第38話:祝賀会への誘い
「まさか本当に金貨を用立ててくれるとは……いや信じていなかったわけではないがこれほどとは思わなかったぞ。一体どんな魔法を使ったのだ?」
「5年前に僕を助けてくれ、指導していただいた師匠に力を貸してもらったんです」
心底驚いたようなウィルフレッド卿にルークは言葉少なに説明した。
今はまだその師匠が封印された魔神イリスであると告げることはできない。
「……そうか、ならばそれ以上は聞くまい」
ルークの態度を見てウィルフレッド卿が何かを悟ったように頷く。
どうやら詮索はしないことにしてくれたらしい。
ウィルフレッド卿はソファから身を乗り出すと話を続けた。
「ならばこちらの状況を説明することにしようか。まず、裏冒険者たちの背後にいる者がわかったよ。連中はグルトンという商人に雇われていたらしい」
グルトンとはセントアロガスを拠点とする中規模の商人だ。
「グルトンはギルドの提示する買取値の2割増し程で買い取ってくれていたそうだ。しかし腑に落ちないこともあってな……」
「量の問題ですね」
ルークの言葉にウィルフレッド卿が頷く。
「あまりに量が多すぎる。連中はダンジョン内の魔獣を狩りつくそうかという勢いだった。そしてグルトン商会が依頼していたのは連中だけでなく他にも無数にいるらしい。そうなると動く金は一商会に動かせる額ではない」
「となると……グルトンもただの駒に過ぎないということですか」
「おそらくな。これほどの規模となると、ただの密猟では済まないだろう。国全体に魔石や素材の密売ネットワークができていると考えるべきだろう。そうなると国の中枢にも関わっている者がいる可能性が高い」
「心当たりはありますか?」
「心当たりは2人、私情を挟むつもりはないのだが1人はあのアヴァリスだ。あの男は商工長官をしている。物資の流れを牛耳っているあの男が何も知らないということはないだろう。そして……」
ウィルフレッド卿は申し訳なさそうにルークを見た。
「これを告げるのは心苦しいのだが、もう1人は君の叔父、グリード卿なのだよ」
「叔父が?それは何故なのですか?」
「裏冒険者が密猟した魔石や素材はそのままでは市場に流すことができない。知っていると思うがダンジョンから獲れたものは国が厳しく管理しているからだ。市場に流すためには貴族の承認が必要になる。そして裏冒険者たちの収穫物に認可を与えているのがグリード卿らしいのだよ」
苦々しい口調でウィルフレッド卿が話を続ける。
「グルトンはこの数年で急に勢いをつけてきたのだが、そのグルトンが懇意にしているのがグリード卿だ。そして捕らえた裏冒険者たちとグルトンを取り持ったのもグリード卿らしい」
「そういうことですか」
「すまない、これを君に話すべきかどうか迷ったのだが……」
「いえ、いいんです」
ルークはウィルフレッド卿に微笑んだ。
「あの叔父なら不思議ではありません」
「とはいえまだ明らかな証拠があるわけではないのだがな。仮に問い詰めたところでしらを切られてしまうだろう」
「それでも最初の道筋にはなりそうです。王都に戻ったら早速調べてみようと思います」
「……実はその王都のことなのだが……」
ウィルフレッド卿は更に言葉を濁すとアルマの方を見た。
「アルマよ、お前に王都からパーティーの招待状が来ているのだ。しかしその送ってきた相手が……ゲイル王子なのだよ」
「ゲイル王子が?」
アルマの顔が強張る。
「気持ちはわかるがそう身構えないでくれ。どうやら先日王子が大規模誘拐組織を摘発したことを祝うためのパーティーらしい。それで私とお前に招待状が来たのだよ」
「臆面もなくよくもそんなことを!」
アルマが叫んだ。
「誘拐された女性たちを助けたのはルークと私とシシリーだというのに!私はそんなパーティーには行きません!」
「しかし私は辺境伯という立場上出席しないわけにはいかないだろう。お前にとっても欠席すると余計に心証を悪くしてしまうのではないか?」
「そ、それは……」
アルマが言いよどんだ。
ウィルフレッド卿の言うことももっともだ。
こちらに言い分があるとはいえこれ見よがしに欠席などしたら当てこすりだと思われてもおかしくない。
そうなると自分だけでなく父親のウィルフレッド卿にも影響が出るかもしれない。
「ウィルフレッド卿、確かパーティーは従者の随伴も許されていましたよね?」
不意にルークが話しかけてきた。
「あ、ああ、パーティー参加者には各人1名ずつ従者ないし侍女が付き添うのが慣例になっている。それがどうかしたのかね?」
「それでは僕をアルマの従者として行かせていただけませんか?」
「ルーク!」
アルマが驚きと喜びで目を丸くする。
「ゲイル王子には僕も会いましたが非常に剣呑な雰囲気を持った人物でした。今回は単純にパーティーへの招待だとは思いますが何が起こるかわかりません。僕も付き添わせていただけないでしょうか」
「そ、それは構わないが……だが君にとっては愉快なことではないと思うぞ。なにせそのパーティーには……グリード卿も招待されているのだから」
ウィルフレッド卿の言葉にルークの眉が微かに動く。
しかしそれだけだった。
穏やかな笑みを浮かべてルークが返す。
「構いませんよ。あの人と僕はもう関係がありませんから。ひょっとしたら僕を見てもわからないかもしれません」
そんなルークの顔を見てウィルフレッド卿が深く頷いた。
「わかった。アルマの付き添いは君に任せよう。こちらとしても君がいてくれれば心強い。よろしく頼むよ」
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