第27話:対キマイラ戦

「こっちだ!」


 ルークは飛び出しざまに再びキマイラに爆榴グレネードを放つ。


 効かないのはわかっている、これはこちらに注意を向けるための挑発だ。


 案の定キマイラは獰猛な雄叫びと共にルークを睨みつけた。


 獅子の口が大きく開け放たれたと思うとルークに向かって炎が射出される。


 ルークはすんでのところでそれをかわした。


 炎がかすめたケープが燃え上がる。


 ルークは地面を転がりながらそれを投げ捨てた。


 ルークの固有魔法解析はあらゆるものを調べ上げることができるが、それでも欠点はある。


 それは解析を完了するまでに一定の時間を必要とすることだ。


 敵の戦闘力、弱点を解析するためにはある程度攻撃を受けなくてはいけない。


「今回も苦労しそうだね」


 ルークが不敵な笑いを浮かべながらキマイラと対峙する。


 獅子の眼がちらりと横を向いた。


 その視線の先の岩陰には討伐隊が隠れている。


「させないよ……凍槍フロアランス!」


 ルークが凍てつく槍を撃ちだす……が、キマイラは空中高くジャンプしてそれをかわし、岸壁に張り付く山羊さながらにドームの壁にとりつくと、討伐隊の隠れる岩に向かって炎を射出した。


「しまったっ!」


 ルークが防御魔法を展開しようとした時、岩から飛び出した影が向かってくる炎をせき止めた。


「アルマ!?」


 それは巨大な盾を構えたアルマだった。


「ルーク、こっちは任せて!」


「駄目だ!危険すぎる!隠れているんだ!」


「そんなの嫌!」


 アルマが叫ぶ。


「私だってルークの役に立ちたい!言ったでしょ、2人で魔法騎士になるって!私はルークの後ろにいたいんじゃない!横にいたいの!」


 その言葉にルークの心が跳ねた。


(僕は……何を考えていたんだ?アルマを守るなんて、そんなこと一度でも彼女が望んでいたことがあったのか?)


(それに、僕がここにいるのだってアルマを守りたかったからじゃない、共に魔法騎士になりたかったじゃないか。死にたいくらいの目に遭っても生き抜いて、師匠の厳しい修行を続けてこれたのも全部それが目標だったからだ。それなのに僕ならアルマを守れるなどと、なんて傲慢な考えをしていたんだ!)



 壁から飛び上がったキマイラが巨大な山羊の蹄でアルマを踏みつぶそうと降ってくる。



「こん……のお……っ!」


 しかしアルマはそれを盾で受け止めてはじき返した。


 その隙にルークがアルマに駆け寄る。


「ごめん、僕が間違っていた。アルマ、一緒に戦ってくれないか。君と僕とで一緒にあいつを倒そう。僕らならできるはずだ」


 ルークの言葉にアルマが目を輝かせる。


「もちろん!私はそのためにここにいるんだから!」


「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ」


 2人は笑みをかわし、改めてキマイラに振り返った。



 体勢を立て直したキマイラはグルルルル……と不気味な唸り声を発しながら2人の前に立ちはだかっている。



 ルークは左手の長手袋を脱ぐと右手を添えた。


 刀を抜くように両側に開くとアダマンスライムで出来た義手の一部が一振りの剣へと形状を変える。


 これがルークの武器、意志に合わせて形を変える象意剣しょういけんだ。



「じゃあまずはあいつの弱点から突き止めることにしよう。アルマ、君は蛇の防御を頼む。僕は獅子と山羊の方をなんとかするから!」


「了解!」


 アルマが飛び出すと同時にルークが左手の指を弾いた。


閃光フラッシュ!」


 まばゆい光がキマイラの視界を奪う。


「ゴアアアアッ!」


「今だ!」


 視力を奪われてやみくもに暴れまわる隙にアルマがキマイラの後部に飛びかかる。


 手にした巨大な盾で横殴りにしようとした時、尻尾の蛇がアルマに毒液を吐きかけた。


「うわっ」


 慌てて盾で受け止めるも毒液を受け止めたところからドロドロと溶けていく。



「こんにゃろっ!」


 アルマは盾を蛇に向かって投げつけると鉄拳で殴りつけた。


 ガギン、と金属のような音を立てて蛇がのけぞる。


 しかし柔軟な体の蛇にはさほど効果がなかったらしい。再びおぞましい擦過音を立てながらアルマにその鎌首を向けてきた。


 そこへルークが駆け寄ってた。


「アルマ、大丈夫!?」


「大丈夫!……だけど、全然効いてないみたい」


「そうみたいだね。このキマイラは思った以上に厄介な相手みたいだ。頭が3つあるからあらゆる方向の攻撃に対応できるし動きも素早い。それに魔法耐性が信じられないくらい高くて全然効かない。一応物理攻撃は通じるみたいだけど回復力が恐ろしく早いみたいなんだ」


 キマイラの身体にはルークが付けたであろう刀傷が幾つもついている、のだが見ている間にも塞がりつつあった。


「どうする?魔法も通常攻撃も通らないんじゃ……」


「それは大丈夫。


 ルークは心配そうな顔をするアルマの肩に手を置いて笑いかけた。


「アルマ、今からみんなのところに行って伝言を伝えてくれないか?僕が合図をしたら一斉に攻撃を仕掛けてほしいんだ」


「でもそれじゃあルークが……」


 途中まで言いかけたアルマだったが、ルークの顔を見て意を決したように頷いた。


「わかった。でも無理はしないでね」


「もちろんさ。これはアルマを、みんなを信じているからやるんだ。さあ行ってくれ!」

 ルークがキマイラの前に飛び出した。


 その隙にアルマが岩陰に向かって駆けだす。


「さあ第2回戦開始だ!」


 ルークがキマイラに向かって凍槍フロアランスを放った。


 直撃する寸前にキマイラが飛び上がってかわす。


「この魔法はもう見てるわけだし当然そうするだろうね……でもそれはこっちも同じだよ。崩壊コラプス!」


 ルークの言葉と共にキマイラが取り付いていたドームの壁が崩れ落ちた。


 しかしキマイラは落下する直前に体勢を立て直して着地と同時に再び跳躍しようとする。


 ……はずだったがその直前に足下が砂のように崩れおち、どうと倒れ伏した。


 ルークがあらかじめ着地地点にも崩壊コラプスの魔法をかけていたのだ。


 獅子の喉が大きく膨らむ。


 炎を射出する気だ!


岩蔓拘束ロックアイビー!」


 岩が蔓に変化してキマイラの首を地面にからめとった。


 あらぬ方向へと撃ちだされた炎がドームの岩壁をえぐり取る。


 シャアアアッ!


 擦過音と共に蛇の頭がキマイラに躍りかかってきたが、紫電一閃、ルークが手にした象意剣が蛇の頭を切り落とす。



「今だ!」


 合図と同時に討伐隊が一斉に飛び出してきた。


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