第76話:《蒼穹の鷹》の正体

「おはよう、ゆっくり過ごせたかな?」


 翌日、ギルドで待っていると《蒼穹の鷹》の4人がやってきた。


「それじゃあ早速出発しようか。そういえば君たち、討伐中に必要なものは用意しているよね?」


「え、ええ一応。でもそれはそちらで用意してくれるはずでは?」


「それなんだがねえ」


 ランカーが顎をかしげながら話を続けた。


「君たちは国に帰るまでの一時的な加入だろ?となるとそういった必要経費は別々に分けた方が良いんじゃないかと思ってね。ほら、こちらはパーティーで費用を分配しているから加入して日の浅い君たちと公平に分けようとすると計算が大変なことになると思うんだよ。わかるだろ?」


「……わかりました」


 ため息をつきながらルークが答える。


「理解が早くて助かるよ。大丈夫、ダンジョン攻略の報酬はしっかりと出すから安心したまえ。それじゃあ出発だ!」


「ルーク、やっぱりこの人たち駄目っぽくない?」


 横で歩いているアルマがルークに耳打ちをする。


「別に抜けてもいいよ?私のことなら気にしなくていいから」


 反対側からもシシリーがひそひそと話しかけてきた。


「……いや、もう少し様子を見てみよう」


 ルークは軽くため息とつくと4人の後をついていった。





    ◆





 《蒼穹の鷹》の4人とピット、ルークたちの合わせて8人は森の中に入っていった。


「ダンジョンは森にあるのですか?」


「いや、今回行くダンジョンは山の麓にある。だがその前に調達するものがあってね」


 ランカーは意味ありげな笑みを浮かべながら森の中の道を歩いていく。


 やがて8人は小さな村に着いた。


「あの人たちは……!?」


 それは以前ルークが助けた獣人たちが住む村だった。


 《蒼穹の鷹》の姿を認めた村人たちの瞳に一瞬敵意が見えた気がした。


 だがそれも束の間のことで、すぐに村人たちが《蒼穹の鷹》の元へと集まってきた。


「今回の討伐はかなり大掛かりになる!人数は全部で20人、1人につき1日銀貨1枚だ!早い者勝ちだぞ!」


「俺が行く!」


「いや、俺だ!」


「俺に行かせてくれ!妹が病気で金が必要なんだ!」


 グスタフの声に村の男たちが群がってくる。


「これは……?」


「見ての通りさ。討伐のための剛力ごうりきを集めてるんだよ」


 ルークの声にランカーが当然と言うように頷く。


「今回の討伐に1週間は見ている。集めた素材や我々の荷物を運ぶための人員が必要だろう?」


「なっ……そ、それは……いや……そういうものですか」


 一瞬抗議の声を上げかけたルークだったがすぐにそれを押し殺した。


 イリスと一緒にダンジョンに行った時もウィルフレッド卿の討伐隊に参加した時も荷物は自分たちで運んでいたが、それは単にそうしていたからであって所が変わればやり方も変わるのかもしれない。


「ランカー、人数は揃ったぜ」


 グスタフの元に集ったのはいずれもボロボロの服を着た貧しい身なりの獣人たちばかりだった。


 わずかな旅道具と共に鍬や鎌といった農具や刃の欠けた剣を携えているだけだ。


「よし、それじゃすぐに出発だ!」


「ちょ、ちょっと待ってください!こんな格好のままでダンジョンに行かせるんですか!?それはあまりに危険なのでは」


「何を言ってるんだ?そんなの当たり前じゃないか」


 ランカーが不思議そうな顔をする。


 レスリーが呆れたようにため息をついた。


「彼等がどういう装備でいくかは彼らの自己責任ですよ。我々は1人当たり日給銀貨1枚を提示しているのですからこれ以上の負担はできませんよ。ただでさえ破格の金額なんですから」


「そ、そうは言っても……」


 ルークの眼からすれば獣人たちは丸腰も良いところだ。


 どんなダンジョンか知らないが昼夜を問わず襲ってくる魔獣たちから身を守れるとはとても思えない。



「……ルーク、よその国から来た君が戸惑うのもわかる。しかしこれが《蒼穹の鷹》のやり方なんだ。君も我々の一員になったのだから慣れてもらわなくては困るぞ」


 ランカーの声には若干の苛立ちが含まれていた。


「そうだぜ、お前さんがどう思ってるのかは知らねえが俺たちはこれでずっとやってきてるんだ。文句があるなら引き返してくれても構わねえんだぜ?」


 グスタフが腕組みをしながら鼻を鳴らす。


「……わかりました」


 ルークは不承不承頷いた。


「ルーク、本当に良いの?」


 アルマが心配そうに聞いてくる。


「ここまで来たら引き返せないよ。とりあえず僕らは様子を見ながらサポートに回るようにしよう」


 ひそひそと話をしながらルークたち3人は大きく膨れ上がった討伐隊の後をついていった。





    ◆





 ダンジョンは森を抜けたところにある山の麓にその口を開けていた。


「ここは花崗岩のダンジョンと呼ばれている。全体で20層だが横に広いために討伐はかなり時間がかかるだろう。みな心してかかるように!」


 ランカーの号令と共に隊は静かにダンジョンの中に入っていった。


 ダンジョンに入ってすぐにルークは異変に気付いた。


 剛力ごうりきであるはずの獣人たちが最前列に立っているのだ。


「ちょっと待った、なんで獣人たちが先頭にいるんですか?剛力ごうりきであるなら後尾にいてもらうのが普通なのでは?」


「まだそんなことを言ってるのか」


 ルークの言葉にランカーはうんざりしたように息を吐いた。


「彼らは討伐の先遣隊のために集めたに決まっているだろ」


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