第55話:因縁
― ここで話は
「ああっ?俺たちに
酒瓶を手にしたガッシュが吠えた。
そこはガッシュが根城にしているグリードの屋敷の離れだ。
ガッシュの他にも数人の仲間がたむろしている。
「ふざけんじゃねえ、なんでそんな面倒なことをしなけりゃならねえんだ」
「黙って言うことを聞け!これは絶対にやらねばならぬことなんだ!」
汗を拭きながらグリードが返す。
「いいか、
「おいおい、そいつは聞き捨てならねえ話だな」
「しなければ私は破滅なんだ!お前たちは黙って仕事を果たせ!元々そういう契約だろうが!」
「まあ確かに俺たちはあんたらの汚れ仕事をしてきちゃいるけどよ」
ガッシュが大きく欠伸をする。
ルークの暗殺を請け負って以来ガッシュ一行とグリードの関係は続いていた。
暗殺を暴露されたくなければいうことを聞けという要求に困窮したグリードが苦肉の策でガッシュたちを雇い入れたのだが、結果としてそれはグリードにとっても都合のいい結果をもたらすことになっている。
裏社会に顔の聞くガッシュが裏冒険者を束ねて素材を密猟し、グリードがそれを正式に獲得したものであると認証してアヴァリスやグルトン商会を通じて表に流す、そうして私腹を肥やしてきたからだ。
時にはガッシュを通じて密造薬の素材として売ることもあった。
言ってみれば2人は既に持ちつ持たれつの関係になっているのだ。
「いいか、元はと言えばこれは貴様が原因なのだぞ!あの時きっちりとルークを殺ってさえいればこんなことには……」
「……そいつはどういうことだ」
ガッシュの眉がピクリと持ち上がる。
「なんでそこであの小僧が出てくる。奴は川に落ちて死んだはずだぜ」
「それが生きてるから困っとるんだ!」
グリードが吠えた。
「奴は生きているんだよ!何がしっかり殺した、これが証拠だ、だ!左手くらいで信用するんじゃなかった!貴様と奴のせいで儂の人生は滅茶苦茶だ!」
肩で息をしながら頭を抱える。
「しかも奴の後ろ盾になっているランパート辺境伯は儂を査問委員会にかけると言っておるのだ。そうなったら儂だけじゃなく貴様だって道連れだぞ!いや、儂らだけじゃない、アヴァリス卿にまでその累が及んでしまう。あの人に睨まれたらこの国では生きていけんぞ」
「なるほどね」
ガッシュが放り投げた酒瓶が音を立てて割れる。
「そいつは確かに大変だ。だったら俺らも汗を流さにゃならんだろうな」
「当然だ!既にランパート辺境伯の隊と同行するように話はつけてある。あとは魔獣に襲われたように見せかけて始末するのだ!報酬なら好きなだけくれてやる、そのかわり絶対に成功させるのだ、いいな、絶対だぞ!」
「へいへい」
ガッシュの頭は既に今後どう動いていくかをフル回転で計算しはじめていた。
(いい加減こんな田舎暮らしも飽き飽きしていたところだ、この仕事を片付けたら次はアヴァリスって貴族を食い物にするのも悪くねえか。そろそろ都会の女を楽しみてえと思ってたところだしな)
◆
「いやはや5年なんてすぐだと思っていたが見違えたぜ。ちょっと見ねえ間にずいぶんと色男になったみてえじゃねえか」
ガッシュが挑発するようにニヤニヤと笑いかける。
「ルーク、知ってる人なの?」
アルマが不思議そうにルークに尋ねた。
「うん、あの男、ガッシュというそうだけど、あいつが僕の左腕と左目を奪った張本人だよ」
「!」
アルマは形相を一変させたかと思うと足元の石を拾ってガッシュに投げつけた。
石が凄まじい風切り音と共にガッシュの頬をかすめて後ろの壁に激突し、小さなクレーターを作り上げる。
「あ……危ねえな!死んだらどうする!」
青ざめた顔でガッシュが吠える。
「絶対に許さない!」
「待ってアルマ、それはあいつの話を聞いてからにしてほしいんだ」
ルークは猛るアルマを手で制するとガッシュの方を見た。
「久しぶり、と言うべきでしょうかね。正直あなたのことは忘れていましたけど」
「おいおいずいぶんな物言いじゃねえか。こっちはおめえさんに切られた指が今でもうずくってのによお」
「そうですか、でもこっちは左手と左目を失っているのですからおあいこですね。むしろこちらの方が被害は大きい位です」
ルークは大したことではないと言うように肩をすくめた。
実際イリスに作ってもらった義手と義眼が優秀過ぎるせいで自分が隻腕隻眼であることを時々忘れることもあるくらいなのだ。
それにやりたいことがありすぎて自分には敵がいるということも忘れていた。
「それよりもあなたには聞きたいことがあります。大人しく投降するのであれば危害は加えないと約束しましょう」
「ほお~お?5年の間にずいぶんと態度がでかくなったもんじゃねえか。あの時はションベン漏らしそうなくらい怯えてたってのによお」
ガッシュが苛立ちに顔をひくつかせる。
「だいたいこの状況をわかってんのか?主導権はこっちにあるんだ、俺がこの手を上げたらてめえらはその場でお終いなんだぜ」
「あ、それはもういいです」
ルークが指を鳴らした。
その瞬間、周りを囲んでいた冒険者たちがクタクタと倒れる。
「なっ!?」
「5年間は短いようで長いんですよ。おかげでこの位の事は出来るようになりました」
ゆらり、とルークが前に出る。
「それじゃ、僕の質問に答えてもらえますか。まずは誰が依頼主か話してもらいます」
「く……」
ガッシュは青ざめた顔でルークを睨みつけていたが、突然後ろを向くとダンジョンの奥に向かって駆けだした。
「あっこら待ちなさい!」
アルマが慌てて手を伸ばす。
「誰が待つかバーカ!勝てねえ時は即退散、それがプロってもんなんだよ!」
嘲り声と共にガッシュの姿がダンジョンの中へ消えていく。
追いかけようとした時、ルークたちの元に黒い影が一直線にすっ飛んできた。
「これは!?」
それは無残な姿に変わり果てたガッシュだった。
四肢は砕かれ、顔面は完全に潰れ、生きているのが不思議な有様だ。
「何かがくるぞ!」
ルークの警告にみなが一瞬のうちに警戒態勢に入る。
地鳴りのような足音と共に巨大な影が一行の前に現れた。
「クアッドアームオーガ……だと……?」
タイロンが絶望の表情で呟く。
それは
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