第24話:アルマの強化
「ど、どうしたのルーク、こんな所まで来て」
アルマの声が緊張している。
ルークとアルマの2人は屋敷の裏手に広がる森に湧き出す泉のほとりに来ていた。
ここは子供の頃からアルマのお気に入りの場所だった。
「昨日散歩をしていて見つけたんだけど、ここって僕らが子供の頃に遊んだ場所じゃなかったかと思って」
「そう……だったかも……ううん、きっとそうだと思う」
アルマも子供の頃にここで知らない子供と遊んだ記憶が朧げにある。
まさかそれがルークだったとは。
アルマは信じられないと思うと同時に運命を感じる高揚感に包まれていた。
「なんだか不思議な感じだよね。僕らが子供の頃に会っていたなんて」
「そう……よね。これも縁なのかな」(縁どころか、これはもう絶対に運命よ!)
アルマはそう叫びたいのをなんとか我慢しながらルークの隣を歩いていた。
「あの木なんかもっと小さかったはずだよ」
そんなアルマの気持ちを知ってか知らずかルークは暢気に泉の側に生えている木を指差す。
「あれはラクサラクの木。私が生まれた日にお父様が植えたの。春になると花で木が覆いつくされて凄く奇麗なの」
「へえ~、そうなんだ。それは一度見てみたいな」
「本当に奇麗だから見てほしい!だから……春になったらまた来てほしい……な……」
「うん、また来たいね」
「ん……」
2人はラクサラクの根元に座り、無言で泉を見ていた。
「……そ、それで……ルークはなんでここに私を呼んだの?」
沈黙を破ったのはアルマの方だった。
ルークが軽く頷く。
「うん、できれば人目につかないところに来たかったんだ。それでここくらいしか思いつかなくて」
(ど、どういうこと?ルークが人気のないところに私を誘うなんてっ!)
アルマの心臓が早鐘のように打ち始める。
(ど、どうしよう!ルークとこの泉に来ることは前から妄想してたけど、まさかこんなに早く実現するなんて!)
「できるだけ秘密にしておきたくて。それにこれはアルマのためでもあるから。いいかな?」
「え?ええ……わ、私はルークが良いなら構わない、というか……」
(わ、私のため!?やっぱりルークは私と……ど、どうしよう!こんな普段着じゃなくてもっと可愛い恰好の方が!でもでも、ルークがその気だったら私は全然……!)
アルマの妄想が加速していく。
「はい、準備できたよ」
「はい?」
アルマが下を見ると両の腕に金属でできたブレスレットが付いていた。
妄想を募らせている間にルークが取り付けたらしい。
足を見ると両足首にも同じようなアンクレットが付いている。
「ダンジョン攻略に備えてアルマのために魔道具を作ってみたんだ。明日にはダンジョン攻略に向かうから、その前にテストをしてみたくてね」
「そ、そういうことなのね」
アルマはがくりと肩を落とす。
(そう言えばルークはずっと部屋にこもりきりだったけど、これを作っていたのね。しかも私のためになんて!)
アルマは改めてルークの作ったブレスレットとアンクレットを見つめた。
それは見たこともない素材で作られており、黒っぽい金属質な輝きを放っている。
「それにしても凄く奇麗。これが魔道具だなんて信じられないくらい」
「アルマの持つ固有魔法を更に強化するための圧縮装具で
「わ、わかった。ええと、フ、
その瞬間、アルマが光に包まれる。
正確に言うとアルマが身につけていた
そしてその瞬間、そこには身の丈3メートルはあろうかという金属でできた巨人が立っていた。
「うん、上手くいったようだね」
ルークが満足げに頷いた。
「アルマの固有魔法、《重装戦士》は常時発動型の魔法なんだけど装甲の多寡によってその効果が大きく変わってしまうという性質を持っている。普段から鎧を着ていれば良いかもしれないけどそれだと流石に不便だろうから、自由に呼び出せる鎧を作ってみたんだ。これなら普段から持ち歩けるからね。ついでにサイズも大きくしてみたから自由に動かせるか試してみてくれないかな?」
「な……」
鎧の奥からアルマの声が聞こえてきた。
「なんで私、裸になってるのよお~~!!」
巨大な金属の鎧の中、何故かアルマは素っ裸になっていた。
鎧の中は柔らかな素材に包まれており、体を動かすと巨大な鎧がそれに合わせて動く感覚がある。
それはまるで自分の身体のサイズがそのまま大きくなったような不思議な感覚だった。
ルークが作ったこの鎧に比べたら今まで身につけていたものなど身体を縛り付ける枷にしか感じられないくらいだ。
しかしそれはそれとして下着すら身につけていないのは落ち着かないどころではない。
「ごめん、アルマ」
ルークがため息をついた。
「僕が未熟なせいでどうしても鎧を肌の表面から顕現させるしかできなくて、結果として着てるものを全て引きちぎってしまうんだ。恥ずかしい思いをさせちゃってごめん、
「も、戻るって……私なにも着てないんですけど!」
「あ、ああ、そうだったね。ごめん、一応替えの服は持ってきてるんだ」
ルークは慌てて袋から替えの服を取り出すと鎧の隙間に滑り込ませた。
アルマは受け取った服を鎧の中でもぞもぞと着込んだ。
(鎧の中で自由に動けるのはいいわね。でも、なんで下着がないのかしら……)
「ごめん、メイドさんに替えの服を用意してもらったんだけど、し、下着だけはどうしても頼めなくて!」
外からルークの叫び声が聞こえてくる。
(ま、まあしょうがないかな。すぐに着替えればいいんだし)
まもなくして鎧が光を放ち、頬を朱に染めたアルマが現れた。
先ほどルークが渡したシンプルなワンピースを身にまとっている。
「もう、ルークったら。凄く恥ずかしかったんだから」
「本当にごめん!やっぱりこんな失敗作をアルマに渡すべきじゃなかったんだ。その
「それは駄目!」
アルマが胸の前に腕を組んで身をよじらせる。
「だって、これはルークが私のために作ってくれたものだから……それに、いざという時のために持っているのは悪くないでしょ?……は、裸になっちゃうのは……恥ずかしいけど」
「そ、そう……それなら僕の方はそれでいいんだけど……そうだね、確かにアルマが危険に晒された時にはこれが役に立つかもしれない」
「でしょ?それにしても凄い魔道具だよね。あんなに大きな鎧がこんなに小さくなっちゃうなんて。こんなの初めて見た」
「それは古代に失われた圧縮魔法を僕の《解析》で再現してみたんだよ。今はまだ上手くいかないけど、師匠ならもっと小さくて性能が良いのを作れるよ」
「そうなんだ……ルークの師匠って本当に凄いんだね」
「うん、師匠には全然敵わない。でも、僕だっていつかはもっとちゃんとしたのを作ってみせるから、それまで待っていてくれるかな?」
「わかった、楽しみに待ってるから!」
アルマが嬉しそうに頷いた時、森の中を吹き抜けた風がアルマの着ていたワンピースを大きくめくれあがらせた。
ルークの視界に
「~~~~~~!!!」
慌てて裾を押さえるアルマの顔が火を吹きそうなほどに赤くなっていく。
「……み、見た?」
「な、なんのこと?」
ルークの顔はあらぬ方向を向いているがその耳は真っ赤だ。
「うあ~~~~ん、やっぱり見たんだ~~~~!ルークの馬鹿ぁ~~~」
「や、やっぱりこれは問題がある!
「それは駄目ぇ~~!」
2人の声が森の中に響いていった。
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