第101話:ルークの告白

 ルークはリアに、ナミルに、村の人たちに全てを打ち明けた。


 倉庫が襲われることを教えてくれたのはピットだということ、ピットはファルクスに匿ってもらっていることを。


 思えばあれが《蒼穹の鷹》の仕業だと分かった時点でこうなることは予想できたはずだ。


 これは自分の至らなさが招いた結果なのだ。



「すいません、僕のせいで村が危険な目に……」


「ルークさんのせいじゃないよ!」


 頭を下げるルークにリアが抱きついた。


「ルークさんがお兄ちゃんを助けてくれたんだから。お兄ちゃんが無事なら家が壊された事なんて平気だよ!」


「リア……」


「リアの言う通りじゃ」


 ナミルがルークの元にやってきた。


「ルークさん、そんなに自分を責めないでくだされ。例えピットがあなたの元へ行かなくても、連中との決別を決めた時からこうなっていたはずなのじゃから」


「その通りっすよ!俺ら元から覚悟していたんすから。あいつらが頼み込んできたって断ってたっすよ」


 キックが大きく相槌を打つ。


「そもそもあいつらがナターリアさんの邪魔をしようと企んだのが原因じゃないすか。元凶は自分たちだってのに調子に乗りやがって」


 ナミルが話を続けた。


「先ほど連中が来たのはピットのことだけではないのです。既に聞き及んでいるとは思うが、連中は魔獣活勢アクティベートでの防衛費の増額も要求してきたのですよ。しかも村民1人当たり銀貨10枚という暴利じゃ。ルークさんたちがクリート酒を売ってくれたおかげで払えないこともないのですが、もう連中に食い物にされるのはまっぴらなので断ったのですよ」


「そうだったのですか……」


「ピットがあなたに情報を渡したということはあの子にもまだ村を想う気持ちがあるのでしょう。あなたはそんなあの子を救ってくれたのです。感謝こそすれあなたを責めようと思うものはここにはいませんよ」


「ナミルさん……」


 顔をあげると周りにはルークを見つめる村民たちの顔があった。


 怒りや困惑の表情を浮かべる者は誰もいない。



「……ありがとうございます」


 ルークは目頭を擦りながら立ち上がった。


 今は自分を責めている時ではない。


 自分で蒔いた種ならそれは自分でけりをつけなくては。


魔獣活勢アクティベートは僕にも手伝わせてください!この村に魔獣は一歩も近づけさせません」


「よろしいのですか?我々だけで何とかしようと思っていたのですが……」


「もちろんです。魔獣活勢アクティベートのことを聞いた時からお手伝いしようと思っていたんです。みなさんと一緒に戦わせてください」


 ナミルがルークの手を強く握りしめた。


「そう言っていただけるのであればこれ以上心強いことはありません。あなたがついてくれるのであれば百人力です」


「僕の全能力をかけて村を守ります。早速今から始めましょう」



 ルークはリアと共に手早く家を片付けると広間に戻った。





 広間では先ほどと同じように村人が大きな釜に取り掛かっていた。


「そういえばそれは一体何をしているんですか?」


「こいつはこの村に伝わる魔獣避けでさあ。森の中に生えているエヴァーデという木の樹皮を煮込んで作るんですよ。こいつには魔獣避けの効果があるんです」


 ボルズが先端に布を巻きつけて作った巨大な刷毛を釜から取り出した。


 先端から暗紫色の染料がしたたり落ちる。


「こいつを村中の壁や塀に塗っておくと小型の魔獣くらいなら寄ってこなくなるんですよ」


「へえ~そんなものがあるんだ。これも売り物になるんじゃないかな」


 シシリーが興味深そうに釜の中の染料を覗き込んでいる。


 ルークはボルズの言葉に首を傾げた。


「エヴァーデ……どこかで聞いたことのあるような……ちょっと待った、エヴァーデというのはひょっとして白い樹皮をした木のことですか?」


「その通りで。この辺にしか生えてない木なんですけどよく知ってますね」


「そうか……それだったら……もしかしてこの辺にカンムリギクという黄色い花が生えてたりしませんか?」


 ルークの言葉にボルズが目を丸くする。


「なんでそれを?カンムリギクも魔獣避けの効果があるってんで集めてますよ。ほらそこに」


 ボルズの指差した先には黄色い花をつけた草が束ねて干されていた。


「あの花の香りも魔獣が嫌うってんで軒先に吊るしておくんですよ。エヴァーデと同じく先祖代々この村に伝わる魔獣避けですよ」


「そういう風習って結構面白いよね。メルカポリスにも扉を赤く塗っておくと魔獣が来ないって言い伝えがあるよ」


 ナターリアが面白そうに辺りを見渡した。


「いえ、これは風習とかそういうものでは……」



「大変だ!魔獣が出たぞ!」


 ルークが口を開こうとした時、村の奥から1人の獣人が駆け込んできた。


「スパイクベアーがこっちに向かってくる!」


 村の中が緊迫した空気に包まれた。


「みんな、武器を用意しろ!全員で当たるぞ!」


 ボリスは素早く村人に号令を出すとルークに頭を下げた。


「ルークさん、勝手なお願いで申し訳ないんですが手伝っていただけますか?スパイクベアーが相手だと流石に荷が重いかと思うんで」


「いえ、多分その必要はないですよ」


 ルークは落ち着いた様子で干してあったカンムリギクを手に取った。


 ボルズが申し訳なさそうに息をつく。


「ルークさん……期待させたみたいですけどそいつに効果があると信じてる奴なんていませんよ。魔獣避けといっても迷信みたいなものなんです」


「匂いだけならそうかもしれないですね。でもこれをこうすると……」


 ルークはカンムリギクを釜の中に放り込んだ。


「な、なにを!?」


「大丈夫ですよ、これをちょっとかき混ぜてと……こんなものでいいかな」


 驚くボルズを横目にルークは釜を掻きまわしていた巨大な刷毛を取り出した。


「「「な、なんだあ!?」」」


 見ていた村人たちの間からどよめきが巻き起こる。


 暗紫色だった染料が今や鮮やかな深紅へと変わっていた。


「さあ、さっそく効果を確認しに行きましょう!」


 ルークは染料が滴る刷毛を肩に担ぐと走り出した。


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