第28話:対キマイラ戦 - 決着 -
「
ウィルフレッド卿の
身動きが取れなくなったキマイラに討伐隊が襲い掛かった。
「攻撃し続けるんだ!魔法は通らないけど武器なら通る!ダメージを与えている間は蛇の頭は再生しない!」
「「「「うおおおおおおっ!!!」」」」」
ルークの檄に討伐隊が鬨の声と共にキマイラに斬りかかる。
「ギャアアアアアッ!!!」
キマイラの絶叫が轟いた。
首を拘束していた
それでも討伐隊の苛烈な攻撃にキマイラは体勢を立て直すことができない。
「炎の射出間隔は30秒!次が来るまでに決める!」
ルークは象意剣を構えて意識を集中した。
魔力を吸い上げて剣身が伸びていく。
象意剣は魔力を吸収するほどに攻撃力を増していく魔剣だ。
ルークの膨大な魔力を剣にまとわせれば例えドラゴンであっても両断することができる。
しかしキマイラとてダンジョンボスを務める魔獣、そして手負いの獣は時として想像を超える膂力を発揮することがある。
「グオオオオオッ!!!」
地を揺るがす咆哮と共にキマイラが全身を震わせた。
衝撃で討伐隊が弾き飛ばされる。
山羊の眼がらんらんと輝き、獅子の喉が赤く膨らんだ。
(な、まだ30秒経っていないのに!?)
キマイラがルークに向かって炎を射出する。
いや、それはもはや炎とは威力も熱量も桁違いの熱線と呼べるほどのものだった。
「クウッ!」
向かってくる熱線に剣を構えた時、目の前に影が躍り出た。
「アルマ!」
ルークの前に立ちはだかって全身に熱線を浴びたアルマの鎧が赤熱し、次第に溶け落ちていく。
「アルマ!避けるんだ!このままじゃ君が……」
ルークが叫ぶ。
それでもアルマは立ち続けた。
「この……
身の丈3メートルを超える巨体となったアルマが熱線を押し分けながらキマイラに突っ込んだ。
そのまま首根っこを抱え込んで地面に引き倒す。
「ルーク!!」
「おお!!」
アルマの叫びに呼応するように飛び上がったルークがキマイラに向かって剣を振り下ろす。
キマイラの3つある頭のうち全てを統括しているのは山羊の頭だとルークはとうに見抜いていた。
肉と毛皮と骨が断ち切られる重い音と共に山羊の首が宙に舞い上がる。
一瞬後、胴体が大きく痙攣したかと思うと力なく地面に崩れ落ち、動きを止めた。
「やった……のか……?」
尚も信じられないと言うようにタイロンが呟く。
やがてキマイラの身体から砂が舞い散るように魔素が流れ出してきた。
同時に
「倒した……」
「本当にキマイラを倒したぞ!」
「俺たちはダンジョンボスを倒したんだ!」
ようやくキマイラを倒したという実感がでてきたのだろう、ドームの中に勝利の雄叫びが響き渡った。
「ふう~」
ルークは大きく息を吐くと地面に座り込んだ。
象意剣を左手に当てると溶けるように崩れ落ちていき、義手に一体化していく。
強敵だったけど何とか倒すことができた。
それでも……
「僕は……まだまだだな」
喜びに沸き立つ討伐隊を見ながらひとりごちる。
「倒せたね」
その時頭上から声が響いてきた。
見上げるとそこにいたのはアルマだった。
当然ながら
アルマは地響きを立てながらアルマがルークの横に座り込んだ。
「凄いね、ルークは。本当にあのキマイラを倒しちゃうんだから」
「僕の力じゃないよ」
ルークは頭を振った。
「これはみんなの成果だよ。特にアルマ、君がいてくれたおかげだ。本当にありがとう」
「ルーク……そんなことは……」
「そんなことはないぞ、ルーク」
ウィルフレッド卿がルークの元へやってきた。
「君のおかげで私は祖父の敵を討つことができ、ダンジョンを我らの手に取り戻すことができたのだ。今回のキマイラ討伐は紛れもなく君の功績だ。誇ってくれなければ我々こそ立場がなくなってしまう。謙遜は美徳だが時に己の価値を正当に判断できぬ悪癖ともなるぞ」
「いえ」
それでもルークは頭を振った。
「僕は結局キマイラの最後の力を見誤っていました。もっと正確に解析できていればみんなを危険に晒すこともなかったはずです。今こうしてここにいられるのは僕の力ではなくみんなのおかげなんです」
「まったく君という奴は。どうやら私よりも遥か先を見ているようだな」
ウィルフレッド卿は苦笑するとルークに向かって右手を差し出した。
「それでも勝利は勝利だ。まずはその喜びを噛み締めようじゃないか。時にはそういう瞬間も必要だろう?」
「はい!」
ルークは力強くその手を掴むと立ち上がった。
「……それにしても、
「言わないで、聞かないで」
不思議そうに見上げるウィルフレッド卿の隣をズシズシと歩きながらアルマが首を振る。
「すいません、僕のせいで……」
衛士たちの元に戻ると何人かがキマイラのいた場所を囲んでいた。
みんな興味深そうに地面を見ている。
「見ろよ、キマイラのいた後に何か素材が残っているぞ。こりゃなんなんだ?」
キマイラは魔素となって宙へ消え、代わりに青い液体が広がっていた。
「これは……キマイラの血ですね」
「キマイラの血だと!?」
ルークの言葉にウィルフレッド卿が叫ぶ。
「だとすると……エリクサーの原料となる超希少素材ではないか!」
死人も蘇らせると呼ばれるエリクサーは最高級の魔法薬として大陸中で珍重されている。
しかし主原料がどれも入手困難とあって価格も恐ろしく高い。
「確か最近の相場だとキマイラの血は小匙一匙で金貨1枚だったはずだが……」
ルークは改めて地面に広がる青い血だまりを見た。
「ざっと金貨1万枚にはなるでしょうね」
「「「「うおおおおお!」」」」」
ドーム全体が歓喜の声に包まれた。
「集めろ!文字通り1滴残さず集めろよ!」
「凄え!キマイラの血なんて初めて見たぞ!」
「これはボーナスが期待できるってもんだ!」
「ルーク、本当によくやってくれた」
ウィルフレッド卿がルークの肩に手を置いた。
「おかげで借金も無事に返すことができそうだ。君の功績にはどう報いても報い足りないほどだな。このお礼は必ずさせてもらおう」
「いえ……」
言いかけてルークは言葉を止め、ウィルフレッド卿に笑みを向ける。
「そうですね、今はこの勝利を喜ぶことにします」
「そういうことだ!」
ウィルフレッド卿は力強くルークの肩を組んで豪快に笑った。
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