第13話:3人の活躍

「そこまでだ!」


 薄暗い酒場にアルマの声が響き渡る。


 その声にテーブルについていた4人の男たちが一斉に振り向いた。


「あなたたちにはヴィクティム商会を襲った強盗の容疑がかけられている。大人しく投降しなさい」


 その声に立ち上がりかけた男たちだったが入り口に武器を構えたシシリーがいるのを見て動きを止める。


「なんのことだ?さっぱり話がわからねえな。善良な市民を捕まえて強盗呼ばわりたあずいぶんな物言いじゃねえか、ああ!?衛兵如きがよお!」


 しらばっくれたように男がうそぶく。


「大体俺らは何も持ってねえんだぜ?身体検査でも何でもやってみろや。その代わり俺たちが無実だったらどうなるかわかってんだろうなあ!?」


 男たちは口々に罵詈雑言を飛ばしながら椅子を蹴飛ばすように立ち上がる。


「そこにはないでしょうね。ここにあるのですから」


 その時カウンターの奥から聞こえてきた声に男たちがギョッとしたように振り返った。

 それは重たそうな革袋を手にしたルークだった。


「バーの主人には眠ってもらってます。おそらくここの主人が押し入れそうな店の情報を集めてあなた方が実行するという役割なのでしょう。今なら奪った金を返して自首すれば多少は罪も軽くなると思いますよ」


「ふざけんじゃねえ!てめえら如きに邪魔されてたまるかよ!」


 いきなり男がアルマに襲い掛かった。


 その手にはテーブルの裏に隠してあっただろう手斧が握られている。


 アルマが左腕の手甲で手斧を防ぐ。


 重い音と共に手斧は弾き飛ばされ、同時に掌底が男の顎に炸裂する。


 数分後には男たち全員が床に這いつくばっていた。



「固有魔法が使えないという割には凄いね」


「そ、それはまあ、ルークに鍛えてもらったんだし」


 感心するルークにアルマは頬を染めながら得意げに胸を張った。


「剣技体術だけだったらアルマは衛兵隊トップクラスだもんね。ついたあだ名が漆黒の狂戦姫バーサーカー


「だ、誰がバーサーカーよ!」


 シシリーの軽口にアルマが真っ赤な顔で叫ぶ。


「まあまあ、とりあえず一段落したことだし、連行したらまた巡回に戻ろう」


 男たちを縛り上げながらルークは苦笑を浮かべた。





    ◆





「かんぱーーーい!!!」


 酒場に乾杯の声が響き渡った。


 グラスを打ち鳴らす音の後に喉を鳴らす音が響き、それから歓喜の溜息が続く。


「くはーーーー!!仕事の後の1杯は堪らないね!」


 シシリーが大きく息を吐きだしながらグラスをテーブルに叩きつけた。


「ちょっとシシリー、行儀が悪いってば」


「いいじゃないの!今日くらいは無礼講よ無礼講。すいませーん、こっちエール追加で!3つね!」


 シシリーは追加のエールを頼むとテーブルに両肘をついて正面にいるルークを見た。


「それもこれもルークのおかげよね~」


「いや、それほどでも」


 グラスを傾けながらルークが答える。


「それほどどころじゃないよ!今日だけで逮捕が5件、5件よ!?もう最っ高!それもこれもルークのおかげ、いやルーク様のおかげでございますよ!」


 シシリーが深々とお辞儀をする。


「ちょっと、シシリーってば」


 たしなめるアルマだったがその頬は緩んでいる。


 アルマ・シシリー班は午前中だけで窃盗犯逮捕を2件、午後は窃盗1件に違法売買を2件逮捕と衛兵隊で歴代最高の成果を上げたのだ。


 アルマにとっても今日が最高の日になったのは同じだ。


 そしてそれは全てルークのおかげだった。


 犯罪の痕跡を解析して犯人を追跡する、ルークがいなければ解決は不可能だっただろう。


「でもほんと凄いよね、現場を見ただけですぐに犯人の居場所を突き止めちゃうんだから。ルークがいたらこの街の犯罪なんか1カ月もしないうちになくなっちゃうんじゃない?さ、ルークも飲んで飲んで!」


「喜んでもらえてなにより……と言いたいんだけどそれはそれで少し問題かな」


 シシリーに新しいグラスを手渡されたルークが苦笑を浮かべる。


「できれば僕はあまり目立ちたくないんだ」


「そうなの?このままいけばほっといても街の英雄になれるのに。追い出された学園とか叔父さんを見返してやれるかもよ?」


「いや、そういうのに興味はないんだ」


 ルークは手を振った。


「復讐したところで過去が変わるわけじゃないしね。それよりも変に目立つせいでトラブルに巻き込まれることを避けたいんだ。2人にも迷惑がかかるかもしれないし。とはいえ犯罪を見逃すわけにもいかないし……どうしたものかな……」


 ルークは顎を摘まみながらしばし黙考し、やがて何かを思いついたように顔を上げた。


「こういうのはどうかな?僕は今日と同じように解析をしていく。でもその結果を2人から他の衛兵に回してもらいたいんだ。これなら犯罪を防ぐことができる。2人の成果にはならないから申し訳ないんだけど」


「え~、そんなのつまらないよ。がーっと逮捕しちゃおうよ」


「私はルークに賛成」


 口を尖らせるシシリーをアルマがなだめる。


「このまま私たちだけが成果を上げていったら他の衛兵たちから嫉妬やあらぬ疑いをかけられるかもしれない。そうなると仕事だけじゃなくて私生活にも影響が出てくると思う」

 学園で嫉妬と羨望を一身に受けてきたアルマの言葉には重みがあった。


「そうだね、それに犯罪者たちから目をつけられる可能性も高いだろうね。それを防ぐ意味でも犯罪者の逮捕は衛兵隊全体に分散させる方が得策だと思う」


「う~ん……確かにそれも一理あるか……ま、いっか!そっちの方がリスクが少なそうだしね!」


 商売人の娘だけあってシシリーは損得勘定の見極めが早かった。


「それじゃこれからはルークが調べた結果をそれとなく他の班に流して逮捕はそっちにやってもらうということで。でも時々はうちらも逮捕していいんだよね?でないとかえって不自然になっちゃうし」


「それはもちろん。その辺のバランスも僕の解析で行っておくよ」


 それを聞いてシシリーは満足そうに頷くとグラスを持ち上げた。


 ルークとアルマも後に続く。


「それじゃあ改めてうちらの輝かしい未来に……かんぱ~い」


 そして再びグラスを打ち鳴らす音が酒場に響き渡ったのだった。


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