3同じような症状で集まる女性たち
「まず初めに健康診断から始めていきたいと思います」
ネットで見つけたバイトは、見事に採用された。応募してから一週間後、採用通知のメールが届き、さっそくその次の週に、実乃梨は指定された病院に足を運んだ。病院ではまず、健康診断をやることになった。
会社で健康診断を毎年行っていたが、どこかが悪いという結果になったことはなく、健康体そのものだった実乃梨は、病院での健康診断も問題なしと言われるだけだと思っていた。
一通りの検査を終えて、待合室で待つように言われた実乃梨は、おとなしく自分の名前が呼ばれるまでスマホで時間をつぶすことにした。平日の午前中の病院には人がおらず、実乃梨の他に待合室で待つ患者の姿はなかった。
実乃梨と同じ治験のバイトを申し込んだのは他にも数人いたようだ。実乃梨の名前が呼ばれるまでの間、どこも悪くなさそう健康体の三十代くらいの女性が三人ほど、病院の奥からでてきて、実乃梨と同じように待合室で待っていた。
「栄枝実乃梨さん、診察室に来てください」
三十分ほどで、実乃梨の名前が呼ばれる。スマホを閉じて席を立ち、診察室に向かった。
診察室に入ると、そこには先生以外にも、二人の女性が診察台に腰かけていた。その後、先ほど待合室で見かけた三十代くらいの女性三人が診察室に入ってきた。
その場に集められたのは、実乃梨も合わせた六人の女性だった。全員、実乃梨と同じように年齢が三十代くらいに見えた。
「あなた方には、特異体質の原因を突き止めるための協力をお願いしたい。二十年程前から、見た目が変わらないという患者さんが増えるようになりました。それに伴い、出生率の低下も著しくなった」
六人の女性を前に話すのは、白衣を着たこの病院の先生だった。健康診断の時に顔を見かけた。五十代前半だろうか。年相応に顔や手にしわが刻まれている。
「そのために、治験のバイトと称して君たちを採用した。君たちにはいくつかの質問に答えてもらう。健康診断の結果を見ながら、一人一人とカウンセリングをして、どのような理由で年を取らなくなったのか、考えていきたい。他にもいろいろな検査をしてもらう予定だ」
「延命治療の新薬開発の治験のバイト、ではないのですか?」
「間違いではありません。あなた方の協力次第では、人間の寿命を延ばすための延命薬の開発も進むはずです」
先ほどの実乃梨に声をかけた女性が先生に質問する。先生が回答すると、女性は納得したのかそれ以上の質問をすることはなかった。
「今から問診票を配りますので、正直に回答をお願いします」
看護師の女性が診察室にやってきて、実乃梨たちに問診票が配っていく。そこには、家族構成、生活習慣、趣味、特技など様々な項目が設置されていた。その場で回答するよう言われた実乃梨たちは、仕方なく質問に答えていく。その中に、六人全員が顔をゆがませた質問があった。実乃梨を含めた六人全員が行き詰る質問でもある。
『異性と性行為を初めて行ったのは何歳ですか?』
実乃梨は思わず、その部分を鉛筆で黒く塗りつぶしたい衝動にかられた。こんなバカげた質問に意味はあるのだろうか。ちらりと周りの反応を確認すると、どうやら回答者全員、実乃梨と同じ気持ちだったらしい。微妙な表情をした女性たちの姿が目に入る。
「記入が終わり次第、提出してください。提出した方から、カウセリングを始めます」
実乃梨が提出したのは六番目だった。質問に答え、顔を上げるとすでに診察室には看護師以外に人が見当たらない。正直に答えて欲しいという言葉を真に受けて、質問に答えていたら、思いのほか時間がかかってしまった。
「そんなに緊張しないでください。あなた方のような不可解な症状の患者さんが増えていることに対して、やっと政府が対策に乗り出したんですよ」
カウセリングのために指定された診察室に入ると、先生が実乃梨に笑いかける。
「政府?ですか」
「では、さっそく本題に入りましょう。問診票をもとに質問をさせてください。質問するだけでは私だけが情報をもらっていて対価として合わないので、あなたも、自分の特異体質について私に質問があれば、何でも聞いてください」
実乃梨の問いは無視され、彼女と先生のカウセリングが始まった。
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