ち帰って富へと換える、言うなれば金の卵を産むガチョウのようなものだ。
当然そのことはわかっていたから生かさず殺さず扱ってきたのだ。
今回だってバルタザールさえ現れなければ適当に守ってやるつもりだったのだ。
それが何故、どうしてこんなことになった?
ランカーの足下がぐにゃりと崩れる。
どこかで何かが狂ったのだ。
それが何かはわからない、それでもそのきっかけが何なのかはわかっている。
ルークだ。
これも全てルークが自分たちの前に現れてからだ。
ランカーがルークを上目遣いに睨みつける。
その眼は恨みと憎しみに染まっていたが、そこに攻撃しようという意思はなかった。
今しがたルークがバルタザールを倒したのを目の当たりにしたばかりなのだ。
いくら自意識過剰な《蒼穹の鷹》であってもそれがあまりに無謀なことはわかっていた。
無言の圧力の中、4人は何も言わずに立ち去る以外になかった。
「「「「うおおおおおおっ」」」」
《蒼穹の鷹》が去った森の中に歓声が響き渡った。
「凄え!凄えよ!あんたたち!まさかたったの2人であのドラゴンを倒しちまうなんて!」
「あんたたちは村の救世主だ!」
「いや、この人たちこそ真の勇者だ!」
ルークをアルマを囲んだ村人たちが次々と手を差し出してくる。
「ちょ、ちょっと待ってください。まだ
担ぎ上げられそうになりながらルークは慌てて村人たちを制した。
「
「その通りっす。まだまだ油断は出来ねえっすよ。それに他にも苦戦してる村があるはずっす。みんなでこの森を魔獣から守っていくんすよ」
ルークの言葉にキックが頷く。
ヒクシンがそんなキックを驚いたように眺めた。
「キック……お前なんか変わったな」
「これもルークさんに会ったおかげっすよ」
「そ、そうなのか……」
ヒクシンは改めてルークに向き直った。
「ルークさん……と言ったか、あんたにも本当に迷惑かけちまった。今更謝って済む問題じゃねえが申し訳なかった。そして村のみんなを救ってくれたこと、本当に感謝している」
頭を下げるヒクシンにルークが笑顔を向ける。
「良いんですよ。元々この村を助けに行こうと言ったのはキックなんです。僕はその手伝いをしたにすぎません。それよりもみんなが無事でよかった。さあ、村に戻って次の襲撃に備えましょう」
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