第73話:勧誘

「僕たちがランカーさんたちのパーティー《蒼穹の鷹》に?」


「その通り」


 ランカーが頷く。


「先ほども見てもらったように私たち《蒼穹の鷹》はこの街では名前を知られた存在だ。そこに加われば君たちの扱っている商品を買いたいという人は列をなしてくるだろう。なんなら私たちの名前を使ったっていい」


「し、しかし……それはまた急な話ですね」


「実を言うと私たちも新メンバーを探していたところでね。君たちの実力は既に見させてもらっている。加わってもらえるならこれ以上の望みはかなわないだろう」


「う~ん」


 ルークは首をひねった。


「僕たちはこの街に長居をする訳ではないんです。今回は取引相手を探しに来ただけなので」


「それでも構わないよ。ちょうど近々大きな依頼があるから人材を探していたわけでね、それに付き合ってくれるだけでいい」


「そう……ですか……」


 いつになくルークは慎重だった。


 勇者とはいえ知り合って間もない人間についていっていいものか決めあぐねていたのだ。


「いいじゃん!ルーク、仲間になろうよ!ランカーさんたちが力を貸してくれるならこれ以上心強いことはないよ!」


 シシリーが眼を輝かせながら身を乗り出した。


「アロガス王国とメルカポリスは協定を結んでるから冒険者として登録もできるし、《蒼穹の鷹》のコネがあればきっと商売相手も見つかるよ!」


「そうは言ってもですね……」


「そういえば商売相手といえば君たちは少し不味い状況に陥ってしまっているんだ」


 ランカーは眉をひそめながらテーブルに肘をついた。


「どういうことですか?」


「君たちはクラヴィさんに挨拶もなく出て行っただろ?それで彼はいたく機嫌を悪くしてしまってね。君たちには絶対にこの街で商売をさせないと仰っていたんだ」


 ランカーが話を続ける。


「彼はメルカポリスの評議委員でもあらせられる。彼を怒らせてしまってはこの街で商売をするのはほぼ不可能といっていいだろうな」


「そんな!」


 シシリーが悲鳴を上げる。


「私がとりなしてもいいのだけど、そのためには説得できるだけの実績が必要になる。例えば街のために貢献する、とかね」


「そういうことですか……」


 ルークはため息をついた。


 少なくともランカーの言うことは筋が通っている。


 シシリーも商売は人との繋がりが一番大事だと言っていた。


 有力者であるクラヴィを怒らせてしまってはこの先この街で商売をすることは難しくなるだろう。


「アルマはどう思う?僕はこの話に乗ってもいいと思うんだけど」


「うーん……私も賛成する。ここまで来て何もできずに帰るのももったいないし」


 ルークはその言葉に頷くとランカーの方へ振り返った。


「わかりました。この街にいる間だけということになりますが、お世話になります」


「そうか!それは良かった!それでは3人の加入を祝して乾杯をしようじゃないか!」


 ランカーがグラスを持って立ち上がった。


「改めて自己紹介しよう。私はランカー・ベルネック。《蒼穹の鷹》のリーダーを務めている。ジョブは魔法剣士だ」


「俺はグスタフ・レッド。ジョブは重装戦士だ。《蒼穹の鷹》の切り込み隊長とは俺のことよ!」


 グスタフが胸を叩く。


「わたしはエセル・マコニル。ジョブは攻撃魔導士アタッカーメイジ。よろしくね~」


 エセルはそう言うとルークにウインクをした。


「んん?」


 アルマがそれを見て眉をひそめる。


 レスリーが立ち上がった。


「レスリー・セインツです。ジョブは補助魔導士サポートメイジです。パーティーの治癒や補助魔法付与を担当しています。あとパーティーの経理も担当していますので報酬や必要経費の申請は私にどうぞ」


「ルークです。ジョブは……資格は持っていませんが魔法剣士のつもりでいます。よろしくお願いします」


「アルマ・バスティールです。ジョブは魔法剣士です。至らぬこともあるかもしれませんがよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いするよ。わからないことがあったら何でもいってくれ」


 ランカーがアルマにさりげなく手を伸ばす。


 ルークがその手を取って力強く振った。


「是非よろしくお願いします」


「あ、ああ……」


「シシリー・ウィンザーです。この前まで衛兵をやっていたけど今は商人をやってます。みなさんの温かな心遣いに感謝します。よろしくお願いします!」


 全員が自己紹介を済ませたところでランカーがグラスを掲げた。


「それでは……新生蒼穹の鷹に乾杯!」






「……そういえばピット君はどうしたんですか?姿が見えないようですが……」


 宴が再開した時にルークが不思議そうな顔で尋ねた。


 ギルドの中に入った時からピットの姿が見えない。


「ああ、ピットなら外で待っているよ。この中には入ってこれないからね」


 ランカーの答えはルークの耳を疑うものだった。


「……今何と?」


「だからあいつはここには入ってこれねえんだって。奴隷だからな」


 グスタフが歯をむき出して愉快そうに笑った。


「奴隷!?」


「そ、奴隷。あいつはあたしたちの雑用係なの。だからこういうお楽しみの場所には参加を許してないってわけ」


 絶句するアルマにエセルが手をヒラヒラと振る。


「ここの飲食代だって経費なんですから。奴隷に払う余裕なんてないですよ」


 レスリーが当然と言うように頷いた。


「ああ、みなさんの分はきちんと経費で落ちるので安心してください。もうパーティーの一員ですから」

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