第54話:48層

 5層から先は特に問題もなく進み、やがてルークたちが担当する48層へ到着した。


 ここまで下がってくると石畳も石壁も崩れかけ、洞窟然とした雰囲気になってきている。


「計画書によると下層に向かう後続隊の援護は義勇隊が行い、ランパート隊はダンジョン内の魔獣討伐に専念するということになっていますね」


 ホルストが計画書を見ながら説明する。


「義勇隊?」


「はい、今回は民間にもっと大規模討伐レイドを周知させるという趣旨の元に冒険者を募って義勇隊として参加させているそうです。おや、話をすればどうやら来たようです」


 振り返るとダンジョンの奥から20数名の隊が近づいてくるところだった。


 領主や王国の兵士と違って剣士や魔導士、格闘家など様々な冒険者からなる混成隊になっている。


「君たちが義勇隊か。私はここ48層を担当するランパート辺境伯だ。国家を挙げての大規模討伐レイドを協力して成功させようではないか」


「……格式ばった挨拶はよしてくれ。俺たちは金のために参加してるだけなんでね。国の意義だのなんだのは関係ねえんだよ」


 冒険者たちはウィルフレッド卿の差し出して手を取ろうともしない。


「なんて失礼な!せめて挨拶をするのは最低の礼儀ではないのですか!」


「まあまあ、向こうもダンジョン討伐ということで緊張しているのでしょう」


 いきり立つアルマをルークが何とかなだめる。


「それでは私たちは魔獣討伐に向かいます。後続隊の援護はお任せしました」


「好きにしてくんな、俺たちは俺たちの仕事を果たすだけなんでね」


 相変わらず無愛想な冒険者たちを残し、ルークたちはダンジョンの奥へと入っていった。


「なんなのあいつら!あれで本当に義勇隊なの!」


 アルマが怒りを抑えきれずに足音を荒げている。


「どうどう、そう怒らないで。……とは言え少し気がかりではあるね」


 ホルストから受け取った計画書を見ながらルークが眉をひそめる。


「民間への周知が目的なら冒険者を深層に配置するのは逆効果のような……」


 そんなことを呟いていると不意に背後から地響きのような音と共に振動が伝わってきた。


「まさか!」


 一行は慌てて戻ったが崩れ落ちた壁で道は完全に行く手を阻まれてしまっていた。


「これは……どういうことなんだ?」


「まさか魔獣の仕業なのか?」


「いえ、違うようです」


 途方に暮れる一行の横で崩れ落ちた壁を調べていたルークが静かに答える。


「魔法の痕跡が残っています。どうやら何者かが意図的にこの壁を崩したようです」


「馬鹿な!何故そんなことを!?」


「わかりません。しかしフローラ様の言う通り油断はできないようです」


 ルークはゆっくりと立ち上がった。


「ともあれ、僕らは僕らの任務を進めましょう。遠回りにはなりますが戻ることも可能なようですし」


 こうして再び進軍を開始した一行だったが、行けども行けども魔獣が出てくる気配がない。


「なんだか嫌な予感がしやすぜ。こいつはひょっとしたら……」


 油断なく周囲を窺いながらタイロンが呟く。


 ルークもそれは気付いていた。


 不自然に少ない魔獣、それは極端に強い魔獣がいる可能性を示している。


 そう、例えばしろぎぬのダンジョンのボスだったキマイラのような……


「さっさとダンジョン内を探索しきった方が良さそうですね」


 ルークはそう言うと足下から小石を拾い上げ、奥の闇に向かって投げつけた。


「ぐわっ!」


 暗闇から悲鳴が聞こえてくる。


「な、なんだ!?」


「気をつけて!ダンジョン内に潜んでいる者がいます!」


 ルークは叫ぶなり左手をかざした。


現光リヴィール!」


 洞窟内に満ちた光が周囲を取り囲む人影を露わにする。


 それは後続隊を護衛するはずの冒険者たちだった。


「ちいぃっ!隠形魔法を無効化する特殊照明魔法かよ!」


 頬に刀傷のある冒険者が吠えた。


「何故あなた達がここにいるのですか!護衛の任務はどうしたのですか!」


 ホルストが冒険者に抗議の声を上げる。


「護衛?なんのことやら」


 刀傷の冒険者がにやりと嘯く。


「言っただろ、俺たちは仕事をするだけだって。これが俺たちの仕事なんだよ。あんたらを始末するっていうな」


「なんだとっ!」


 吠えるウィルフレッド卿の足下に弓矢が突き立った。


「おおっと、動かないでくれよ。姿は見えちまったけどあんたらを包囲してるって事実は変わらねえんだぜ」


「あなた達は何者なのですか」


「今から殺す相手に名乗る趣味はないんだがな。まあ俺のことはガッシュとでも呼んでくれよ」


「先ほど魔法で道を崩したのもあなた達の仕業ですか」


「まあね」


 ガッシュが首をすくめる。


「他にも何ヶ所か崩してあるぜ。あんたらは戻ろうと思ったらここに来る以外選択肢はなかったって訳だ」


「そうして僕らを待ち伏せていたという訳なんですね。誰からの依頼なんですか」


「そいつは言えねえな、と言いたいところだが、こいつは言ってみりゃ後始末みたいなもんよ。5年前にやり残した仕事のな」


 そう言うとガッシュが左手を差し出した。


 その手は指が数本かけている。


 それを見たルークの形相が一変した。


「……まさか!その手は!?」


「そういうこった」


 ガッシュがにやりと笑う。


「まさか生きていたとはな。ルーク坊ちゃんよ」


 それは5年前にルークの命を狙った男だった。


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