第56話:激闘

 体高はざっと見ても5メートル、隆々とした筋肉に死人の如き青い肌が張り付き、丸太のような4本のかいなは本物の丸太で出来た棍棒を握りしめている。


「こいつは不味いですぜ……あいつは1体で軍隊が壊滅させられたこともあるってえ魔獣ですよ。まさかあんな奴までいるとは……」


 タイロンが固唾を呑み込む。


 フッ、フッと獣のような呼吸をしながらクアッドアームオーガがこちらを向いた。


 頭の左右に張り付いた2つの顔がルークたちを視認する。


「クソ、やるしかないかっ!みんな、いくぞ!」


重装鎧纏フルアーマメント!!!」


 ウィルフレッド卿が剣を掲げた時、アルマが新・展鎧装輪てんがいそうりんを展開させた。


 ダンジョン内が光に包まれたかと思うとそこにクアッドアームオーガと変わらぬほどの巨大な鎧が出現した。


「とりゃああああっ!」


 巨大な鎧姿になったアルマがクアッドアームオーガに突進する。


 腰に猛烈なタックルをお見舞いするとそのままダンジョンの壁に突撃した。


「アルマ!そのまま!」


 その背中に足をかけて飛び上がったルークがアダマンスライムの義手から作り出した双剣をクアッドアームオーガの2つの口に突き立てた。


「ギョオオオオオオッ!!!」


 地を揺るがすような絶叫を上げたかと思うとクアッドアームオーガは全身を激しく震わせ、それからがくりと崩れ落ちた。


 やがてその身体が魔素へと変換されていく。



「「やったね!」」


「た、倒してしまったのか……?」


 ウィルフレッド卿とタイロンはハイタッチするルークとアルマを呆然と眺めていた。



「ほ、本当にお前は我が娘のアルマなのか?鬼神が化けているのではないだろうな?」


「お父様、失礼なことを言わないでください!私はあなたの娘のアルマ・バスティールです!」


「クアッドアームオーガと言ったらこないだのキマイラに勝るとも劣らない魔獣ですぜ。それをたったの2人であっという間に……」


「私もたった2人でクアッドアームオーガを倒したという記録は見たことがありません。これはおそらく大規模討伐レイド史上初ではないでしょうか」


 タイロンとホルストも信じられないという顔だ。


「と、とにかくだ。無事に倒せたのならなによりだ。この調子でこの層から魔物を掃討することにしよう」


 ルークたちは出てくる魔獣を倒しながら下の階層に進んでいった。



「しかし、あのような犯罪者が紛れ込んでいたというのは由々しき事態です。これは私が責任をもって報告しますから安心してください」


 ダンジョン攻略を続けながらホルストが憤慨したように振り返った。


 一行の後ろにはきつく拘束されたガッシュたちが連行されている。


「それはよろしくお願いします。とりあえずこの層の魔獣はあらかた片付けたけど下は大丈夫なんだろうか。おそらくもっと強力な魔獣がいると思うんだけど……」


 ルークがそう呟いた時、階下から凄まじい悲鳴が響いてきた。


「確か49層はゲイル王子の部隊が担当していたはず……みんなはここに残っていてください!僕はちょっと様子を見てきます!」


「私も行く!」


「私もです」


 アルマとホルストが後に続く。


「ホルストさん、危険ですからあなたは残っていてください!」


「そうはいきません。私も記録係として正確に記録を残す責任がありますから!」


 3人は階段を駆け下りて49層へ向かった。


「あっちだ!」


 戦闘の音がする方へ駆けていく。



「こ、これは!?」




 50層への入り口がある巨大なドームに到着した3人は目の前に広がる光景に言葉を失った。



 それは幾体もの強力な魔獣と戦う戦士たちの姿だった。



 牛頭鬼ミノタウロス独眼鬼サイクロプス狗頭鬼ケルベロプス虎頭鬼ティグロプス、いずれも1体1体が伝承に名を残すような凶悪な魔獣ばかりだ。


 それにつき従う幾体ものオーガやゴブリンもいる。


 対してゲイル率いる部隊の人数は100名程度、力量差は圧倒的に不利なはず……だった。


 しかしそのような力の差があるにもかかわらず、部隊は互角に近い戦いをしている。



「す、凄い……」


 ルークは我を忘れて戦いに見入っていた。


「1班は牛頭鬼ミノタウロスへの攻撃を止めるな!2班は後ろに下がって体勢を立て直せ!3班4班は雑魚共を近寄らせるな!」


 戦闘の喧騒の中にゲイルの声が響き渡る。


 それに呼応するように兵士が一糸乱れぬ動きで攻撃を敢行している。


「あれが王子の固有魔法絶対支配ドミネーションの力です」


 横にいたホルストが呟いた。


「支配下に置かれた兵士は王子の意のままに動きます。言うなれば隊全体が王子の身体の一部になったようなものです。更に王子の魔力供給を受けて本来以上の力を発揮するのです」


「ウィルフレッド卿の軍勢強化フォースゲインのようなものですか?」


「少し、いえかなり違いますね。ウィルフレッド卿の固有魔法はその人の能力を一時的に引き上げるのに対して王子は自身の能力を付与するのです。つまり魔法を受けた当人は本来持っていない強さを得ることになります」


 その言葉の通り兵士たちの強さは常識離れしていた。


 眼で追えぬほどの速さで動き回り、人の数倍の膂力を持つオークとも互角に渡り合っている。


 しかもそれが1人や2人ではなく100名の兵士全体がそれだけの強さを持ち、なおかつゲイルの意のままに動いているのだ。


 まさに一騎当千の部隊を作り上げる魔法といえるだろう。


「王子の魔力はこれほどの数の兵士をここまで強くできるものなのか……それでも……」


 感心するルークだったが、その眼には懸念の色がにじんでいた。



「あれじゃ長くはもたない……」


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