第14話:アルマの固有魔法

「ルーク、急にどうしたの?こんなところに呼び出すなんて」


 アルマがもじもじしながらルークに尋ねる。


 時は夕方、場所はセントアロガスでも清閑な地区にある緑豊かな公園だ。


 真ん中に清らかな川が流れるこの公園は恋人たちが逢瀬を重ねる場所として密かな人気となっている。


 今もアルマの視界の端にはベンチで睦まじく語らっている若い恋人の姿が映っていた。


(ひょっとしてルークがここに呼んだのって……?)


 アルマの脳裏をピンク色の妄想が駆け巡る。


「うん、実はアルマに渡したいものがあるんだ。ちょっと待ってて」


 そう言ってルークが木陰の中に引っ込んだ。


 アルマの妄想がますます加速していく。


(……まさか?再会してから一月も経ってないんだし、まだ早すぎるんじゃ?でも……もしルークが本気だったら私も……どうしよう!なんて返事をしたらいいの?喜んで?私も愛してます?一生ついていきます?)



「はい」


 惚けているアルマの目の前がいきなり塞がれた。


「はい?」


 ルークが取り出したのは巨大な盾だった。


 衛兵隊に支給されている軽量盾の倍はありそうな、木と革と金属板で出来た実用度のみを追求した無骨な盾だ。


「こ……これは一体……?」


「うん、この一カ月観察してアルマの固有魔法がわかったんだ。学園では武器を強化できる剣戟強化と鑑定されていたけどそれは間違い、というか身体の成長と共に変わっていったんだろうね。今はこれがアルマの固有魔法だよ」


「……これとは……?」


「《重装戦士》だよ!アルマの固有魔法は装甲が強固になればなるほど身体能力が上がっていくんだ!そうそう、そのために鎧も用意してみたんだ」


 ルークは木陰から更に荷物を引っ張り出してきた。


 一人では着ることもできない重厚長大な鎧だ。


「セントアロガスの武器屋という武器屋を回って一番ごついのを探してきたんだよ。アルマの体形には少し合わないかもしれないけど、そこは固有魔法が補正してくれると思う」

 嬉しそうに説明しながらルークがアルマに鎧を着せていく。



 しばしの後、全身が金属でできた巨人とも呼べそうなアルマの姿がそこにはあった。



「うん、やっぱりぴったりだ。ちょっと動いてみてくれないかな?今のアルマだったら可能だと思うんだ」


「……」


 無言のままアルマがサイドステップを踏む。


 大の男でも動かすのに難儀するような鎧を身につけているとは思えないほどの軽やかな動きだ。


「次は腕を振ってみて!ワンツー、ワンツー!」


「……」


 ルークの言葉にアルマがシャドーボクシングをする。


 先ほどの盾が重い風切り音を立てながらブンブンと空を切る。


 当たればオークですら昏倒しそうな勢いだ。


「凄い!凄いよ!アルマ!やっぱり僕の思った通りこれがアルマの固有魔法なんだよ!しかも顕示宣言コーリングを必要としない常時発動型の固有魔法だなんて!これは本当に天与の才能だよ!」




「……いや」


 アルマの動きが止まった。


 ガシャリと持ち上がった面頬の奥にある顔には汗一つ浮かんでいないが、そこには今にも泣きだしそうな表情が張り付いている。


「こんなの……いやあああ~~~~!!」


 不意にアルマが叫び、脱兎のごとく駆けだした。


「こんなの……こんなの……可愛くないいい~~~~」


「ア、アルマ?」


 慌てて後を追いかけたルークだったが、アルマは既に点のように小さくなっている。


「こんないかつい格好……ルークに可愛いと思われないよ~~~」


 涙をポロポロこぼしながらアルマが走る。


 走っていく途中でぶつかった木が根元からへし折れていく。


「凄い……これだけの魔力を消費しているのに全く尽きる様子がない!アルマ、君は紛れもなく天才だよ!」


 そんなアルマの悲しみを知ってか知らずか、ルークは感歎の叫びをあげながら追いかけていくのだった。





    ◆





「はあ~、まさか私の固有魔法が《重装戦士》だったなんて」


 アルマが盛大にため息をつく。


「凄いことじゃないか。学園で使っていた《剣戟強化》なんか比べようもないくらい強力な固有魔法だよ。やっぱりアルマは凄い才能を持っていたんだよ」


「でも可愛くないし」


 尚もアルマはブツブツと言い続けている。


 2人は銀星亭に戻ってお茶をしているところだ。


「アルマの《重装戦士》の凄いところは防具を付けることで自身の肉体を強化できるだけじゃなく、身につけた防具の防御力をも飛躍的に高めるところにあるんだ。つまり強固な鎧を身につければつけるほどアルマは攻撃力も防御力も高くなっていくということだね。しかも常時発動型だから不意打ちにも強い。これはもう無敵と言っていいくらいだよ」


「でもそのためには鎧を着続けなくちゃいけないんでしょ?しかもあんなに厳つい……」

 アルマは恨めしそうに床に置かれた鎧を見つめる。


 ここ銀星亭までも鎧を着て来たのだ。


 確かに肉体的疲労は全く感じなかったけど気恥ずかしさときたら、穴があったら入りたいくらいだった。


「確かに鎧を着続けるのは現実的ではないね。就寝やトイレのたびに脱ぐのも大変だろうし、これは改善の余地があるかな……」


「いや、私が言いたいのはそう言うことじゃ……」


 考え込むルークを見てアルマがため息をつく。


「あの……」


 そこに銀星亭の娘、エリーがやってきた。


 手には一通の手紙を持っている。



「ルークさんにこれを渡してくれと頼まれたんですけど」


「僕に?」


 不思議そうな顔をしてルークがそれを受け取る。


「魔法や呪術の類は仕掛けられていないね。でも僕がここに泊まっていることを知っている人なんかそうはいないはずなんだけど……って、これは!?」


 渡された手紙を開封したルークはそこに書かれていた署名を見て驚きの声を上げた。


「トリナル・トリプルズ!?」


 それはトリナル・トリプルズからの手紙だった。


 そしてそこにはこう書かれてもいた。


 ― 貴殿に決闘を申し込む。ランパート公ご息女と共に北の森に来られたし。断るようであれば貴殿がランパート公ご息女に行った行為に関して告発する ― と。


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